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[ 転がる消しゴム、落ち着け、オレ ]:シロクマ文芸部(読む時間)

↑↑コチラのお題に参加しました。
秋ですねぇ、まさに読む時間にはぴったりの季節です😊♪


画像:かえるWORKS/illustAC


[ 転がる消しゴム、落ち着け、オレ ]

 読む時間がない!
 今は数学のテスト中。
 シャーペンと消しゴムにカンペを潜ませてきた。
 対策は完璧だ。

 しかし、

 今日のテストはなんなんだ。
 先生が教壇にいて、教室の前と後ろに試験官が対角線を描いて巡回している。
 これではカンペを読む時間がないじゃないか。

 テストの終了時間が迫るなか、解けない問題が殆ど。
 この一群の問題は、シャーペンのカンペで解けるはず。
 こっちの問題は、この消しゴムで導き出せるのにぃ。

 クソーっ!

 あ、ヤバイ!
 勢い余って、握りしめていた消しゴムを飛ばしてしまった。

 ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
 教室の床をカンペ入りの消しゴムが転がる。

 見つかったら怒られる。
 いや、停学? もしかして退学?

 先生を見る。
 教壇にいて気づいていない様だ。

 試験官は確認できない。
 あー、どうしようー。

 転がっていた消しゴムが、生徒の机と机の間にできた通路で止まる。
 ひとつ斜め前の席。
 よりにもよって、オレが一方的に好意を抱いている理央の席ではないか!

 理央は成績優秀の、所謂、リア充グループの一員でクラスでも、いや学校中でも人気者だ。
 オレが好意を抱いたところで、グーの根もでやしない、まさに高嶺の花。
    対するオレは、本が好き数学嫌いの文学学生。
    タイプが違すぎる。

 入学してからずっと、なるべく近くにいる様にしているが、基本は、こうやって距離があるところから眺めることが多い関係だ。
 いや、そんなの、関係などと呼べるものでもないのかもしれない。

 それはそうと、なんでよりにもよって、理央の席で止まるんだ、オレのカンペ入りの消しゴム。
 オレは、消しゴムと理央の後ろ姿を交互に見るしかない。

「先生ー!」

 えっ、

 理央が手を挙げた。

「消しゴムを落としたので、拾ってもよろしいですか?」

 えーっ!

 先生の許しを得て、理央が消しゴムを拾う。
 その流れる様な一連の所作が、可憐で美しい………などと文学的に浸っている場合ではない。

 理央がオレの消しゴムを拾った。
 中身を見られたら、カンペが入っているのがバレてしまう。

 どうしよう。
 理央、先生にチクるかなぁ。

 でも、今、自分の消しゴムが落ちた感じで拾ったから、カンペが入っているのがバレたら、責められるのは理央なのでは。
 成績優秀で学校で人気者がカンニングしていたなんて、新聞部が飛びつきそうなネタだ。

 そうなったら、理央は停学? まさか退学?
 もうオレは理央に会えない?

 あー、オレはなんてことをしてしまったんだー。
 頭を抱えて机に突っ伏すと、空白の解答用紙が視界を覆う。

 どちらにしろ、オレは終わりだ!

「うっ、うん」

 誰かの咳払いが小さく聞こえた。
 オレの脳は、咳払いをした人物をあっという間に割り出した。
 そして瞬時に頭を起こし、視線を斜め前の席にいる理央に向けた。

 理央の背中が見える。

 ん! アレは!

 理央の右肘の下から、答案用紙が見えるではないか。
 しかも見えているのはカンペがなければ、もはや解答不可能と思われていた問題だ!

 何が書いてあるか、ここからでも読める、読めるぞ!

 落ち着け、オレ、落ち着け。

 先生は、相変わらず教壇に座っている、いや、寝てるのか?
 それはどっちでもいい。
 試験官は、それぞれの席についている様子だ。
 よし、読むなら今だ。

 理央の文字、読みやすい綺麗な文字。
 書き写すだけでは、書きもれで辻褄が合わない式になり、カンニングしたことがバレる可能性が高まる。
 ここは解き方を理解して、それから解答用紙に記入する方が得策だ。

 フムフム、分かる、分かるぞー!!
 フムフム、なるほどー──。

 ──そう展開すればいい訳か。
 なるほど!

 おぉ、なるほどー! そこで伏線回収か!
 ほぉーほぉ、なるほど、流石は理央だ。
    へぇー、そうきますかー!!!

キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪

 えっ、えっ──、

「ハーイ、机から手を下ろしてください、解答用紙を回収しまーす」

 ─────。

 どうやら、オレの読む時間は終了したようだ。

 終わったー………、本当に、終わった…………。

 途方にくれるオレ。

 視線はずっと理央の方に向けられていた。

 視界には理央の後ろ姿。
 振り返る理央。

 えっ?

 オレと視線が合う。
 そして、イタズラっぽく笑う。

 えっ、えっ、

 なに、その笑顔。
 初めて見たよ、そんな笑顔。

 理央は笑みを浮かべたまま、前を向いた。

 えっ、なに?

 えっ、

 ドキドキしていた。
 とてもドキドキしていた。

 机の上の白紙の範囲が広い、オレの解答用紙が回収された。

 なんか……、いろいろと……、

 なんか、とりあえず、落ち着け。
 オレ!


おしまい

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