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Dataful Day vol.3〜データ活用で切り拓く、カスタマーセントリックな企業文化〜 に参加してきた!

こんにちは。中村綾香(@niloiv51)です。

2019年9月18日(水)に開催された、ウィングアーク1stさん主催のコミュニティイベント「Dataful Day vol.3」に参加してきました。
今回は、その中のスペシャルセッション、弘子ラザヴィさんが登壇された「データ活用で切り拓く、カスタマーセントリックな企業文化」のイベントレポートです。
なんだか久しぶりにカスタマーサクセス関連のイベントに参加した気がします…!

WingArc User Group & Community 「nest」とは
Data Drivenを加速するために、ウイングアークと共に邁進する方々のコミュニティ。同じ興味・課題を持つ”人” での交流により、互いに刺激を与え学び合える場として、ウィングアークさんが運営されています。

弘子さん(@hiroko_csj)は、先日「カスタマーサクセスとは何か」という本を出版されました。
私も拝読し、サクセスについてもやもやしていた部分をスッキリとさせてくれ、この本がSaaS業界以外にも広くあまねく読まれるようになったら、素敵な世界になりそうだなと思っており、そんな弘子さんのお話を直接伺う機会をとても楽しみにしておりました!
みなさんもぜひ、読んでみてくださいーーー!!

では、早速セッション内容に入っていきます。

----------------------------------------------------セッションパート

■スペシャルゲスト
 サクセスラボ株式会社 代表取締役 弘子ラザヴィさん
■モデレーター
 ウイングアーク1st株式会社
 執行役員 マーケティング担当 兼 マーケティング統括部 統括部長
  兼 ビジネスマーケティング部 部長
 久我 温紀さん

今回のセッションでは、久我さんがモデレーターとして「カスタマーサクセスとは何か」をベースとして、日本におけるカスタマーサクセスについて弘子さんの本に込められた思いを交えて紐解いていきました。

01.リテンションモデルの台頭

カスタマーサクセス勃興の背景について語られる時「サブスクリプションビジネス」について触れられることが多いですが、著書では「リテンションモデル」という言葉が使われています。
なぜ弘子さんは「リテンションモデル」という言葉を選んだのか。

それは、
サブスクリプションビジネスかどうかに関わらず重要な概念だから。

そもそも「サブスクリプション」とは、"利用したサービスに対して定期的に支払う"という単なる課金モデルのことであるため、もう少し大きな概念として語りたく「リテンションモデル」という言葉を使った、と。
#Zuoraの創業者ティエン・ツォが著書サブスクリプション」で語る”サブスクリプションモデル”という言葉は、課金モデルとしてではなく固有名詞的に使われてるよ、とのこと。

ちなみに、会場にいらっしゃった方々で、サブスクリプションでサービスを提供されているのは1割くらい(SaaSも同様でした)。
もし「サブスクリプションモデル」という言葉を使ったとすると、自分達には関係ないよねと思われる可能性もあるのも、もう1つの理由としてあげられていました。

02.リテンションモデルの定義が生まれた背景

そのリテンションモデルについて、著書の中で、以下のように定義されています。

1.利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う
2.利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくてすむ
3.利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダクトが常に最新状態に更新・最適化され続ける
4.利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す

この定義が生まれたのは、大企業の方々とお話しされている中で、その方々から「ちゃんと定義してくれ!」と言われたことがあり、その方々と協議しながら定義が生まれたとのこと。
(弘子さんは経営コンサルのキャリアが長いのです)

03.リテンションモデル台頭の背景

リテンションモデル台頭の背景には、大きなデジタルシフトの波があり、これは一部の業界・業種が影響を受けるのではなく、全企業に影響があることです。著書内でも触れられているのですが、久我さんがそちらをまとめてくださったのが、以下のスライド。

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上記の赤レーンが現実に起きていることで、その背景にはデジタルシフトによる環境・ユーザーの変化があります。

