見出し画像

『明日ちゃんのセーラー服』が物凄かった件

 突然ですが、この画像をご覧ください。


 ご覧の通り少女が縄跳びをしている様子を描いてるわけですが、これが何かって話じゃないですか。

 これ『明日ちゃんのセーラー服』という漫画の一コマなんですが、結構大胆な事してると思いませんか?

明日ちゃんのセーラー服


 コミックス2巻11話『まんげつりょう?』の回で主人公・明日小路がクラスメイトの兎原透子に縄跳びを披露しているシーンなんですが、まず面白いのがこれ、背景無しでキャラクターを連続写真のように描いている

 体育の教科書とかスポーツ雑誌によく選手の連続写真が載ってたりするじゃないですか?例えばこれは野球の連続写真なんですが。


 このように連写して1人の選手が振り始めてから振り切るまでの一連の動作をまとめて掲載する手法です。

『明日ちゃんのセーラー服』はまさに小路を連続写真のように描いてるシーンが多くて、一番最初の画像でもそうなんですがそれによってとてもダイナミックに見える。背景をあえて描かない事によって無駄な情報を一切遮断しているのもポイント高いですよね。

 しかもこのシーン面白いのがですね…。

 このまま13ページぶっ続けで描いてるんですよ(笑)

 ただ縄跳びしてるだけのシーンを、13ページぶっ続けで描くってヤバくないですか?(笑)最初読みながら笑っちゃいましたもんね。

 しかもこのシーンだけではなく、この漫画の特徴として連続写真のようなシーンが随所に使われます

 そしてそれが『明日ちゃんのセーラー服』の最大の特徴であり、魅力でもある。

 今回『明日ちゃんのセーラー服』を語ろうと思ったのは、この作品が漫画とアニメで魅力ポイントがまったく違う、珍しいタイプの作品だと感じたからです。

 普通原作付きのアニメだと原作通りに作られるじゃないですか。まず原作のファンが観るわけですし、観てファンになって原作を買ってもらうという意図もある。

 たまに原作通りに作らないアニメもあるんですが、そういう場合は大抵監督の作家性が尖りまくってたり原作のストックがなくオリジナル展開に行かざるを得なかったりという、いろんな事情があるわけです。

 しかし『明日ちゃんのセーラー服』はどちらかというと漫画の方が作家性の塊であり、アニメの方はそんなにというかまったくそういうのは感じられない。にもかかわらず漫画は漫画、アニメはアニメとしての魅力が両立してるんですよ。

・画で見せる漫画版、人間ドラマを加えたアニメ版

 その前に、簡単なストーリーを書いておきます。

 憧れのアイドルが着ていたセーラー服を自分も着てみたいと思った明日小路は、母親の母校である蝋梅学園を受験し見事合格。母親にセーラー服を作ってもらいウキウキだった小路だが、なんと蝋梅学園はすでに制服をセーラー服からブレザーに変えていたのだった。

 しかし特例でセーラー服の着用を認められた小路は、元気いっぱいでポジティブな姿勢でクラスメイト達と次々打ち解け、楽しいスクールライフを送る…という、あらすじだけ読むと「中身のない話なのかな?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

 実際『明日ちゃんのセーラー服』では何か特別な事が起こるわけでも恋愛があるわけでもなく、小路とクラスメイトの学園生活が続くだけ。大まかな枠で言うと日常系、美少女系作品ではあるんですよ。

 ただこの作品が他の作品と違うのは、先程ご紹介した通り画の力が圧倒的なんです。

 アニメの最終回を観た方ならわかると思いますが、小路が踊ってたじゃないですか。あれが漫画版でいうと4巻になるんですけど。

 小路の踊りを観ながら「可愛いな」と思った方が多いと思うんですよね。実際可愛かったんですが、漫画版は印象が少し違って。

 まず小路が踊るシーンだけで4話かけてます(笑)

 もちろん回想を入れながらなんでずっと踊るシーンではないのですが、あのシーンだけで4話消化してるのエグくないですか(笑)しかも静止画で音もつけられずに表現しなきゃいけない分、一コマ一コマがやたらダイナミック。

 アニメも頑張ってたし凄く良かったんですが、僕キャラクターがただ踊ってるだけで泣いたの『明日ちゃんのセーラー服』の漫画版が初めてかもしれない(笑)それだけ画の力に圧倒されたんです。

 作者がさんというイラストレーターの方なんですが、それだけに漫画版はストーリーよりも絵で魅せようという意図が見えます。

 他にも8巻番外編『峠口鮎美の戦い2』では、クラスメイトの峠口鮎美の卓球大会を観戦に行くというだけの話を描いてるのですが、個人的にこの話の絵も大好きなんですよね。

峠口鮎美


 東北訛り丸出しのキャラクターで可愛いんですけど、まあ8巻買ってみてください(笑)

