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ヤングケアラー

最近、ニュースや新聞などで、「ヤングケアラー」という文字に触れる機会が増えてきた。それだけヤングケアラーの方たちの現状が少しずつ表面化し、問題として認識されてきたのだと感じる。
今回、「子供・若者ケアラーの声からはじまるヤングケアラーの支援の課題」という本を読んだので、その内容と感想を投稿したいと思います。

ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは何ですか?と聞かれ、私の漠然としたイメージでは「親、祖父母を介護する人、障害ある兄弟の世話をする子供・若者」などが浮かんだが、正確に答えられる人はいないのかもしれません。なぜなら日本には正式な定義がまだありません。しかし定義がないと話もすすめられないですし、実態などを調査が出来ないので、日本ケアラー連盟は、「家族にケアを要する人いる場合に、大人が担うようなケアの責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満のこども」としています。
この定義に当てはめると、ヤングケアラーが行う役割は多種多様で、両親が働いているために祖母の介護を引き受けたり、ひとり親家庭で家事を引き受ける子供・若者、精神疾患をもつ家族のメンタルケアを担う子供・若者、若年認知症の家族のケア、子どものアルバイト収入が必要不可欠となっている家族、複数のケアニーズを抱えている家族、依存症などの長期に渡るニーズを抱えた家族、親の代わりに通訳を担っている外国にルーツをもつ子供・若者、がんなどの家族の病気の看病など多くの事柄があると想定されます。

本人はヤングケアラーと認識していないケースも多い

ヤングケアラーの当事者は、自分がヤングケアラーという事を認識していないケースが多いと言います。まず「ヤングケアラー」という概念を知らないと、自分がヤングケアラーと想像する事も出来ませんし、また生まれ育った環境でごく当然に行っている事なので、自分がケアラーをしていると自覚する事は中々難しく、日常の自然な行動と捉えている事も多いようです。

ヤングケアラーはどの程度存在するのか

厚生労働省の全国の中学2年生、高校2年生の生徒(約17万人)を対象とした調査では、中学生が5.7%、高校生が4.1%の割合でヤングケアラーが存在する事が分かりました。
もちろんこの中には、ケアの役割が少しで負担が軽微な人も含まれます。しかし一定の規模でヤングケアラーがいる事は、これらの結果からも分かると思います。
 
上記とは別の大阪府高校生、埼玉県の高校生の調査研究でも4%~5%程度のヤングケアラーが存在し、ケアの対象は祖母が最も多く、次いで祖父、母、そして弟・妹、父と続きます。
ケアを要する家族の状態を見ていくと、祖父母の場合上位項目から、身体的な機能の衰え、病気や認知症でケアが必要になっていると考えられます。
母で特徴的なのは、上位項目に「精神疾患・精神障害・精神的不安定」があがっている点です。次いでケアをする兄弟の状態は、「知的障害」「身体障害」が状態の上位を占めています。
父の状態像としては、病気や身体面の状態があげられました。慢性的な疾患や脳血管系疾患の後遺症などにより、ケアが必要になっている可能性や、もともと身体障害があった可能性なども考えられます。

ケアの内容は1位が家事で、回答者の半数を近くにのぼりました。2位は力仕事(室内介助など)、3位は外出時の介助・付き添い、4位は感情面のサポート、5位は病院や施設などのお見舞いとなっています。

ケアの頻度と時間では、頻度については毎日が最も多く、次いで週4日、5日が多くなっています。ケアの時間では「一時間未満」が最も多くなっています。その一方、4時間以上のケアをしている人は学校がある日14.3%、学校がない日22.8%とかなりの割合でいる事も分かりました。
 
これらの行政による調査には課題があります。サンプルが小さかったり、学校に登校していないヤングケアラーの人はそもそもこの調査に回答でません。ケアの概念を伝える難しさもあり、本人に家族のケアをしている自覚がなければ、正確な回答を得るのは難しくなります。このような事を考えると、様々な調査で示されているヤングケアラーたちも氷山の一角であり、実際にはもっと多くのヤングケアラーが存在すると考えてよいでしょう。

ヤングケアラーであるために人生に様々な影響が起こる可能性がある

ヤングケアラーになると、様々な影響が出る事は想像に難しくないかもしれません。
まずはじめに、大人になってからケアを行う場合と子供・若者の時からケアを行う場合との相違点を考えたいと思います。
大人になってから誰かのケアを始める場合と、子供・若者が誰かにケアを行う場合の相違点は「時間軸」が違う事である。大人になってからケアを行う場合は、小学生、中学生、高校、大学、職業選択、結婚などと様々なライフイベントを終えています。しかし、子供・若者の時からケアを始める場合には、このようなライフイベントは終えておらず未完のままです。
この点はヤングケアラーの問題を考える際にとても重要な視点だと感じます。なぜなら、子供・若者が誰かのケアをする事によって、様々なライフイベントにあまり良くない影響を及ぼす可能性があるからです。例えば、ケアをする事によって時間通りに学校にいけなくなったり、疲れが慢性化し学校での集中力が続かず学力が伸びなかったり、宿題・復習をする時間がなかったり、友達と遊ぶ時間がなく人間関係を築けなかったり、対人関係能力を築けなかったり、またケアをする事により、進学を諦めざるを得なかったり、職業的アイデンティティを確立する余裕がなかったり、結婚という選択肢を見出せなかったりと様々な影響が出る可能性があります。

