かくれんぼ

もの陰に隠れたはずが見つかった。
ここなら完璧だと思ってた。
目の中に入ってくる世界が全てだと思ってた。
目の前に大きなものがあれば体も全部隠せるとか思ってた。

目に入るものが全てじゃない。

僕の世界は誰も見れない。

僕もみんなの見てる世界を見ることはできない。

「お前中心に世界が回ってるわけじゃないんだよ」

母に叱られやっと気づいた5歳。

自分の目を疑った。
聞こえる音も感じることも、
見えてた世界全てに
「ほんとうにそこにいるの?」と問いかけた。

言葉に嘘があるのなら、世界に嘘があったって変じゃあないだろうと思った。

僕は幼稚園で、いつもおいてけぼりの子だった
クラスの子たちに、先生に、置いてかれては透明人間になったようで悲しくなって、トイレへ駆け込んだ。「おいてかないで」って。
みつけてほしくて。

「くっさいなぁ」

「きたないな」

僕は汚いのが大嫌い。虫が嫌い。
こんなこと言ったら虫が可愛そうかな。お花の葉っぱも触れない。土遊びもあんまり好き好んではしなかった。

でもここにいるしかないから考えるの
ここに居たいから。

みつかるまで。

みつけてくれるまで。

もしも。

この世界の「綺麗」と「汚い」が、反対に見えているとしたら。

この汚いトイレの壁は、もしかしたら本当は綺麗に光っているのかもしれない。
この嫌な匂いも、本当はとても良い匂いなのかもしれない。

…だとしたら、綺麗なあの空は?
僕の大好きな綺麗なお人形さんは?

反対言葉って怖いなぁ。
怖い暗い空とボロボロの人形にみんな変身しちゃった。

もしも。

もしもの話が本当だったとして、
みんなみんな反対こになっていることに気づかないで生活しているんだとしたら

狂ってるのは世界じゃない。僕らだ
嘘つきは世界じゃない。僕らだ

汚いものを見たくなくて、目を閉じたいのに開かなきゃいけない。聞きたくないよやめてよ嫌だ嫌だってしてるうちに、本当に見えなくなったんだ。
きっとそうだ。

僕の綺麗好きも、はんたいこだったら
汚いの好きになるのかな。変なの。

いつのまにか幻覚と幻聴の中生きてた。

幻。…かっこいい。

まぁ、もしもの話だよ。
本当なんてないよ、わからない。
じゃぁ嘘もないかな、わからない。

そもそも『素敵』とか『綺麗』とかって本当にあるのかな。

僕が見ている世界とみんなが見ている世界が違うのなら、どれが素敵で綺麗かなんて一緒になるわけないよね。

僕が汚いと感じるものを
『綺麗』と感じる人がいたっておかしくない。

あ、だから喧嘩になるんだね。


そんなことぐるぐる考えながらトイレに籠ってる僕は、きっとおかしな子。

いつも泣いて出ていくはずなのに、たのしくて
いつもより、ずっと居られる。


今日は、みつけてくれるかな



足音がする



先生の声だ。

僕の名前を呼んでる。




みつかった



良かった。


透明人間じゃなかった


やっとみつけてくれた


ねぇ先生きいて?

僕ね、初めて泣かないでここに居られたの。

ずっとはんたいこしてたんだ。
たのしかったよ。


ねぇ先生、

どうしたの

なんで怒ってるの?

その怒った顔も、反対こしていい?

はんたいこのがもっとかわいいよ。











タイムスリップしちゃった。


#もしもの話

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