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【ネタバレ】『出版禁止 いやしの村滞在記』考察3 妄想してみた【閲覧注意】

禁止シリーズの寄り道をしていましたが、いやしの村に戻ります。前回まではキーワードにとどめ抽象的なものにしましたが、今回は妄想を織り交ぜながら、私が組み立てたストーリーを綴ります。突っ込み検証大歓迎です。コメントでご意見をお寄せいただければと思います。

前回までの考察はこちらをご覧ください。
重要と思われる部分がページ順で抜き出してあります。読んだ方なら抜き出した意図はわかると思います。↓

さらに深堀して核心に迫る事項であると思われる部分について触れました。↓

⚠️以下は妄想を含んだネタバレです。現在推理中の方は読まないでください。⚠️


「逆打ち」すると本来のストーリーが分かるようになっています。普通に初めから読むのを1周目とすると、逆打ちで2周目をせざるを得なくなります。でも1周目でちょっとした違和感はあるんですよね。
○村人の名前を仮名で書くと言いつつ突然漢字名が出てくる。
○なぜか同じような記述が繰り返される。(村や湖周辺の地理など)
でも思わずスルーして読めてしまうレベル……。「無垢の民」のラストに佐竹が登場した瞬間、私は声が出ました(素直に騙されました)。
後で気が付いたのですが、風呂場の左右どちらに入るかの記述が違っていました……(わかるかっ!)

逆打ちしたあらすじは必要ないかと思うので省きます。なので考察2で挙げた謎を中心に妄想していこうと思います。

1.キノミヤ(都築とやり取りしていた方)はたまたま死に至る病になったのかどうか?

私はこれは天罰という名の下に行われた粛清もしくは自殺だと思っています。村人の恨みを晴らすために呪いをかけるという意味は、町に買い出しに行く時などに他の村人が直接恨みを晴らしに行っているんだろうというのは察しがつきます。(村人・山下のエピソードなどから)
それが殺人だとわからないような方法でうまくやるんでしょうね。長年のノウハウがあるのでしょう。が、この際何らかの手違いがあり、人違いもしくは巻き込みで関係ない人を殺めてしまったのではないでしょうか
『地史研究』には村の掟が書いてあります。
”復讐相手や百年祭の生贄以外は、村人による殺害行為は固く禁じられていた”(引用:P97)
この掟を破ってしまったがために死に至った。これはキノミヤ自身も受け止めています。
”『例外のない規則はない』。この言葉、よく考えると、ちょっと変ではないですか”(引用:P144)から続く問いかけ。これは、宮司であるキノミヤにも掟は適用され、掟を破ってしまった私は罰を受けるという話をしているのだと思いました。おそらく薬物を使った。
P240で死ぬことが怖いかという問いかけをしています。これは生贄になる都築に向けてとの言葉とも読み取れますが、自分自身の死に対する話とも受け取れます。

2.都築が生贄になる運命は偶然なのか?

ここも謎多きところです。朔と都築が近づくきっかけは高校時代、都築が朔の視線をたびたび感じ、よく目が合ったこと。
「呪いの考察と研究 実証編」の実例2に出てきます。朔が意図的に都築に《視線を送っていた=その時には生贄になると決まっていた》と受け取れます。
白い殻をせの象徴として贈りますが、これがなかなか怖い。わからない人は、太字を合わせて一つの漢字にしてください。

運命説を信じる人たちなので、生まれた時から生贄になることは決まっていた(生贄候補だった)と仮定します。
そうなると都築の両親、少なくとも父親は村の関係者ということになります。村とは全く無縁の赤ん坊が選ばれる確率は極めて低いだろうと考えるからです。
すると都築のバイト先の喫茶店がきな臭いです。父の友人が経営しているとあります(P132)。村との繋がりが濃くなり、そこで朔と男に会うのも偶然ではなさそうです。
生贄になるための条件を満たすために男を殺すように仕向ける。そして別れたり再会したりしながら、最終的に村へと誘い出す。
すっごい壮大なシナリオ!30年近くのシナリオを作るのだからすごい執念です。ここまでするかなぁ???
カルトなので我々の常識とは違うところで動きますから、アリなんでしょうけど。

次に偶然か成り行きかで、高校の時に生贄候補になったと仮定します。
男を川に突き落としたという事件はもともと都築がやる予定ではなかった説です。
朔の話では男は何人もの女性を食い物にしているとのこと。となると朔以外の女性が彼に恨みを持ちいやしの村に駆け込んだ。そして男の処分が決定する。朔はハニートラップとして送り込まれ、男に近づく。呪い実行の計画が着々と進められ、いざ実行となった(他の誰かが突き落とす予定だった)。が、予定外に都築が突き落としてしまう。そして朔のために殺人を犯したことで、一気に生贄候補になった。
でもこの説はちょっと弱い。貝を渡したタイミングや、朔がたびたび運命について都築に話していることなどと合わなくなってきます。

朔が急に学校を辞めたのは目的を達成したから
その目的が、男を始末することなのか、生贄の条件が揃ったことなのか、どちらなのでしょうね?私はそのどちらも達成した説を推します。
男が女性を食い物にしていたという話は本当のことで、それはもともと村人の誰かの呪いの対象人物だったのだろうと。呪いの実行のために立てられた計画に朔がコマとして加わった。朔の役目は、①男に近づき騙されたふりをし殺人の準備をすること、そして②生贄候補の都築に殺人を行わせること。
①については村のためとはいえ、売春などもしなければいけないので朔は決していい役回りではありません。一時的なものとはいえ嫌々その芝居をしていたのでしょう。都築に運命について悩みを打ち明けたことも本心だったのかしれません。
②については、本を読む限り都築は結構ちょろかったように感じます。もし都築が男を突き落とさなかった場合に備え、村人の誰かが待機していたのかもしれません。そうすれば①についての目的は達成することができます。
最初から①と②の条件がそろっていたのかどうかは偶然なんでしょうね。男に呪いをかけるという段階になって、ちょうど男の行動圏内に生贄候補の都築がいた。あるいは父親が喫茶店でバイトをするように仕向けたのでしょう。いい具合に事が運び②も実行できた。あまりにご都合主義なストーリーですが、運命説を信じるとすれば、そういう偶然が起こるのも運命によるものなのかなと思います。

3.佐竹の知人の死はもしかして重要?

