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絵画の向こう側

 昔の日記シリーズも「現在」に接近してきました。今後、過去にアップしたものとダブることもあるかと思いますが、加筆、修正しての再掲ですので、見逃していただきたく、宜しくお願いします。
 
 2020年9月の日記です。
 
 古今の名画を解説する本では、
中野京子「怖い絵」が世に知られている。
「新・・」、「もっと知りたい・・」、「・・泣く女偏」等、
次々とシリーズ本も出され、はまっている人もいるのだろう。
 
 中村隆「絵画の向こう側」は続編なしの一冊だけ、
2007年のNHKラジオ「心を読む」シリーズの解説本だ。
昨今は徒歩10分の会社往復だけの引き籠り生活、
暇つぶしにもう一度読もうと、アマゾンで購入して再読した。
 
 著名な画家の生涯を解説し、絵の成り立ちを解説している。
取り上げている画家は、別格のダビンチ以下、
ゴッホ、ゴーギャン、黒田清輝、藤田嗣治、ルソー、ピカソ、
シャガール、竹久夢二、佐伯裕三、関根正二の11人、
略全員が、不遇で、変人で、生涯恵まれず、
人生に深く悩んでおり、そうでないと、
いい絵は描けないらしい。(黒田清輝は別)
そういえば、小学5年生の時、クラスに、
「枠を超えた広さを感じる」絵を描く同級生がいた。
学校では逞しいガキ大将だが、家は相当な貧困だった。
 
 最後に取り上げられている関根正二が興味深い。
16歳で「死を思うとき」が二科展に入選、
変人で、極貧生活を送り、スペイン風邪から肺炎を併発し、
20歳で亡くなってしまった。生涯に残した作品は26点、
二科展樗牛賞の「信仰の悲しみ」では5人の女性が
何かにとりつかれたように俯いて歩いている。
中央のひとりだけ、衣服にバーミリオンの朱が使われており、
19歳の関根が一方的に恋焦がれた人と言われている。
バーミリオンは高価故思うように購入できなかったとか。

関根正二「信仰の悲しみ」

 
 関根の絵は自分の生涯を反映して全体に暗い。
描かれた人物は、何かを考え、訴えているのだが、
その何かが絵の人物にも関根にもよく分からないように思える。
代表作「子供」では、朱色の着物を着た子供が、
暗い表情で何を思っているのか、感じているのか、
関根に直接聞いてみたい気がする。
この本では取り上げていないから、中村氏の解説もない。

関根正二「子供」

 
 因みに「信仰の悲しみ」は倉敷の大原美術館に、
「子供」は東京中央区のブリジストン美術館に展示されている。
 
 
 追:関根正二が樗牛賞を受賞した時の新聞のインタビューで、
「信仰の悲しみ」について、次のように語っている。
「私は先日来極度の神経衰弱になり、それは狂人とまで云われる様な物でした。かし私はけっして狂人でないのです。真実色々な暗示又幻影が目前に現れるのです。朝夕孤独の淋しさに何物かを祀る心地になる時、ああした女が三人又五人私の目の前に現れるのです。それが今尚、現れるのです。あれは未だ完全に表現出来ないのです。身の都合で中ばで中止したのです」

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