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[ 梅ちゃんという名 ]:シロクマ文芸部(梅の花)

↑↑こちらの企画に参加しました〜
ウメちゃんと呼ばれる女の子が主人公のショートショートです😊♪


画像:miho.panda/illustAC



[ 梅ちゃんという名 ]

「梅の花だって、だせー」

 学校帰りにそう言われて「またか」と思う。
 あたしの名前は梅花うめか、小さい頃から「ウメちゃん」と呼ばれている。
 小さい頃は笑顔で返事してたけど、3年生くらいから自分でも分かってきて、周りも気づき始めて「ウメだって」と笑われることが多くなっていった。
 いつも新学年になって、新しいクラスメイトが増えるとバカにされる。
 今もそう、初めて会った男子生徒から言われた。
 ま「梅の花」をだせー、って言ってきたのは、少しオリジナリティがあるけど……
 5年生にもなって、人の名前を揶揄からかうなんて親の顔が見てみたいよ。
 ついでに、自分の娘に梅花なんて名付ける親の顔も見てみたい。
 まぁ、毎日見てるけど。

 ムカつきながら、下校の道をひとりで歩いていると、後ろの方から「オイ」と呼び止める声が聞こえた。
 男子の声だった。
 無視した。

「オイってば」

 と、しつこく呼んでくる声には聞き覚えがあった。
 家がすぐそばのユウトだ。
 無視したところで、同じ方向へ歩いていく。
 めんどくさいけど「なによ」と返事をしてみた。

「さっきの、気にすんなよな」

 はぁ? あー、さっき「だせー」って言われたことか?

「気になんかしてないよ」

 と言ったけど、嘘をついたことは自分がよく知ってる。
 ユウトとは、近所ということもあって、小さいころからよく遊んでいた。
 あたしが「ウメちゃん」と呼ばれて笑顔で返事をしていたことも知っているはず。
 それでか、ユウトはあたしの名前をバカにしてきたことはない。
 いや、ただ単に鈍感で、ウメにお婆ちゃんの響きがあることに気づいてないのか?

「オレは、好きだよ」

「は?」

 思わず立ち止まり、ユウトの顔を見る。なに言ってんの?

 ユウトは続けて話す。

「ウメちゃん、って呼ばれてるの、可愛いって思ってる」

「はぁ?」

 なんだよコイツ、告白でもすんのか?
 さらにユウトは続ける。

「オレ、調べたんだ。梅ってね、春の訪れを花を開くことで真っ先に教えてくれるんだ。しかも、見た目だけじゃなく香りでも教えてくれる。やがて体にいい実までつけてくれる」

 なにが言いたいんだい?
 ユウトは喋り続けた。

「こんなに人間に優しい木は、他にはないと思うんだよオレ」

「ふーん」

 としか言えない、だからなんだ、とも思う。

「でさぁ、梅の花の花言葉、知ってる?」

 え? 梅にも花言葉なんてあるの?

「忠実、高潔、忍耐、だって」

「なんだそれ」

「なんか、ウメちゃんらしくない?」

「あたし? って、ウメちゃんっていうな!」

「あ、ごめん、優木さん」

 と、ユウトは申し訳なそうに言い直してから、

「うん、ダセー、って言われても、平気な顔してる優木さん、っぽい」

 っぽい、って言われてもなぁ。

「だから、オレは好きだよ、梅花」

 おい、だからそれじゃ告白だろって!
 でも、まぁ……、

「ありがとう、そこまで調べてくれて……」

 好きとか告白とかじゃなく、単純に、わざわざ調べてくれたことに対する感謝だよ。

「あ、よかった、笑った」

「笑ってねーし」

 と、言って歩き出す。

「よかった、よかった」

「うざっ、着いてくんな」

「へへへ、オレんち、こっちなんだわー」

 ったく、めんどくせーやつ。
 少しユウトを睨みつけてから、

「ま、いいか」

 と、無言で帰り道を歩いた。

 梅は優しい木。
 あたしの名前は「優木梅花」。
 少しだけ、自分の名前が好きになったことは、ユウトには内緒にした。


おしまい

#シロクマ文芸部


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