見出し画像

針が掛かった瞬間の魚の速度は?

科学論文を釣り情報へ還元する第2回目の投稿です。

今回ご紹介するのは、下記の論文です。
Miyoshi, K., Hayashida, K., Sakashita, T., Fujii, M., Nii, H., Nakao, K., & Ueda, H. (2014). Comparison of the swimming ability and upstream-migration behavior between chum salmon and masu salmon. Canadian journal of fisheries and aquatic sciences, 71(2), 217-225.
https://www.nrcresearchpress.com/doi/full/10.1139/cjfas-2013-0480


今回はシロザケとサクラマスの河川内の遊泳行動に関する研究です。
シロザケとサクラマスの遊泳能力を比較するとともに、河川に設置されている魚道付きの人口設備がこの2種の遡上行動にどのような影響を与えるかというのがテーマです。
前回の投稿と同様に、発信機を魚に装着して行動を追跡するバイオテレメトリー手法を利用しています。

結論を一言で言うと、
サクラマスの方がシロザケに比べ遊泳能力が高く、河川に設置された魚道もスイスイと登っていける。
また、サクラマスの方が速い流れを長時間遊泳するのに適した代謝構造をしている、というものです。

理由は割とわかりやすいです。
シロザケよりサクラマスの産卵場の方が、より上流域に位置することが多いことが知られています。
そのため、滝やら魚道やらたくさんの障害を乗り越えるように進化していったという考えです。

形態的にもサクラマスの方が上流まで遡上しやすいようにスリムでシュッとしていることが多いです。
見方を変えると、シロザケは上流に遡上して産卵しなくても良いですから、サクラマスに比べでっぷりした身体にたくさんの卵を抱えることができますよね。
(”板ます”と呼ばれるノッペリとした体高をもつサクラマスも釣り好きにたまらんですが・・・)
まさに”板ます”な画像↓
http://shiriuchi.info/scyougyo/meibutu04.htm

ちなみに・・・・

好気呼吸と嫌気呼吸の境界となる速度を臨界遊泳速度と言うそうで、これもサクラマスの方が速いそうです。
(人間でもダッシュする時は嫌気呼吸といって、酸素を使わずに呼吸します。言うなれば、ジョギングからダッシュに切り替わる速度が臨界遊泳速度になります)
もともと臨界遊泳速度や最適遊泳速度がシロザケより速いというのも進化の過程で進んだ現象かもしれません。

ここで気になるのが、
サクラマスやニジマスが釣り針に掛かった瞬間、海であれば沖に、川であれば下流などダッシュで逃避行されますよね?
あの瞬間の速度は一体どのくらいなのでしょうか?

よく言われるのは、突進速度(最大遊泳速度)が「秒速10BL」(BLはBody Lengthの略で体長を示します)、
つまり、「1秒あたりその魚の体長の10個分」で逃げおおせるわけです。

例えば、体長50cmのマスであれば、
突進速度は秒速5m(時速約20km)なので、「掛かった!!」と思った瞬間には5mも進んでるわけですから、これは相当な速さですよね。
この勢いで、岩場などに逃げ込まれたら、ラインがすり減り切れやすくなるのもうなずけます。

魚の速度について
https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/chiyodashinsuiro/ctll1r00000054w7-att/bunryu-shiryo-13.pdf


話は変わりますが、
サクラマスはサケマス業界ではもっとも原始的な種の一つだそうで、
種の新しさでは、サクラマス→シロザケ→カラフトマスというような順番だそうです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8849897/


確かに産卵場で比べてもサクラマスが最も上流域で、カラフトマスに至っては自分の川へ戻る可能性50%以下という話もあります。
つまり、サクラマスは自分の川へ戻ろうとする性質(母川回帰性)が強い一方で、カラフトマスは自分の生まれた川以外に帰ることで生息域を拡大させるという進化をしたのかもしれません。

今回の代謝の違いもなかなか面白いです。
サケ・マス好きならご存じのように、シロザケは秋に自分の川へ帰ってきて産卵し、そのまま産卵場を死守して(主に産卵場を死守するのはメスですが)力尽きます。
一方で、サクラマスは春には自分の川へ戻ってきて、そのまま夏を過ごした後、秋に産卵し死亡します。

大きく違うのは、サクラマスの方が早めに川に帰って長ければ半年近く、餌も食べずに産卵に備えなければなりません。
基礎代謝はサクラマスの方がかなり低いのは、川に入ってからは黙って、遡上と産卵に備えるような代謝構造になっているのかもしれません(冬眠ならぬ夏眠!?)
(サクラマスが川に遡上してから餌を食べなくなるかどうか、というのは諸説あるそうですが)

それではまたの機会に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?