 鮎美がこの話の終盤、オリジナルショットを繰り出すんですが、その描写がとにかくダイナミックで。『ピンポン』かよと思っちゃいましたもんね(笑)

 博という作家さんはストーリーというか人間ドラマを盛り込むのがおそらく苦手な方で、正直人間ドラマを盛り込んだ結果陳腐になっちゃってる話もあるんですよ。

 でも4巻とかこの鮎美の回とかキャラクターの背景はそこまで描いてないんですが、代わりに絵の説得力が凄い。セリフの説明なんてものがなくても絵を見てるだけでそのキャラクターがどんな気持ちで動いてるのかがわかって、めちゃくちゃ心を揺さぶられるんですよ。

 これは他の作家にはない、博さんだけの才能という感じがしますね。

 で、アニメ版の話になるんですが、アニメ版では漫画版の欠点とも言える人間ドラマの盛り込みを上手い具合に補填してるんですよ。

 例えばアニメ第7話『聴かせてください』では蛇森生静という地味なキャラが主人公になるんですけど。

蛇森生静

 
 この生静という少女は音楽が好きなんですが軽音部には入らず(入れず)帰宅部をしている。放課後1人で好きな音楽を聴きながら音楽雑誌を読んであーでもないこーでもないと言ってるんですが、そんなところを小路に見つかるんですね。

「楽器弾けるの?」という小路の問いに咄嗟に「ギターなら…」と嘘を吐いてしまった生静は、流れで小路にギターを聴かせる事になる…という流れなんですが、漫画版ではここで終わるんですよ。

 アニメの尺にするとだいたい5分くらいの短い話なんですが、アニメ版ではこれを膨らませまくって23分の作品にしてるんですよね。

 だからこの話ってほとんどがオリジナル展開なんですよ。しかも単に尺を伸ばしてるだけではなく、話の中で生静の成長や挫折、複雑な心情などをちゃんと表現している。そしてちゃんと気持ちよく終わらせていて、わりと神回なんすよね。

 アニメ版の監督さんは黒木美幸さんという女性の方でありまして、元々は作画畑の人だったのですが『空の青さを知る人よ』では演出をやったりもしている。

『空の青さを知る人よ』ってこれで売ろうとするのは無茶だろ(笑)ってくらい地味でわかりやすいものもないアニメ映画なのですが、キャラクターの感情の動きはとても丁寧で面白い作品です。

空の青さを知る人よ


 演出力に関しては間違いない監督さんだと思うので、画は凄いけどストーリーで語るのは難しい『明日ちゃんのセーラー服』をこの人に任せたのはかなり正解だと思います。

 9話『せ〜のっ』とかもかなり凄くて、小路達がイオンみたいなところでただただはしゃぐだけの回なんですがそれだけで23分持たしちゃってる。

 この話も原作にあるのですが展開と登場キャラを少し変えていて、話の軸になるキャラも古城智乃というメガネっ子を使ってるんですが、これがアニメオリジナル展開にも関わらずかなりハマってる。

古城智乃


 さっきから脇役しか紹介してない気がしますが(笑)でもこの作品って明日小路という太陽が1つあるおかげで、他のキャラクターが全員キャラ立ちできてる稀有な作品なんすよね。

 9話の話に戻しますがアニメ版は漫画版の話と時系列を入れ替えているので、漫画版では体育祭の後なんですがアニメ版では前。体育祭に使う道具の買い出しにイオンへやってきた小路達ですが結局いろんなお店を楽しんじゃう。しかしその中で智乃が大事にしている栞がなくなって…という展開です。

 とても地味な話ではあるのですが、キャラクターを4人のみに絞っているのと捜し物を軸にしつつキャラクターの内面をちゃんと掘ってるので、全然飽きずに観られる。

 こういう地味な話を面白く膨らませる能力が、おそらく黒木監督の才能なんでしょうな。

 僕はアニメから入って後に漫画を読んだ人間なのですが、最初7話で「これ面白いな」って感じた時、「でもこれ原作準拠なのかな?」とも思ったんですよ。でもとんでもなかった。

 これをアニメとして成立させた黒木監督凄いです!

 それぐらい漫画の個性が際立っていて、とても映像化して面白いものに仕上げるのは難しい印象を受けました。それでもあれだけのクオリティに仕上げちゃうんですから、有能だと言う他ないですよ。

 ストーリーだけではなく絵も凄かったですし、特にサムネにもした最終話の小路の顔にはゾクッと来ましたねえ。いつも元気に笑ってるか泣いてる小路が、あの瞬間だけ無表情で見ている。その一瞬のシーンに心奪われちゃいましたね。

 ということで今回はここらへんにしておきます。『明日ちゃんのセーラー服』は本当に漫画版もアニメ版も観る価値がある作品なので、どちらもオススメです。是非読んで観てみてください!

 それでは最後まで読んでくださりありがとうございました。それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?