見出し画像

山本金銭トレード~田口⇔廣岡トレードの流れで考える巨人のチーム戦略についてのお話

 今日3月1日の昼頃、びっくりするようなトレードが成立しました。

 読売ジャイアンツの田口麗斗投手と東京ヤクルトスワローズの廣岡大志選手の1対1トレード。この2球団でトレードするのは長嶋一茂さんを巨人が金銭で獲得した時以来28年振り。交換トレードとなると44年振りという事で、しかも戦力となっていた選手同士のトレードなわけですから正直驚きましたね。

田口麗斗(左)
廣岡大志(右)


 報道された直後、主にヤクルトファンの方々から悲しみの声がツイッター上で多く見られました。廣岡選手といえば期待の右の長距離砲候補だったわけですから気持ちは非常に理解できます。

 一方で巨人も過去2年連続で二桁勝利を挙げ、過去2年間は中継ぎとしてチームに貢献していた田口投手を放出したわけですから痛くないと言えば嘘になりますし、寂しい気持ちもある。こういう時にありがちなのが「なぜトレードしたんだ」という意見なんですが、今回はそこらへんの話をしていきたいと思います。

 そもそも今回のトレードって場当たり的な補強ではないと思っていて、数ヵ月前の金銭トレードまで遡って考えるべきなんです。

 日本シリーズが終わってシーズンオフに突入した直後、山本泰寛選手の阪神タイガースへの金銭トレードが発表されました。山本選手は昨年こそ一軍出場数が0でしたが一昨年はキャリア最多の92試合に出場し、二塁手として活躍していたと。

山本泰寛


 しかも移籍先がヤクルト同様トレードでの交流がほとんどなかった阪神とあってかなり驚きだったのですが、ではなぜわざわざ同一リーグの球団に金銭で放出したのかという話になる。

 去年怪我で1ヶ月程度離脱していた時期があったものの上げれる機会ならいくらでもあった山本選手を上げなかったわけですから戦力としてはもう見られてなかったのかもしれませんが、おそらく阪神にトレードしたのは阪神しかなかったからだと思ってるんですよ。

 というのも山本選手って、慶應高校~慶應大学を経て巨人に入団したバリバリのアマチュアエリートであり、しかも2015年ドラフト入団選手でございまして。

 2015年のドラフト前に何があったか、プロ野球ファンの皆様なら覚えていらっしゃいますよね(笑)あえて名前を出しませんが、あの事件の直後のドラフトでアマチュア界の評価ってかなり下がっていた。現にドラフト1位候補で小笠原慎之介選手やオコエ瑠偉選手の名前が挙がっていたにも関わらず私立の高校生選手を1人も獲得できなかったわけですが、なぜか早稲田実業→早稲田大学の重信慎之介選手を2位で、慶應高校→慶應大学の山本選手を5位で獲得したわけです。

 これ多分偶然じゃないんですよ(笑)

 1位で獲得した桜井俊貴投手も当時急に1位候補に挙がった選手でありまして、どういう事かと言うとあの事件を受けてドラフト戦略を変えざるを得なかったんですね。桜井投手は当時スカウト部長で関西の大学・社会人にぶっ太いパイプを持っていた山下さんのツテ。この年に限って早慶のエリートを両方獲得したのはシンブルに泣きついたからだとしか思えない。

 まあこれはあくまで僕の推測ですが、こういった経緯があったので山本選手って多分10年くらいはクビにできなかったんじゃないかと。

 戦力として使えば良かったわけですがまあ結果として去年見限ったわけですし、見限ってる以上二軍で干し続けるのも違う。二軍に停滞感しか生まれず、競争原理が働きにくくなってしまうわけです。

 なので阪神へのトレードっておそらく阪神側から来たと思うんですが、巨人にとっては正直渡りに船だったと思うんですよね。クビにしないで済んだ上に阪神という名門球団に体よく売れたわけですから。

・20代後半内野手を続々放出

 シーズンオフに放出した内野手は山本選手だけではありません。

 梶谷隆幸選手のFAに伴い田中俊太選手を横浜DeNAベイスターズに人的補償で放出。更には中日ドラゴンズからやって来て守備要員として貢献してきた吉川大機選手を解雇したりと、実はオフだけで3人も内野手、しかも20代後半の働き盛りを次々放出している。

田中俊太


 田中選手の場合人的補償という形なので一般的には「獲られた」という見方が多いと思いますしそれが間違ってるとは思わないのですが、個人的には「獲らせた」んじゃないかと思ってまして。

 そもそもシーズンオフに直江大輔投手や山下航汰選手などを育成に落とし支配下選手が60人を切っていた状態でありまして、田中選手を守りきれないほど戦力が厚かったわけではないんですよね。

 じゃあなんでわざわざ獲らせるような真似をしたんだという話になるわけですが、これは吉川尚輝選手の存在が大きいのではないかと。

吉川尚輝


 吉川選手は94年世代で去年規定打席にも到達してレギュラーを獲得した選手。田中選手は吉川選手の1つ上の93年世代で、2人とも左打ちの二塁手候補として数年間競い合ってきました。

 田中選手は巧打系打者で守備も不味くなく、また頭の良い選手でもあると思うのですが身体能力という面では飛び抜けてはいない。一方吉川選手は数年怪我に泣かされてきましたが、打力守備走塁すべての才能で田中選手に勝っていまして、去年シーズン完走できた事でいよいよ競争に勝利できたわけです。

