見出し画像

好きこそ

初めて就職したときの話を書こうと思う。

そのお店を知ったのは社長のコラムをたまたま雑誌で見つけたという何でもない理由だ。しかし、私はそのコラムを読み感激し「この人みたいになりたい!ここに行かなきゃ!」と今思うと恥ずかしいくらいにまっすぐな思いを胸に抱いた。

週末には雑誌を片手にど田舎から片道2時間半かけてその憧れの場所に降り立った。

店内に入ると長身の店員さんがにこやかに「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。

「うううううううわああああああ、雑誌で見たやつ――――本物―――!!」と舐め回すように商品を長時間見ていた私にしびれを切らした店員さんは

「あの・・同業の方ですか?」と不審そうに声をかけてきた。

えっ、さっきまであんな素敵な営業スマイルだったじゃん。と少し悲しくなりながらも、
現在就活をしている学生であること。このお店を雑誌で見てここまで来た事。

お店の商品が大好きであること。社長に憧れていて一緒に働きたいという思いを上ずった声で一生懸命に話した。

すると、「社長に連絡とってみましょうか?」と、とんでもなく素敵な提案をしてくれた。

「おねがいしまっす!!」とラグビー部もびっくりするような返事を返すと、さっそく社長に連絡をしてくれその日の午後に会えるように段取りをつけてくれた。

ど田舎で母の作ってくれた朝ご飯を食べていた朝には、まさかその日の夕方に雑誌の中の憧れの人に会えるとは全く思わなかった。

しかし、商品を舐めまわすように見つめ熱意をぶちまければ、こんなことも起こるんだと時間まで公園のベンチでぼーっとしていた私はしみじみと考えた。

約束の時間になり指定された場所に向かうと小柄だが意思の強そうな眉毛の女性がそこにいた。

緊張で心臓が飛び出そうになりながらも、「ここで働かせてください!!」と千と千尋方式でとにかく熱意をぶちまけた。

すると、「あ、人足りてるから大丈夫」とさらっと返された。

今でも思う、もう少し溜めてそういうことは言ってほしかった。

というか、社長に会えるようになった時点で何かしらの良い返事がもらえるのではと、
期待をしていた私はあっけにとられてしまい言葉が出てこなかった。

しかし、そこで食い下がらないのが若さである。

「もし、人を取ることがあったらここに連絡ください!!バイトでもいいです、土日ならいつでも空いてます!!」と近くにあった紙ナプキンに名前と住所、電話番号を書き社長に手渡した。

無我夢中だった。なんで紙ナプキン?もっと他に紙があるだろ、履歴書持ってくるべきでしょ?と思う方もいるかもしれないが、そんなものの用意はしてこなかった。

なぜなら、憧れのお店をただこの目で見たい。と言う気持ちのみで朝家を出たからだ。

その後、ど田舎に帰るとあっという間に学生生活は過ぎていった。

就職できなかったらどうしよう。わたし、ニートになるの?と不安になりながら
過ごしていたある日「あ、欠員出たからバイトくる?」と社長から電話があった。

大事なことを何でもないように言うのが社長の特徴なのかもしれない。

その日から平日は学校に通い、金曜日学校が終わると二時間半かけ東京にある店に出向き朝から晩まで働き社長宅に一泊し、日曜夜の終電でど田舎に戻るという日常を送った。
長期休みの際は、大きな荷物を抱えて1週間社長宅に泊まり仕事をしたこともしばしばあった。

その後働きが認められ、めでたく正社員として春から入社することが決まった。

今思うと、自分すげーなと感心する。

アラサーになった私は今同じことをしろ言われたら即刻逃げ出す。

金を積まれてもやるかどうかは微妙だ(当時は15時間近く働き1日5千円のバイト代だった)

でも、好きと言う気持ちが自分の行動を変え現実を変える力になるということは
この体験から得た学びだ。

根性論や精神論はあまり好きではないが、どうしたって熱意が人を動かす瞬間と言うのは存在すると思う。

のちに、この仕事はやめてしまうのだが「好きなことを仕事にする」と言う幸せな経験が出来たことは私にとってかけがえのない財産となった。

#就職
#初めて
#仕事
#好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?