『プリズン・サークル』

島根県にある官民協働の刑務所内を撮影したドキュメンタリー。そこではTC(Therapeutic Community)というプログラムが日本の刑務所で唯一行われている。TCは受刑者同士の対話をベースにして自分自身や置かれている状況、犯した罪に向き合い更生を目指すというものである。そこでは自分自身のことを言葉にすることが求められる。
この映画を見て、人間が生身の人間としてものを考え、行動する時、自分で自分の言葉を紡ぐことの尊さ、重要さを痛感する。受刑者は虐待、差別、いじめなど受けてきた被害を言葉にして向き合うことになる。そうして初めて被害者に思いをはせ、自分の罪と向き合うことができる。
「中動態」という概念を思い出す。私たち社会は、彼らが罪を犯した時点を始点として、責任を彼らに帰すだけで許されるのか。厳罰を科し、刑期が終わるとその「責任」は果たされたことになるのか。
別の刑務所から来た一人の受刑者が、毎日罵倒されるような環境では被害者のことなど考える余裕はなかったと言っていた。私たちが本当に彼らに更生や二度と犯罪をしないことを望むのなら、その力での支配という価値観を解除しなければならないのではないか。しかしこの価値観は刑務所内の珍しいものではなく、残念ながら社会のいたるところで見ることができる。
映画の最後は、「暴力の連鎖を止めたい、すべての人へ」という言葉で締められる。私たちの側に投げられるものは多く、重く、逃げることは許されない。

https://www.temporary-cinema.jp/prison-circle/

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