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退職日記 ーあほと煙は高いところにのぼるー


2023年8月31日

私は職場の病院で
看護師として退職の手続きをした。
有休消化のための書類も書いた。

滞在時間は15分程度だった。
15分。

やり終えて、5キロ走った気持ちになった。
バレー部所属の高校時代の自分なら、連続で20キロだ。
いや、盛ってしまった。15キロ走った後だ。


疲れて地に足ついてない感じがした。
座った方がいいのは知ってる。
でも足を止めたくない。
せ、青春。がそこにあった。



じっとしてられない私は、高いところに登りたくなった。



高いところに登りたい。それだけ。
この単純なヤバさがいい。


いい感じに突き抜けれそうだ。




でもパソコンが使いたい。
リュックに重いパソコンが入っている。


職場に行くまでに京都駅のカフェで
zoomで講習を受けた。


講師とのやり取りが活発で
ぶつかり稽古のような講習だった。

このおもしろい講習の振り返りがしたかった。



パソコンが使えるコンセントのある小川珈琲に入った。


好きなんだ、小川珈琲。
いつからすきになったんだろう。



1人目の育休を経て
復職後に寄ってから好きになっちゃったな。


朝に30分以上早く職場の最寄り駅に着いて

駅地下の小川珈琲に入った。



こどもと離れて1人になって

ほっとしたのはいいけど、

仕事がうまくできるのか不安が襲ってきて、
落ち着くためにホットコーヒーを注文した。



店員さんが注文したブレンドよりも、
こっちのちょっとお高めなコーヒーにすると

無料でカーネーションを渡している。
と説明してくれた。




カーネーションをもらいたくて
ちょっとお高めなコーヒーを注文した。



5月だった。
母の日に合わせた素敵なプレゼントだった。



母になって1年の母の日イベントは、家族で祝うことはしなかった。

復職したてで身体も心も忙しく、文字通り心が亡くなっていた。

毎日を必死に生きて稼ぎ、こどもを生かした。


母の日に
私がカーネーションをもらっていいの????



テーブルに座りコーヒーに手を付けるよりも先に、
一輪のあかいカーネーションを持って
しげしげとながめた。

まじでしげしげ。
いろんな角度からカーネーションを見た。

においはしなかった。
コーヒーのにおいが勝ったのだろうか。


カーネーションを手にとれたことが嬉しかった。

毎日の私の頑張りが

当たり前ではないと言ってもらえたような気がした。


それで、小川珈琲が好きになった。





しかし、今日の小川珈琲はコンセントの席が埋まってた。
行けそうな感じがしたが、断念だ。
また来るね。


すぐに高い建物のカフェに行こうと思い

そこに見えてる京都タワーに入った。


なんと、京都タワー内の
スターバックスコーヒーも割と埋まっていた。

コンセントの席もキチキチだ。

平日ぞ。
平日の京都は、観光客がどんどん戻ってきていた。京都にとっていいことだ。



ぶつかり稽古の講習を思い出すことを止めて
もう、いっそ高いところに行こうと決めた。

よくわからない意地も出てきて、座らんぞという気持ちがどんどん強くなる。



アホと煙は高いところが好き
と聞いたことがある。

いいじゃないか。いいじゃないか。
まさにここだ。

京都タワーよ、私を高みに連れて行ってくれ。


京都タワーは高さ131メートル

100メートルの位置にある展望台からは
京都が一望できるらしい。



展望台に登るため軽やかに900円を払う。
小さい鞄に入った、小さい財布の中で
軽く3つ折りになった1000円札を受付のスタッフに渡す。

おつりの100円をそのまま小さな鞄に入れた。
財布に小銭をしまう時間も惜しい。
私は今すぐ高いところに登りたいのだ。



煙のように、実体なく、ふわふわとしたこのあほな気持ちにストップは効かない。




バーンと展望台に着いたエレベーターから出た。

「京都市街で一番高く、地上100メートルにある展望室からは京都三山に囲まれた古都京都の市街地が360度見渡せます。時間、四季によって様変わりする京都の絶景をお楽しみください。」