世の中のデジタルシフトにより、情報の非対称性がなくなり、情報武装がなくなり、限界費用も0に近づいていく。
更に桁違いのデータが得られるようになり、それを活用している人(企業)が勝つ時代になってきている。しかもそれは静的な属性的な情報ではなく、行動データ、カテゴリではなく個人として特定できるデータ。
それを活用することにより、ユーザーにとって無くてはならない存在になっていくことが重要で、そのために「カスタマーサクセス」が重要になってきています。

04.リテンションモデルへシフトする企業、業界

Adobeがパッケージ販売からサブスクリプションモデルへの移行へ大きく舵を切り、成功させてきたことはご存知の方も多いと思います。
この移行の過程で、初年度こそ並走期間を設けたものの、その後は思いきって一切のパッケージ販売を止めたそうです。
この背景には、人は慣れている方を選択する傾向がある、ということがあります。この改革はAdobeというベンダー企業にはもちろん大きな変化を求めましたが、ユーザー側にも大きな変化を促すことになり、そこに対してメリットを伝え続けることに注力してやり切ったことが評価されています。
#ちなみに久我さんも最後のパッケージを買い 「これであと数年は」と思っていたらしいですが、途中でAdobeCCを使い始めたら便利さに止められなくなったとか。

リテンションモデルは、買った後にどんどん良くなっていきます。
かつてアップデートが年に数回しかなかった頃、その販売に向けマーケ・営業・サポートなどあらゆる労力をかける必要があることに、Adobeは危機感を抱いていました。ところ販売モデルを変更しサービスをソフトウェアにした瞬間に、その労力がなくなり、ソフトをより良いものにしていくことだけに時間をかけていくことが出来るようになったそうです。

最近はMicrosoftのビジネスモデル変更にも注目が集まっているようです。
アメリカにはTSIA(Technology Services Industry Association)という協会があり、所属会員が各自の情報を提供し、それをTSIAが分析し4半期にごとにレポートを出しています。
このレポートでMicrosoftのビジネスモデルの変更が上手くいっている模様が見て取れているそうです。
サブスクリプションモデルへ移行する際は、一時的に売り上げが下り、コストが増加すると言われ、その形が魚に似ていることより”フィッシュモデル"と呼ばれています。

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この魚をいかに小魚にできるようマネージ出来るかが肝で、これがMicrosoftではかなり上手くいっているとのことです。
この変革は、大企業でもビジネスモデルを変革することが出来ることを実証するもので、多くの企業に勇気を与えているとのことです。

05.モノとコトのリテンションモデル

著書でもTESLAについて、自動車メーカーではなく、ソフトウェア会社であるということが語られています。
TESLAに乗るのは、自動車ではなくパソコンに乗っている気分になり、自動車メーカーであるTOYOTAの競合には考えられないと。

著書内では、ハリケーン発生時のTESLAの対応について記載されていますが、最新のソフトウェアのアップデートでは、制限速度を超えると音でお知らせしてくれるようになったそうです。

そして、数週間前にTESLAからのお知らせで「自動車の損害保険」を始めたとのお知らせがあったそうです。上記アップデートでもあるように、TESLAは全ての個人(車体)の走行データや運転の癖も知っています(弘子さんの著書の中でも、保険を始めるのではないかと言及されていました…!)。ただその後、1週間で損害保険サービスは終了となったそうです。
おそらくメーカーであればこのように乱暴に始めてやめることはしないはずで、トライ&エラーするのはソフトウェア会社の発想だなぁ、と。

06.リテンションモデルの重要力学「カスタマーサクセス」

かつては日本でも「商いは買ってもらった後が大切」とよく言われていました。カスタマーサクセスはこの概念と同じです。

昔は商店街の魚屋さんがあり、その店員さんは直接会ったことがないお父さんの好物を知っていて、おまけをしてくれたりしていました。
なぜそんなことをするのか、それはまた買いに来て欲しいから。これが今のカスタマーサクセスに繋がっています。

