歌い手

その人にしかうたえない歌。

昨日『TSUNAMI』のことを書いたけれど、

桑田さんが

見つめ合うと素直に おしゃべりできない

と書いたのとおなじように、人はひとりひとり、その人独自のキラーフレーズを持っているんじゃないかと思っている。

どうしてそう思うかというと、『listen.』のような場で集中して人の話をきいていると、それが聴こえてくるからだ。

その言葉だけ、まるで歌のようにひびく。
それはありふれた言葉の組み合わせだけれど独特で、不思議な魅力をはなっている。

今日はオンラインで万葉集に触れる機会があって、十首ぐらいの中から音読して気に入った一つを選ぶワークがあった。

僕が選んだのはこの句だった。

帰りける 人来たれりと 言ひしかば
ほとほと死にき 君かと思ひて

「君かと思ひて」の切ない感じがよかった。「ほとほと死にき」もいい。

最後に三つくらいの句で迷ってこれに決めたのだけれど、決め手はこの切なさだった。もっと明るくてきれいな句もあったけれど、そこに一番惹かれた。

他の参加者の人たちもそれぞれ句を選んだ。意外にばらけていて同じ句を選んだのは僕ともう一人だけだった。その人にはなんだか親近感を感じた。

じぶんが好きと思う言葉。
じぶんの中からしか出てこない言葉。

『TSUNAMI』も並んでいた和歌もそうだし、僕の仕事でいえば『作曲事始』はその言葉が生まれるのを見守るものだし、『あなたのうた』はその人の語りの中にあるキラーフレーズを、歌にして返していると言えるかもしれない。

人の話す事の中には、ただの言葉と歌が混じっているような気がする。
その時なにげなく放った言葉が、じぶんにだけ歌に聴こえるのは、なんとも不思議なことだ。

人と人とは、そんな不思議な交信をしながらコミュニケーションを交わしている。なにに惹かれるか、なにが響くかはあらかじめ分からない。

でも響いたときのその手応えがうれしくて、人はまた人に向かう。

神様がみたら、人々のあいだを行き交うそんな歌が、世界じゅうに鳴り響いているように見えるのかもしれない。

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