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コイ釣りを科学的に評価してみた

科学論文を釣り情報へ還元する第7回目の投稿です。

今回のテーマ:コイ釣りを科学的に評価してみた

今回ご紹介するのは、下記の論文です。
Klefoth, T., Pieterek, T., & Arlinghaus, R. (2013). Impacts of domestication on angling vulnerability of common carp, Cyprinus carpio: the role of learning, foraging behaviour and food preferences. Fisheries Management and Ecology, 20(2-3), 174-186.

この論文では、何代も人工的に飼育された(高度に家畜化された)コイとそうでないコイの釣られやすさを評価しており、
その中で魚は何を手がかりに餌を探すのか?釣り時間が長くなるとなぜ釣られにくくなるのか?なども議論しています。


この論文を結論を一言でまとめると、
家畜化が進むと釣られやすい。この理由は餌の摂取量と性格の大胆さによるものと考えられる。ということでした。


なぜ家畜化が進むと釣られやすいのか?

特に室内水槽で行った釣り試験の結果では、明らかに高度に家畜化されたコイが釣られやすいことがわかりました。
この高い理由は、餌の探索活動が多い、餌の摂取(消費)が早いことが考えられます。これは家畜化が進んだコイの遺伝子型の方が大胆であるという先行研究にも一致しているそうです。実際、家畜化の過程で、コイのリスクを取る行動(すなわち、捕食者や釣り人がいる中での餌探索)や他の魚との餌取り競争、代謝率や成長率は増加するらしく、より大胆に行動するようになっていきます。

つまり、家畜化が進むと認知能力が低下しやすいので釣られやすかったり、人工的な環境で家畜化されると複雑なタスクを学習する能力が低下したりする可能性があるのかもしれませんね。

”スレる”を科学的に評価?

釣行時間が長引けば長引くほど、どちらのコイも釣られにくくなっていきました。
釣られにくくなったにも関わらず、コイは餌探索自体は行っていたことから、コイが”フック回避”を学習した可能性があります。
一般に魚の餌に対する学習機会は、視覚、嗅覚、触覚、聴覚の手がかりに依存すると言われます。一方で、捕食者の発見、認識、評価は視覚的な手がかりに依存するので、コイは餌を与えられたフックを視覚的に識別することを学習したか、あるいはフッキング前に餌を排出することを学習したと考えられます。

魚が視覚的に釣り針と釣り糸を識別することを学習したのであれば、視認性の低い環境下では漁獲率が上がるはずで、実際、室内水槽では、釣行時間が長くなるにつれて暗闇の中での釣りに対して釣られやすい傾向がありました(しかも、濁りのある池での試験では釣行時間は釣られやすさに関係なかった)。

我々も経験する”魚がスレる”現象はこういった状態で引き起こされるのではないかと考えられます。今回のコイの試験では、10日間釣り環境に晒された魚は釣られやすさが半分以下に、20日もすると全く釣れなくなるようです。
なんとなくわかってはいましたが、やはり魚影が濃くても1か所に粘れる時間は限られますね。管理釣り場では尚更、ルアーやフライの変更など意図的な工夫が重要と考えられます。

餌の嗜好性って関係ある?

どちらのコイもペレット(養殖場などで良く利用される人工的な餌料)よりトウモロコシを好んだようです。
コイは味覚の嗜好性があり、選択的に餌を食べるので家畜化が進んだコイほど天然の餌よりも人工的なペレットを好むことが知られています。
また、コイは自然環境ではトウモロコシのような新しい食物資源を素早く見つけて食べます。そのため、この研究で観察されたトウモロコシへの嗜好性は、味や硬さなど複数の嗜好性に基づいている可能性がありました。例えば、コイはムール貝や巻貝のような硬い餌を摂取はするが、どちらかというと柔らかい餌を好むことが報告されています。そのため、コイを釣るにはより柔らかい餌が良いようです。


今回のお話はコイを使った釣りやすさを評価した科学論文でした。
食パンを使ってコイ釣りをするおじさんを見かけますが、意外と合理的かもしれませんね。
それでは、また次回お会いしましょう。

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