昔は個人商店が多くて商圏も狭くて個々のお客さんの顔が見えていた。ただ、今は"企業"という大きな単位になったことで、当たれる範囲が広くなった反面、お客さん一人一人の顔は見えづらくなっています。
けれどもデジタルシフトの中で、大量のデータがお客さんの状況を知ることができるようになった、これを元に顧客の状況を慮ることが必要なんだよね、ということです。

商いが大きくなると、チャーンも発生してきます。その時に新規に注力すると、成長のスピードが鈍化します。

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新規にばかり目を向けるのではなく、既存の顧客を守りそこから積み上げていくことが結局は近道です。
スタートアップも最初は新規に目が行きがちなことが多いそうですが、3年くらいはこれくらいで持っていけるけど、それ以降はチャーンを改善しないと厳しい、と。

そして、そのカスタマーサクセスのスケーラビリティについても触れていました。セールスフォースが採用している営業のベストプラクティス"THE MODEL"では、営業の各プロセスを要素分解していますが、弘子さんはこの受注後のプロセスにカスタマーサクセスが携わる「育成・支援」のプロセスを加えたモデルを提唱しています。

着目すべきはその要素。
カスタマー数 × オンボーディング/アダプション率 = 成功したカスタマー数

カスタマーサクセス担当の人数は含まれていないのです。
なぜならいいビジネスモデルは指数関数的に伸びていくが、そこにカスタマーサクセス担当の採用は追いつかないはずです。
なので、カスタマーサクセス担当の人数を要素として入れずに、どう成功数をあげていくのか、このためにデータを活用する、というのです。
ここにしっかり投資が出来るのかが肝になってくると。ツールを入れたり、データサイエンティストを採用したり、オペレーションチーム(データ分析を専門とするチーム)を組成する、など。そしてリアルタイムにデータが見えていてチューニングしていくことがとても大切だそうです。

例えばDropboxは、顧客の活用データを徹底的に収集・トラッキングし、そこにAIを入れているそうです。
#もともとDropboxがAIの会社だったということを初めて知りました …!
元々は営業観点から始めた活動で、アップセルやクロスセルのシグナルを20−30個定義し、AIでアクションを当てていきながら、これだというものが見つかると営業を投入して劇的な成果をあげているのだそうです。

07.リテンションモデルの成功要因

前段でも触れられていた通り、リテンションモデルでは「データ」が最大の武器となっていきます。
Dropboxのように、会社/カスタマーにたくさんのセンサーをつけて、どういったシグナルをキャッチしてアクションするか、どんどんトライアンドエラーする必要があると。

そしてカスタマーサクセスのあり方として、「ReactiveではなくProactive」と言われていますが、アメリカではすでに「Predictive」の世界が実現されているそうです。
もちろん一足飛びにはたどり着けないが、ここを目指していくべきだと。
要はAmazonのレコメンドと同じで、因果関係分析(Proactive)ではなく認知行動分析の世界。本人も気づいていないニーズをキャッチし提供していく世の中になっていくでしょう、と。

そして"Effortless"ということがとても重要だと。
カスタマーにとって重要なのは、先回りしてサポートしてくれることでも親切にしてくれることでもなく、一番重要なのは”Outcome"です。そこに、しっかりストレスなくたどり着けることが重要なのだと。
Boxのカスタマーサクセスを立ち上げたCCOジョン・ハースティングさんも「Making cusotomer delightfull is insufficient」と語っているそうです。
単にカスタマーサクセス担当が感動的な体験を提供したとしても、カスタマーに「あたたは好きだけどプロダクトはね…」と言われてしまう可能性がありますよね。
何より、"Effortless"はロイヤリティと相関するが、感動・満足とロイヤリティの相関は弱いという調査結果もあるそうです。

08.カスタマーを考える組織(カスタマーセントリックな組織)

カスタマーセントリックな組織としてカスタマーの状況をデータで見ていくには、

データを使える状態にする→分析レベルをあげる→データ活用の専任者を配置する

といったステップが必要となってきます。

重要なことは「投資が必要だ」という認識を中期で持つこと。
もちろんROIを見る必要があるが、見えにくいことが多い、ただそこで「ROIが見えないから投資しない」という判断は”死”を意味する、と…!

