★SIFオリジナル★イスラエルで、私も考えた #こんな社会だったらいいな③

こんにちは。日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム(SIF)運営チームの樋口です。

モノ消費からコト消費へといわれたのも束の間、今や消費せずに共有するシェアリングエコノミーが日常に実装される時代です。この流れは今後さらに加速しそうですが、テクノロジー先進国イスラエルで印象に残ったのは、意外とアナログな「シェア」でした。

樋口さん

<写真>テルアビブのビーチ 海辺を楽しむ人々

【多様な理想がシェアされる社会】
滞在中は毎日ほぼ快晴。気温は高すぎず、地中海に面して湿度は程よい。海沿いの景観に初日から魅了される。人口第2位の都市テルアビブの海辺は、車・人・自転車の道が砂浜とシームレスに接続し、流行りの電動スクーター(シェアライド)もスイスイ行き交っていた。

特に気に入ったのは写真にもある無料開放の健康器具。続いてオープンテラスの飲食店やシャワー設備などがこれまた程よい間隔で配置され、それらすべてはビーチと舗装路どちらからでもアクセス可能。街の中心部から南部の旧市街に至るまで、機能的に整備され、老若男女いたる所でその場に憩い楽しんでいる様子が伺える。古い街並みとリゾート渾然一体の美しさはそれだけで「#こんな社会だったらいいな」と思わせるほど魅力的だった。

誰かにとって価値あるものが重層的に多くの人にシェアされている。この海辺のあり方一つとっても、日本の未来へのヒントがありそうだが、もうちょっと深堀りして、背景部分の気づきにも触れたいと思う。

そもそも今回の視察目的は、スタートアップ大国であるイスラエルに、起業家を生み出すエコシステムを学ぶ、というもの。個人的には宗教とテクノロジー、そしてユニークな共同体キブツがどう入り混じっているのかに興味があった。

歴史も国民性も、直面している社会課題も異なる国。そのまま日本には当てはめることはできない。それでもイスラエルの特徴である次の3つのエコシステムからは、今の日本に欠けているもの、いや、今まさに起こりつつあるかもしれない変化の兆しが割とくっきり見えてきた。

【義務なのに人気の兵役制度】
イスラエルでは高校を卒業すると男女共に兵役の義務がある。女性は2年、男性は3年。特に優秀だと最大5年の間、軍に所属する。そこで最先端の研究や技術開発に従事し、実践的で高いレベルの知識と経験を学生のうちから積むことになる。その後はギャップイヤー(で多くは海外をバックパック旅)を挟んで、進学や起業するのが一般的で、「どこの部隊出身?」という会話が、「どこ大学出身?」のように交わされるとか。

子どもたちの憧れはサイバーセキュリティ部隊だそうだ。兵役が、その後のスタートアップ企業の高い技術力を裏付け、ギャップイヤーとセットになることで若者は社会性や広い視野での将来ビジョンを高めていく。また“同じ釜の飯”を食った仲間ができ、実際兵役で出会った者同士が共同で起業するケースも多いそうだ。

【移民受入とダイバーシティ】
イスラエルは、世界各地に散らばり迫害されたユダヤ人の帰る場所として建国された背景から、移民受入に今でも積極的だ。欧米、アフリカなど、移民のルーツによって様々な血と文化が混ざり合い、ユダヤ教徒だけでも相当の多様性がある。加えて彼らが帰ってくる前にこの地に住み着いていたパレスチナ人たちもいる。

この民族的なダイバーシティにより、学生も社会人も受験や教養以前の共通言語として英語の必要に迫られる。実際、訪問先だけでなく街のどの店に入っても英語は通じた。

なお、イスラエルはLGBTフレンドリーな国としても有名だが、宗教上の多様性にどこまで寛容なのかは別問題。宗教上の分断を横に置いてエコシステムを語るのは要注意だが、少なくともイスラエルの75%を占めるユダヤ教徒たちは、自らの歴史をアイデンティティとして共有しているようで、そのことは視察先々の若いガイド達の熱っぽくも誇らしげな話しぶりからもよく伝わった。

【選択可能な暮らしの共同体、キブツ】
在イスラエルには国境近くなどの辺境に270、テルアビブなど都市型のキブツも30程あるらしい。農業を基盤にした伝統的なキブツは今でこそ日本の過疎地域同様の課題に晒され、そのあり方も変容しつつあると聞いた。
気づきの中から特筆したいのは、キブツが衣食住を約束してくれるある種の社会保障として、昔も今も重要な役割を果たしている点だ。挑戦する人も成功している人も、戻れる場所があるからこそ、失敗を恐れない。実際訪問したスタートアップのマネジャーにもキブツの住人がいた。キブツ住人は国民全体のごく一部にすぎない。にもかかわらずイスラエル人のある種楽観的な国民性を下支えするエコシステムとして、キブツはこれからも存続していくように思えた。

【折り重なるエコシステム】
これらの特徴はどれもテクノロジー国家らしくない、むしろ古めかしさも感じるアナログなシステムだ。しかしそれが大きなエコシステムを形成し、イスラエル国民に自国特有の共通価値と自由を生きるための土台を提供しているようだ。信仰のみに依拠しているのではなく、環境として等しくシェアされている。そのエコシステムが個を強くもし弱さも受け入れる。これは資本主義下でも十分成立可能に思われる。
※ただし、宗教的な分断が解消されない以上、これら(特に兵役)の恩恵を受けるのは主にユダヤ人だけ、という事実は、忘れてはいけない

さて、翻って現在の日本はどうか。平和が続き、経済発展を遂げてあらゆる面で自由を手にした反面、いつの間にかいろんなことが個人の自由となり、ともすれば自己責任論が飛び交う。かつて教科書で読んだ「欧米は個人主義で、日本は集団主義」なんてどこへやら。


今年の#SIF2019では、「地球と、向き合う」の4つのセッションにて、個人の選択の自由では片付けられないテーマを取り上げます。「食のエシカル」、「AIと人間」など、一人ひとりの多様な理想をシェアしに、ぜひお越しください!

【ソーシャルイノベーションフォーラムとは】
「社会をよりよくしたい」、「日本の明るいビジョンを語りたい」という想いをもつ方々が共に対話し行動するための「ソーシャルイノベーションのハブ」として、日本財団が2016年より毎年開催しているフォーラム。官民学等のセクターを超えた豪華ゲストが登壇する基調講演や特別企画、参加型の分科会、次世代の社会起業家を輩出するソーシャルイノベーションアワードなど、多様なプログラムを提供し、これまでに延べ1万人の方々が参加しています。2019年度は、11月29日(金)~12月1日(日)に東京国際フォーラムにて開催予定です。
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