佐竹は村に来た時に「呪い」の存在について、”それを追求せざるを得ない個人的な理由がある”と言っています(P98)。
その後、取材中に知人の死を知ります。そしてどうやらそれが大きなきっかけとなり、村人になった(入信した)ようです。(都築の死を崇高なものとして受け止めている以上洗脳されているのは間違いないでしょう。)

このことからやはり佐竹には相当な恨みを持つ相手がいたことになります。
取材中に死を知ったことについては2つの可能性があります。
①村で滞在中にその人が何らかの形で死に、そのことを知った。
②村への取材の中で、その人物が死んでいたことを知った。

私は知人の死がきっかけで入信した経緯があることから②を推します。
しかもその人は村の呪いによって死んだ人物ではないかと思うのです。であるなら資料の中で死んだことが明確にわかる人物。Ⓐ生贄になった都築Ⓑ前任者のキノミヤ、そしてⒸ都築に突き落とされた男の3人です。
佐竹は”私と都築の間には、直接のつながりはない”(引用:P272)と言っています。であるなら恨みをいだく要素はありません。
であるならキノミヤか男か。
まずⒷキノミヤである場合。キノミヤが誰かの復讐のために殺人を行っていたので、その殺された人物が佐竹の大切な人であったと考えることができます。キノミヤは都築の書いたルポルタージュの中で死んでいます。それで佐竹の恨みが果たされたと知る。……でもこの場合、自分の大切な人を殺したカルトにそのあと入信すると思えないのですよね。
そこでⒸ都築に突き落とされた男が残ります。この男は多くの女性を食い物にしていたとのこと。朔の証言でしか根拠がありませんが、先ほど考察した「2・都築が生贄になる運命は偶然なのか」でも述べたように、あの男が女性の敵であったというのは黒なのではないかと。そして佐竹自身もかつてこの男に食い物にされていた一人であったと妄想しました。

【妄想:この男を呪うほど恨んでいた佐竹は、呪いに関していろいろ調べていた。その中で「いやしの村」にたどり着く。本当にルポライターだったのかどうかはわかりません。彼女はあの男が死んだことを知らなかったのだが、取材の中ですでに死んでいたことを知る。しかもかつて村人の呪い(殺人)によって。そしてその殺人を行った人物が生贄となり崇高な死を迎えたとわかった。】

もしこうだとすると、かなりのインパクトがあったのではないでしょうか。この件に関しては一切記述がないので完全な妄想です。この説の弱いところは、男が死んだことをどうして今まで知らなかったのかというところです。食い物にされていたけれど、運よく逃げる機会があり、その後ずっと男の影におびえながら生きてきたということになりましょうか……。

でも”先日、私の知人が亡くなった。不慮の事故で命を落としたという訃報が届いたのだ”(引用:P9)こういう書き方は、普通は①なんですよね。ということは、取材中に佐竹を村人として取り込む手段として(?)呪いが実行されたということでしょうか?まだ入信していないものに対して殺害を行うというのは教義に反することなんですよね。村人の誰かが呪う人物と、佐竹が恨む人物が偶然一緒だったのでしょうか??うーん、結論は出ません。

4.青木の言った「いずれにせよ拒む理由など何もない」の意味

「無垢の民」の最後にありますが、ここはいまだにわかりません。青木の気持ちがわからない。この後宮司キノミヤに就任しますが、就任後は普通(?)に職務を遂行しているように見えます。佐竹に何かしたようにも思えない。強いてあげるならば佐竹の洗脳に成功したということですが、この一文は謎です。


さて、今回の考察に当たり、普通に読めばわかるであろうことは書きませんでした。例えば…
ここに出てくるキノミヤは二人いて二人目は青木だよねとか、街に行って買い出しをしてくるときに復讐してるんだよねとか、都築は食べ物に薬を混ぜられて徐々に体の自由を奪われたよねとか、都築が図書館であったのは村人だよねとか、詩の意味とか。挙げればきりがありませんが、このようなものは読めばわかる範囲かなと思っています(といいつつ、結構抜け落ちていたりしますが)。なのでもうちょっと深堀した上で妄想を加え、私なりの「いやしの村滞在記」を組み立ててみました。

正解は作者の長江俊和さんの頭の中だけにしかありません。真実を知りたくてもやもやしますね。読んでくださった方の妄想もぜひお聞かせください。コメントをお待ちしております。


ところで話は飛びますが、映画「ミッドサマー」はご覧になりましたか?まだの方はぜひ一度(というか2回見たくなる映画ですが)ご覧ください。『出版禁止 いやしの村滞在記』と合わせて見ると面白さがアップするはずです。この映画を見たらこの本の謎が解けるというわけではないのですが、いろいろ思うところはあるでしょう。長江さんはもしかしたらこれを見てこの本を着想したのかななんて思いました(妄想)。ショッキング映像が多数ありますので、グロ耐性のない方はご注意ください。決して楽しい映画ではありません。覚悟してから見てください。

※2021年11月5日追記
Twitterでこまいさまから「亨」の漢字のなりたちについて、貴重な情報をいただきました。
漢字べディアをリンクします。

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