そしてさらに、データもテクノロジーもあくまで手段だから、顧客をしっかり見にいく必要があり、これにはチェンジマネジメントが必要だと。
そしてチェンジマネジメントはトップだけが変わるのではなく、組織一人一人のマインドセットを変えること、そして一人一人が納得する組織や業務プロセスを導入すること。

これから日本でもこの波が起こるはずなので、データ・テクノロジーを活用して顧客に向き合っていけたら、素敵な世界になりそうですね!

QAセッション

最後に、Sli.doで集められた質問に答えていただきました。

■日本の(特に大企業)の代理店販売モデルにおける、カスタマーサクセスを成功させるポイントはありますか?
パートナーサクセスということだと思うが、これは一段難しい。
代理店自身がベンダーと同じ思いでCSの重要性を認識していることが重要。
これは代理店モデルが多い日本のチャレンジかもしれない。
まず一番初めに重要なのが、ベンダーがカスタマーのサクセスをしっかり定義して認識していること。

■カスタマーサクセスの成果はどのように測るのがベストでしょうか?NPSやCSATなどがありますが、実際にそれがアップセルに繋がっているのか確実に見えるのでしょうか?
CSのROIを測る方法についての質問だと認識した。
そもそもCSをやれているのであれば、カスタマーの成功を定義して、それを測定可能な指標で定義して、それを定期的にカスタマーとレビューできている状態だと思う。これがまずはできていないと、カスタマーサクセス活動が成功していると言えない。
これがうまく行っていて、カスタマーも満足していれば、自然と売上も上がってくるはず、という考え方。

■カスタマーサクセスと顧客満足(カスタマーサティスファクション)は同列・同等と捉えられるものでしょうか?全く別のものつぃて認識するべきでしょうか?
全く違う。
アメリカでは、satisfactionは主要なKPIにはならない。確認要素程度になっている。

■顧客の成功は一度決めたら変わらない?見直す?
プロダクトの複雑さにもよるが、複数パターンを用意しているところもある。また、それを実現できる理想のカスタマーを定義して、それ以外に売らない企業もある。

■ソフトウェアや自動車、家電などではリテンションモデルへのシフトが想像しやすいですが、食べ物、飲み物のリテンションモデルはどのような形になるか、お考えをお聞かせいただけますでしょうか?
アメリカだと定期的な冷凍食品の配達とかがあったりするし、日本でも食材の定期配達があるのでは?(会場から"オイシックス"との回答あり。)
結構はじまっているのでは?

■日本のサービスはアメリカのサービスの質が異なると思いますが、日本でのカスタマーサクセスはどこを気をつけるべきでしょうか?
これは私の論点となっているところ!ぜひ会場のみなさまから意見をいただけたら嬉しいと思っている。
海外では、日本のおもてなし文化がamazingであり、Cusotmer is King(God)が体現されているという評価がある。
また、日本ではサービスやプロダクトへの希求水準が高い。
そんな日本のカスタマーサクセスってどうなっていくのか、海外はとても注目している。
データドリブンだけど、最後のタッチは人間的な要素が入ってきたりしそう、と思っている。
日本のサクセスを海外に発信していきたいので、ぜひ教えて欲しいです!

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お話のベースが弘子さんの著書「カスタマーサクセスとは何か」となっているので、ぜひ未読の方はお読みいただけると、より理解をふかめていただけると思います!

カスタマーサクセスの管理ツールにご興味ある方は、こちらもぜひ👇



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