ヤングケアラーの存在が表面化しにくい日本の社会文化

日本では、ヤングケアラー当事者も周りの人々も、私が、あの人がヤングケアラーであるという認識を持つ事は簡単ではないのです。それはなぜかと言いますと、先ほど上記でも述べたように、ヤングケアラー当事者は生まれ育っていく環境の中でごく自然な行動としてケアをしていたので、ごく当たり前の事だと感じてしまうのです。そして日本の文化には、家族のケアは家族がやるのが当たり前だという「家族責任規範」が根強くあり、「家族のケアは行うのは当然だ」「家族のケアで弱音をはくなんて、自分が子供の頃は当たり前にやってたぞ」などとこのような考え方が根強くあります。
また教育基本法の中の、家庭教育の条項には親のケア責任を強化しようとする家庭教育重視の流れがでていたり、2018年から教科化された道徳では、国や郷土愛のほかに「家族愛」も、教えるべき重要な価値として位置づけられています。
このような結果、子供・若者がケアを抱え込まざる得ない状況になってしまう可能性があります。

ヤングケアラーへの支援課題

ヤングケアラーであるために、当事者の人生に様々な影響が出る可能性があります。その結果、教育を十分に受けられなかったり、職業的アイデンティティを確立できなかったり、結婚を制限されたり、当事者の心身に負担がかかり病気に罹患してしまう可能性や、QOLの質が極端に下がってしまう可能性もあります。このような事を防ぐためにも、ヤングケアラーへの支援は喫緊の課題であると感じます。
現在、日本にある介護保険制度には、訪問介護やショートステイなどは、自宅に来て調理、掃除、洗濯、食事介助、入浴介助を行ったり、一時的に要介護者を施設に預かり、同居している家族の負担を軽減する仕組みが整っています。これも大切な社会制度だと思います。
しかし、これはあくまでも、介護は第一に家族が行う前提での制度で、この制度による家族の負担軽減はあくまでも間接的でしかありません。
このような視点で考えると、ヤングケアラーを直接支援する仕組みを作っていく事が今後の課題になってくるのではないでしょうか。つまりヤングケアラーの方に直接、相談支援を行ったり、「ケアをする権利」「ケアをしない権利」の両方を自ら選べるような仕組みを作っていく事が大切なのかもしれません。
一方で「ヤングケアラーだから可哀そう・弱者」だと勝手に決めつけるのも、当事者としては快いものではないかもしれません。ヤングケアラーの人の中には、ケアを積極的に充実して自ら行っている人もいます。そのような人が「あの人はヤングケアラーで可哀そう」とレッテルを張られるのは抵抗を感じる事もあると思います。ですから、周りの決めつけるような言動を防ぐ必要もあるのかと思います。
ケアが当事者のネガティブな事柄になっている場合も、ポジティブな事柄になっている場合もあると考えらるので、「ケアをするか、しないかを選択できる権利」が、その人個人を尊重する為にも大切になってくるのではないでしょうか。とはいいつつも、ケアをする事を自らの意思で積極的に行っていても、心身に負担が溜まる事もあるので、配慮は必要だと思います。

感想

今回、「子ども・若者ケアラーの声からはじまるヤングケアラー支援の課題」を読む事で、どのような状況にある方が、ヤングケアラーであるかを少し学ぶ事が出来ました。ケアをする対象やケアの内容、ケアの時間も様々な、多様な状況があるのだと感じました。
 
家庭の介護問題は閉鎖的で、中々教育機関の教員などが介入しづらい問題もあり、支援に結び付けるのも難しい事だと感じます。今後家庭に介入できるアウトリーチ型(訪問型)の支援体制の必要性も出てくるかもしれません。
また、日本の社会文化が原因で(家族責任規範)、当事者が悩みを打ち明けづらさを感じたり、周りから心ない言葉を浴びせされたりといった現状もある事をしりました。
ヤングケアラーであるために、当事者の人生に大きな影響を与えてしまう可能性があるので、ヤングケアラーを支えるための支援制度を作っていく必要性もあると思いますが、社会の1人1人が、ヤングケアラーの現状に理解を示し、「家族責任規範」の考え方に固執せずに態度や言動を少しずつ変容していく事も大切なのかと思いました。
 
最後まで読んで頂きありがとうございました。

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