アンダーマイニング効果って知ってますか
余命宣告をされた夫の兄は、病院の個室で膨れたお腹を出してみせた。
腹水が溜まっているというお腹を、彼は自らなでる。「もう立つんもしんどいわ」と話すのだが、それは穏やかな面持ちだ。
今回のお見舞いは三男がわたしら夫婦とともに「俺も行く」と言ってくれて、3人で彼を見舞った。
三男が小さかった頃、彼の家にいくと、彼は「コーヒーいれたろか?」とよく言ってくれた。それが彼の口ぐせで三男にとコップになみなみのコーヒーをだしてくれた。
彼はテーブルの上のお菓子をこの時とばかりに頬張る三男を笑って見ていた。
それから15、6年は三男と彼とは会っていなかった。
同じようなコーヒーの記憶が末娘にもある。末娘は"コーヒーのおじさん"のお見舞いに2年ほど前のコロナ禍にわたし達夫婦とともに3人で、入院中の彼に会いにいった。その時はしっかりと自力で立ってガラスの向こうで手を振ってくれた。
それなのに…。
今回、娘はお見舞いに行けなかったが、彼は娘の名前を口にして「元気か?」と言ってくれた。
三男がそれに答え、「はい、妹は元気にしてます」と敬語で言った。
わずかばかりの面会時間だったが、
同じ部屋の同じ空間で話しができた。
彼は、姿形が夫とよく似ている。兄弟だから当たり前だが、ベッドに横たわる彼を見てわたしは、人間の生や死を考えずにはいられなかった。
繊細で優しい性格の三男もきっと何かを考え思っていただろう。
三男は5年前にわたし達夫婦が暮らす家を出て、京都で暮らしている。病院からは少し遠いのに、三男が「俺も行く」とお見舞いに一緒に行ってくれたその優しい気持ちがとても嬉しかった。
わたしが三男に「電車代やら、なんやらかんやらかかったお金…」と言って経費よりはるかに多いお金を渡すと、
「いや、ええよ。いらんて。」
「アンダーマイニング効果みたいになるやん。」
と言った。
「アンダー……えっ?なんて?なんやのそれ?」
というわたしに三男は
「そんなつもりはないから。お金とかいらんから。」と微笑んだ。
アンダーマイニング効果とは
■過剰正当化効果
ともいわれる
人の行動には「動機づけ」がある。
この動機づけは2種類ある。
❶ 内発的動機づけ
自分自身がその活動に対して楽しみや意味を感じ、自発的に取り組む状態。
❷ 外発的動機づけ
外部からの報酬によって活動に取り組む状態。(また、罰則の設定や、ノルマ設定などもそれに含まれる。)
《ある実験》
内発的動機づけは、本来人間に備わったやる気であり、外的な要因に左右されにくい性質を持っているが、お金や名声といった報酬が与えられると、人間の心理はどうしてもその喜びや刺激を求めるようになってしまうという。
もともとは使命感ややりがいに基づいて行動を起こしていたとしても、その行為に報酬を与えられた途端、内発的動機が外発的動機へと変化し、その結果、行動の目的が「やりがい」ではなく「報酬」へと変わり、モチベーションが低下してしまう。
そういえば「子どもが勉強すること」ってやらされてすることじゃない。良い学校に行けるからとか将来良い会社に入れるとかでもなく親が喜ぶからとかでもなく、
自分がやりたいからやる、勉強に面白さを見出せたらどんどん知識を増やせるだろう。
さて、話しをもどして三男にあげたいお金だが、
三男の優しい気持ちが嬉しくて何かしてあげたいという親の気持ちは
どうすりゃいい?
世の中難しい。
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