 となると、田中選手は巨人にいる限り吉川選手の怪我待ちが続くわけですよ。サブとして一軍にいる力はありますが、彼外野があまりできない分若林晃弘選手や増田大輝選手にサブ競争で不利になる。今年28歳になる故、山本選手同様二軍に居続けさせるわけにもいかない。

 田中選手も放出待ちみたいな状況だったんですよね。

 もちろん実力はあるので、プロテクトから外せば獲られる。DeNAは監督が変わってホセ・ロペス選手も放出した事でネフタリ・ソト選手を一塁手として使う算段なのでしょうし、二遊間の戦力を厚くしたいという想いはあったと思うんですよ。

 そこを上手く利用したと言えば利用したわけです。個人的には同一リーグに手渡すにしては痛い選手だと思いますが(笑)それでも二塁手競争が一通り終結した段階で、吉川選手と同年代の選手を整理したかったという意図はわかります。

 加えて、おそらくこの選手を今年は使っていきたいんですよ。

北村拓己


 4年目の選手ですね。亜細亜大学から巨人が久々に指名した選手でありまして、ポジションは主にサードですが去年は一軍でセカンドを守り、破綻しない程度にはこなしていた。元々亜大ではショートだった選手ですしね。

 北村選手は右打者という事もあって、吉川選手と併用ができる。併用というか競争も兼ねてるのでしょうが、左打ちの田中選手と違い有効活用できるわけです。

 更に北村選手が一軍にいる事で今度は下の世代を二軍で使う事が可能になった。今年は山本選手、田中選手、北村選手がいない状態で二軍を回せる。例えばショートに高卒ルーキーの中山礼都選手を抜擢してみたり、増田大選手タイプの平間隼人選手、湯浅大選手や少し伸び悩んでいますが増田陸選手なんかも積極起用できる。

 つまり敢えて中間層を切る事でチーム全体の競争を維持する意図があったわけですね。

 …で、ここまで読んでいただいた方の中には「おいおいせきぬよ」と。「これだと北村が活躍する前提じゃねえか」と、そうお考えになった方もいらっしゃるかと思います。

 おっしゃる通り、そこそこ使える内野手を2人も放出した手前北村選手には活躍する前提でやってもらわないと困る。仮に北村選手がコケたら右の二塁手候補は誰がなるのか。増田大選手では打力に不安とか、両打ちの若林選手でも良いけど彼はユーティリティなので、なるべく緊急時の二塁手候補として残しておきたい。ではどうするか…。

 というところで廣岡選手のトレードに繋がるわけです。

廣岡大志(ヤクルト時代)


 廣岡選手は主なポジションはサードですが、元々ショートとして入団し去年は離脱した山田哲人選手の代わりにセカンドを守ったり、終盤にはライトでも出場していた選手です。

 アマチュア時代ショートをやっていてプロに入ってからは主にサード、去年からはセカンドもやり始めた右の強打の内野手…というところで北村選手と被る部分が多い。

 つまり今回のトレードは北村選手の競争相手の獲得という面が最も強いのではないかと推測します。三塁手には岡本和真選手という絶対的な選手がいるわけですから必然的に出られないわけで、しかしセカンドであればチャンスがある。しかも外野手としても出場経験があるので、例えば2人の競争で負けた方は右の外野手としてリスタートする、みたいな事もできるわけですね。

 個人的にはこっちの側面もあると思ってまして、何せ右の外野手の層が薄い(笑)石川慎吾選手と陽岱鋼選手しかいない状況では心許なく、北村選手か廣岡選手のどちらかをコンバートさせても何ら問題はない。

 では北村選手の競争相手を獲るためにわざわざ田口投手を放出するのは痛くないかと考える人もいらっしゃると思うんですが、個人的には田口投手を放出できるくらい左投手の層が厚くなったからだと考えております。

 先発としては頭打ちなところがあったのでリリーフとして計算するしかないわけですが、左のリリーフでは中川皓太投手であったり去年移籍して大活躍した高梨雄平投手、同じく去年活躍した若手の大江竜聖投手であったりと人材が豊富になっている。高木京介投手もいますしね。

 先発では今村信貴投手と高橋優貴投手の後塵を拝する状況にあって、若手では井上温大投手や横川凱投手が伸びているとあって、実はわりと宙ぶらりんな立場になっていた選手でもあるわけです。

 ヤクルトは投手面でやや苦労しているようなので、田口投手の実力ならば先発ローテでもリリーフでもチャンスがあると思いますし、相手に有益な選手をあげつつこちらの利益になり得る選手も獲れた、まさにWin-Winトレードだったのではないかと。

 更に言えばヤクルトもコーナーを村上宗隆選手、青木宣親選手、獲得してきた新外国人選手で埋めてスタートし、山田選手と長期契約を結んだ状況にあって、廣岡選手のチャンスがかなり減らされる可能性があった。

 そういう選手で戦力になる左投手を獲得したわけですから、かなり頭の良い判断だなあと思うんですよね。

 要約しますと。

①巨人は戦力の循環の為に中堅選手を放出したい思惑があった

②代わりに北村選手を吉川選手と併用、または競争相手として使いたい

③その北村選手にも競争相手が必要&右の外野手候補の両睨みで廣岡選手の獲得に踏み切ったのではないか

 こういう事ですね。

 無論これは僕の推測ですし、「違う意図があるのではないか」という意見を否定するものでもないので、もし違う意見があればコメント欄で教えていただけると嬉しいです。

 そして最後に廣岡選手、田口投手両名のご活躍を心からお祈りしております。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。次は土曜あたりエヴァの話でも書こうかと思っております。それではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?