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どうする依存症対策①

これでいいのか依存症研修会

★日本における医療改革の大きな柱の一つは包括的な医療制度の構築だと理解している。2018年6月15日に公表された内閣府の「平成30年版障害者白書」には、前年までなかった「依存症対策の強化」が盛り込まれた。
しかし一方で、同年5月14日付で依存症対策全国センター長の名前で書く精神科医療機関に送付された「平成30年度 依存症治療指導者養成研修、依存症相談対応指導者養成研修及び地域生活支援指導者養成研修の開催について」という案内書では、「アルコール依存症研修」「薬物依存症研修」「ギャンブル等依存症研修」というように、三つの依存症に対する研修が異なる日時で分割されて案内されている。これには非常に失望した。

★私は、これら研修会の前身である1976年開催の「第1回アルコール中毒臨床医研修会」を受講している。当時私の指導医であった国立療養所久里浜病院・河野裕明副院長(後院長)から、「アルコール依存症を診ること、それすなわちAll About Psychiatry(精神科のすべて)である」という教えを受けたのを記憶している。
そして、それから50年余りの時を経て、精神科疾患は「精神障害を有する方」から「精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方(以下「~抱えた方」)」へと大きく疾病構造が様変わりしている。もちろん依存症も「~抱えた方」だ。しかも、「依存症」はアルコールのみでなく、薬物、ギャンブルと多彩になっており、今後は、ゲーム、クレプトマニア(窃盗)等々と広がりを見せるのは明らかだ。
よって、依存症対策における『依存症治療指導者養成研修、依存症相談対応指導者養成研修及び地域生活支援指導者養成研修』とは、まず「依存症」とは何かの理解からまず始めてほしいものだ。

★ところが、厚生労働省は、毎年以下のような案内を自治体経由で精神科病院等の関係機関へ送り続けている。

*令和6年度「依存症治療指導者養成研修」、「依存症相談対応指導者養成研修」及び「地域生活支援指導者養成研修」開催のご案内
1 依存症治療指導者養成研修
都道府県等の依存症専門医療機関等において依存症の治療に当たる医療従事者を対象とした、専門性を向上させるための研修です。
 
2 依存症相談対応指導者養成
都道府県等の精神保健福祉センター等において依存症の相談支援に当たる職員を対象とした、依存症患者や家族等からの相談への対応力を強化するための研修です。
(1)アルコール依存症研修(治療指導者養成研修/相談対応指導者養成研修)
①研修日時:令和7年1月16日(木)~1月17日(金)
 
(2)薬物依存症研修(治療指導者養成研修/相談対応指導者養成研修)
①研修日時:令和6年7月9日(火)~10日(水)
 
(3)ギャンブル等依存症研修(治療指導者養成研修/相談対応指導者養成研修)
①研修日時:令和7年1月23日(木)~1月24日(金)
 
(4)ゲーム依存研修(治療指導者養成研修/相談対応指導者養成研修)
①研修日時
<治療指導者養成研修>
(第1回)令和6年10月3日(木)~10月4日(金)
(第2回)令和7年2月6日(木)~2月7日(金)
<相談対応指導者養成研修>
令和6年11月28日(木)~11月29日(金)
 
3 地域生活支援指導者養成研修
(1)アルコール依存症研修(地域生活支援指導者養成研修)
※回復施設職員研修の初日と共通プログラムです。
①研修日時:令和7年2月17日(月)
 
(2)薬物依存症研修(地域生活支援指導者養成研修)
※依存症治療指導者養成研修、依存症相談対応指導者養成研修の初日と共通プログラムです。
①研修日時:令和6年7月9日(火)
 
(3)ギャンブル等依存症研修(地域生活支援指導者養成研修)
①研修日時:令和6年11月14日(木)
 
ブリーフ・インターベンション&HAPPYプログラム研修会のご案内について
このことについて、別添(写)のとおり、独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センターから案内がありました。

★現在進められている『依存症治療指導者養成研修、依存症相談対応指導者養成研修及び地域生活支援指導者養成研修』とは、これまで何度も紹介してきているが“松本俊彦VS信田さと子”の対談で信田さと子が指摘している

「~治療や支援がことごとくパッケージ化していることです。CRAFTやスマープもそうですよね。アメリカから輸入されたこのようなプログラムは~~~、力量に自信のない人たちが、とりあえず「専門家」であると思えるメリット~~」

松本俊彦 × 信田さと子
「掘下げ対談 アデクションアプローチとハームリダクション」
【『Be! 137』 ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)、Dec.2019】

に尽きる。

*令和6年度 第1回 ブリーフ・インターベンション&HAPPYプログラム研修 
令和6年7月13日(土)
趣旨
アルコール健康障害対策基本法が施行され、生活習慣病予防や、飲酒運転、うつ・自殺対策などとも密接に関連する多量飲酒者対策は、わが国の喫緊の課題となっている。多量飲酒者に対する飲酒量低減法としてのブリーフ・インターベンション(Brief Intervention)は、欧米諸国では1980年代から医療現場などで数多くの研究が行われ、その有効性はすでに確立されており、平成25年度からは特定健診・特定保健指導プログラムにブリーフ・インターベンションが減酒支援として取り入れられた。
本研修会では、ブリーフ・インターベンション技法の基礎を学ぶとともに、その補助ツールとして当院で開発したHAPPYプログラムと集団節酒指導プログラムを、職域、地域、医療の現場で多量飲酒者に対する減酒指導に使用できるようにすることを目的とし、ロールプレイを含め実践的な研修プログラム内容とした。
なお、本研修会の修了者には、HAPPYプログラムと集団節酒指導プログラムが提供され、両プログラムDVDの使用権が与えられる。
遠隔地からの受講がしやすいようにオンラインでの開催とした。

★以上、アルコール健康障害対策基本法の施行に伴い実施されている多量飲酒者に対する飲酒量低減法としてのブリーフ・インターベンション(Brief Intervention)等の研修会についてだが、これも一言。スタフォード大学医学部教授アンナ・レンブケは次のように述べている。

「~過去に依存症の診断基準に当てはまってしまっていた人・・・、・・・重度にまではいっていなかった人には、自分の好きなものを制御しながら使うことができる人がいるという証拠も出てきている。私の臨床経験でも、これは正しかった。」

『ドーパミン中毒』=「DOPAMINE NATION」
       著 アンナ・レンブケ 訳 恩蔵綾子 新潮新書 2022年

と。私も半世紀あまり依存症当事者と向き合う中で、彼女と同様の臨床経験を持っている。だが、飲酒量低減法としてのブリーフ・インターベンション(Brief Intervention)といった研修は受けてはいない。

結び
『依存症治療指導者養成研修、依存症相談対応指導者養成研修及び地域生活支援指導者養成研修』についての私の提言。
*精神科医療従事者、関係機関の担当者の「否認の問題」への取り組み。つまり「苦手意識」対策が重要な課題。それは「ウィークネスフォビア」の自覚です。

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