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ニジマスが最高のパフォーマンスを魅せる時

科学論文を釣り情報へ還元する第8回目の投稿です。
今回のテーマ:ニジマスが最高のパフォーマンスを魅せる時

今回ご紹介するのはこちらです。
Jain, K. E., & Farrell, A. P. (2003). Influence of seasonal temperature on the repeat swimming performance of rainbow trout Oncorhynchus mykiss. Journal of Experimental Biology, 206(20), 3569-3579.

この論文では、温水(15℃)と冷水(9℃)でそれぞれ慣れさせたニジマスの遊泳能力を評価したり、限界まで泳がせたニジマスはどちらの水温の方が回復しやすいか?などを調べています。

この論文を結論を一言でまとめると、
ニジマスの場合、温水では最初の遊泳能力が高いが、回復しずらく、持久力がない。
一方で、冷水では限界まで泳いだ後早めに回復できる、ということでした。

同じ魚種でも水温でパフォーマンスは変わる?

今回の論文では、以前サクラマスやシロザケでご紹介した臨界遊泳速度を流れるプールの中で休憩を挟みつつ2回調べています。
臨界遊泳速度とは、好気呼吸と嫌気呼吸の境界となる速度です。
(人間でもダッシュする時は嫌気呼吸といって、酸素を使わずに呼吸します。言うなれば、ジョギングからダッシュに切り替わる速度が臨界遊泳速度になります)

その結果、最初の臨界遊泳速度は温水馴致されたニジマスの方が速かったのですが、40分休憩した後もう一度計測すると20%ほど遅くなりました。
一方で、冷水馴致されたニジマスの臨界遊泳速度は1回目も2回目も変化がありませんでした。
つまり、繰り返し泳ぐ能力(持久力)と回復に必要な時間を考慮すると温水よりも冷水で馴致させたニジマスの方が優れているという結論です。

筆者は魚は水温や生理的状態に応じて、ある一定の疲労状態まで泳ぐことを選択する可能性があると考えているようです。

例えば、温水馴致のニジマスは初期のパフォーマンスのレベルが高くなるという利点があるが、相対的に大きく消耗するので回復期間が長くなるという欠点があります。
一方で、冷水で疲労度合いを抑えることによって、より合理的な回復速度が得られ、かつ繰り返しのパフォーマンスが可能になると考えられます。
冷水に適応した魚はエネルギー(グリコーゲン)を維持する性質があるため、こうした結果になったと考えられています。
(より高い温水では 疲労困憊するような遊泳をすると、遊泳後の 死亡率がかなり高まることも報告されています)

なお、ティラピアでも同じような結果が報告されていますが、アトランティックサーモンでは逆の結果が示されています(つまり、温水の方が回復力も高い)。

アトランティックサーモンの試験では今回以上に消耗するような試験を行っており、エネルギーを維持するどころでなく、「今この場で泳がないと死んでしまう」ような状況を作りだしています。このように状況によっては、また結論が変わるかもしれませんね。


サケ科魚類の遊泳能力は如何に?

以前の記事のサクラマス(1,700g)やシロザケ(1,900g)の臨界遊泳速度は、それぞれ秒速1.89BLと1.42BL(BLはBody Lengthの略で体長を示します)でした。
つまり、サクラマスは自身の身体の1.89倍の速度、シロザケは1.42倍の速度で泳げます。
今回のニジマス(800~900g)では秒速1.64~1.66BLで、サクラマスとシロザケの間くらいになりますが、さほど変わらないように思います。

臨界遊泳速度は、瞬発的な速さというより、どちらかというと持久力を示す速度です。
小型の魚の方が臨界遊泳速度は速いようで、530~730g のニジマスでは1.8~2.0BL、320~520 g のブラウントラウトでは 2.2 BLという記録があります。
また、今回の論文のように測定する水温によっても変化がありますので、サイズが小さく、かつ冷水ほど持久力は高いかもしれませんね。

ニジマスが最高のパフォーマンスを魅せる時

さて、釣りに関して考えた時、ニジマスが元気な時ほど我々のテンションも上がります。
温水馴致(15℃)と冷水馴致(8.5℃)では持久力が高いのは冷水でしたが、
この論文では、ニジマスにとって最も適する水温にも触れています。

心肺機能から考察されたニジマスの最適水温は11~16℃だそうです。
また、今回の論文の結果でニジマスの持久力変化の境界は12℃付近であることから、
この温度帯で釣りをすれば非常に良い”引き”を楽しめるのかもしれませんね。
なお、ベニザケ(ヒメマス)の最適水温も15℃くらいと言われているそうです。

それではまた次回お会いしましょう。

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