https://www.kyoto-tower.jp/enjoy/
京都タワーHPより


高い。

高いけど私にとってはこわくない高さだった。
ちょうどいい高さだ。ありがとう京都タワー。


観光客はそこまで多くない。
ギチギチは苦手だから助かった。


無料望遠鏡で
有名な寺の参拝者を見て、
あべのハルカスも見た。


京都タワーのマスコットキャラクター「たわわちゃん」




思っていたより高揚感はない。
なぜだ。
高いところについた時点でもう満足してたんだ。

どこまでわかりやすいんだ。

900円分楽しんでしまった。




さあ降りよう。


滞在時間は10分くらい。
今の私には薄情なくらいがよさそうだ。


降りる途中で、無料の写真撮影をしてくれた。

小さいサイズは無料でもらえて、
それが気に入ったら
大きいサイズを販売しますよというものだった。



写真を撮ってすぐに無料の写真が出来上がり受け取った。

写真販売のおねえさんが
「晴れてる、いい笑顔、ポーズも素敵」
というようなことを言った。


きっといつもの三拍子なんだろう。
それでも、うれしいものである。



次は大きいサイズを見せてくれた。
はがき大のサイズで画質の上がったもので額に入っている。


買わん~。
となったので断って、順路に沿って帰ろうとしたが
ピーンと直感が走った。
「買え。」と。
まじかー!!!となった。



勝手にひとりで右往左往。1秒もなかった。


「やっぱり買います。」


買いますと言ってから、おねえさんに値段を聞いた。
たぶん、さっきも値段を言ってくれていたが
私の耳はスルーしてた。


値段を確認して買った。


写真写りがいい。
撮影してくれた人の腕がいい。
可愛く撮ってもらったから

退職祝いとした。



初めて京都タワーに登った記念に写真を買った。




京都タワー、関西人はあまり登らないのではなかろうか。

京都人はとくにそうだ。
いつも見えてる京都タワーに登る人は少ないのではないか。


「わざわざ」登らない京都タワーに登って
「わざわざ」記念写真を買った。



退職と有休消化の手続きをした後は
すぐ家に帰らず
謎めいて、単純な動機で行動をとったほうがいい。



記念写真を購入し、エレベーターを待つ間
スカイラウンジなるものが目についた。


うわ~スカイラウンジで一杯したい。


カウンターで
床に足の着かないタイプの高い椅子にすわって
謎の青いカクテルを一杯飲みたい。


行こうとしたが17時からだった。今は14時台だ。




ラウンジだもんな~。
ラウンジって夜が似合うよな~。
ラウンジで青い酒を飲みたかったよな~。

私の中の志村けんが悲しそうな顔をする。



寂しい気持ちを少し抱えて、
電話をかけた。
姉だ。

まだ手続き後でふわふわしているから、姉としゃべって地に足をつけたい。


姉には休職や退職などいろいろ相談していた。
実は姉には、母について書いた
noteも読んでもらってる。



私の母は厳しく子育てをした。
その母経験者は、姉と私しかいない。


姉は優しい。懐も大きい。
私は人間の器がペットボトルの蓋くらいだ。
5mlくらいしか受け付けない。

最近は、もう少し大きくなった気がする。
いけいけどんどんが増えたから。
スタバのあのでかくて白いマグカップくらいにはなってそうだ。



姉は器がそこらへんの湖くらいある。

めちゃくちゃ自慢の姉だ。
ちょっとした観光スポットみたいな人だ。



ペットボトルの蓋の私は、よく姉の湖で休んでいた。
姉の湖で、私のように休む人は多い。




同じ親に育てられたが価値観が違う姉に
私の書いた文章の感想をもらいたいのだ。


あと、もう一つ。
姉はあまり小説などを読まない。
仕事と無関係の長い文章にあまり耐性のない姉が
noteを読んでおもしろいと思うのか気になった。



姉と電話をしていると腹痛が刺し込んだ。
なんたる試練。


高いところに登って

姉の声をきいたらお腹が動き出した。


迷走神経反射で数秒意識が遠くなった。


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