見出し画像

生の芸術

大学の先輩である弓指寛治さんが「Oの慰霊」という作品で準グランプリを受賞したからということで、岡本太郎美術館でやっている岡本太郎現代芸術賞展を観に行っていってきた。

岡本太郎美術館があることは知っていたけど東京にきてからも一度も行ったことがなく、存在だけの場所だったけど、結論として今この時にほんとうに行ってよかった。

弓指寛治さんは、母親の自死をきっかけに、死者とその周りにいる残された人々の為の慰霊の絵を書いている作家です。
今回の「Oの慰霊」は1986年に亡くなったアイドル岡田有希子さんの自殺と、それを取り巻く残されて今も生きる人々を題材にして描かれた5x5mの大作。
その作品の周りには2万5,764羽の鳥が描かれた絵馬が無数に壁に掛けられているんですが、これは弓指さんのお母さんが亡くなった2015年に自殺で亡くなった人の数と同じです。

これだけの数の絵馬を作って鳥を描くだけでも相当な労力と、なにより時間が必要になるものだけど、自殺の周りに残された人々すべての人を受け止める気持ちで作品を作っている弓指さんにとっては、これくらいのことはやらなければならないという覚悟があったのだと思います。その覚悟を見せつけられたし、その壮大さに圧倒されて、何かを感じずにはいられないという動揺を体験した。

この絵馬に描かれている鳥は、すべての鳥が金色の輪っかを持っています。
この金の輪っかがめちゃくちゃ刺さって、すごく痛いんだけど、これだけの数の金の輪っかが鳥に運ばれて上に登っていっている姿が感動的ですらある。


当たり前のことだけど、自殺していった人たちにも生前それぞれの生活があって、人生があった。
最後は自殺という選択をしてその人生に自分で終わりを決断したわけだから、その間際はどうしようにもどうにもならないという絶望に、救いがなくて出口の見えないどん底に追い詰められていたんだと思うけど、その人生にはキラキラした輝きが必ずあったはずだ。だって生きていたんだから。

ただ生まれて、ただ生きて、ただ死んで、終わり。その繰り返し。
クールに見れば人の人生とその歴史なんてそんなものと言われてしまったらそれまでだけど、僕はそんな簡単なことだとは思わない。
だって、生きていくということは周りの人との関係があるということだから。
人が生きていくには誰とも一切の関係を持たずに生きていくことはフツーに生活していれば不可能で、生きている人がいる限りその周りには影響を与え合う「関係」が生まれるはず。
その関係こそが、その人が生きていた証でもあり、生きることの意味でもあり、人生そのものでもある。
一人の人間が存在したという証明が、その人だけの色となって残る。

人が死んでも、その人の生きていた証としての色は残された人々の中にだけ残る。
関係したその一人一人が感じた、その人に対する自分なりに感じた色で、その人に対する情念や印象は文字通り生き続けているはずだ。
それはどんな形や色であれ、輝きを持ったものだ。(輝きが希望に向いたものや、美しいものでなくても、その人自身の色が必ずあったはず。)
この、残された人々の中に思い思いに残った情念こそが、一人の人生そのものではないだろうか。

そんな輝きというか、その人自身が「関係」した人々との情念が、最後は望んでいなかったその終わりに、多彩な鳥とともに今まさにこの場において等しく昇華されていくと感じた時に、鳥肌が立って勝手に涙が出てきた。(花粉症がひどかったせいもあったかもしれない。)
それは、一人の人生の生きた証を想うと共に、それをたった一人で請け負おうとした弓指さんの芸術家としての、というより一人の人間としての生き様に心が動かされたからだろうと思う。
一人の芸術家としての覚悟を思いっきりぶつけられて、こっちも胸が熱くなった。

震災の時も思ったけど、人が死ぬという事実は毎日繰り返されている日常で、命が生まれる限りはそれと同じだけ起こる当たり前のことだけど、それを単純に数で捉えることはできない。
その周りには関係を持っていた残された人達がいるわけで、その人達の数だけそこに他の人には共有できない形の、言葉になる以前の純粋な物語があったはずだ。
それを想うと人が死ぬという事実は、残された人々にとってこそ意味を持つものだという気がする。

死ねば終わり。どんなに苦しくても、やはり人は意識と身体で生きているから死ねばそこですべてが終わる。けれど、残された人はその動かせない事実を受け止めながらその後も生きなければならない。
そんな重大な想いを一人の人間が受け持っている姿は、誤解を恐れずにいうなら、
美しい生き方だと思う。


・・・

会期中(4/15日(日)まで)の土日は作家本人の弓指さんの会場にいるみたいです。
(同時期に個展の準備もあるみたいなのでいない日もあるかもしれません。)

作品とは裏腹に弓指さん自身はものすごく気さくで誠実感溢れる人で、ユーモアも交えながら話してくれる人なので、是非観に行って、できれば本人の話を聞きながら作品を見てみてください。気軽に話しかけたらなんでも話してくれます。
本人の口から話を聞くとまた作品も違ったものに見えてくるはずです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?