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その一瞬のために生きている―「デートクレンジング」感想

相変わらず人生を回してみよう、と色々試行錯誤しつつ、その実なーんにも変わっていない日々。休みの日は図書館へ行き、自己啓発とまではいかない、心理学や哲学関連の本を読み漁る。でもそれだけじゃなんだか味気ない気がして、小説も一緒に数冊借りる。なんだか年が明けてから本を読むかラジオを聴くかしかしていない気がする。

今回読んだ本は「デートクレンジング」。
ちょっと本の帯が解釈違いなので、この帯だったら読んでないだろうなあ。

前回以下の記事で紹介した「アイドルが好き!」はそもそもがヤングアダルト向けなのもあって溢れるほどの若さにやられて泣いていた側面もあるのだけれど、今回の本は35歳・既婚・不妊治療中の主人公と、同い年・未婚・仕事人間だった友人とそれを取り巻く人々の物語。結婚、出産、人生のゴールとは…みたいなゴリゴリに身を削られる内容なのでそれもそれで辛くて途中何度も感動と辛さで泣いていた。

主人公の学生時代からの旧友が、"結婚しないことに不安があるから男を紹介してほしい"と主人公に相談するところから話は始まる。この旧友、アイドルグループのマネージャーの仕事にまい進し一定の成果をあげて、そろそろ「落ち着きたい」のだという。好きなことを仕事にしてキラキラと輝いていてそのままで十分にかっこいいはずの友人が男性を介するとたちまちつまらない人間になることに悶々とする主人公。粛々と進んでいく時間、急かされる人々、こじれていく関係、…と、こう書くとドロドロものに聞こえるが、綺麗でリアルで苦しい人生譚である。多分ここから10年ぐらいでこの流れひととおりやるんだろうな…。やだなあ…。

あの日、彼女は身をもって教えてくれたのだ。感情に従って何かに心ゆくまでのめりこむことが、理不尽な世の中に対抗する唯一の手段なのだ、と。

柚木麻子.デートクレンジング.祥伝社,2018.

主人公は、この友人の「オタク」である。

そうだ、自分はオタクだ。三十五歳にもなって、実花のオタクでファンだ。アイドルオタクで同じ年の実花が好きだ。とても恥ずかしい。でも、身近な誰かのオタクになることを、この世界は禁じてはいない。

柚木麻子.デートクレンジング.祥伝社,2018.

現実の世界と、友人の「仕事の世界」であるアイドルの世界が交差したときの表現もとにかく素敵なので読んでほしい。ところどころにパワーワードがぶちこまれていて泣く。

一人の女の子をずっと見つめ続けるということは、そのなにもかもを許すことを意味する。許すのには、体力も気力も知力も使う。その人のもてるものすべてを総動員しなければならない。

柚木麻子.デートクレンジング.祥伝社,2018.

ぱっと思い浮かべたのは渉のこと。別にオタクって「許す」とかいう身分ですらないのでこのあたりは意見が分かれるかもしれないが、私はいやな気持でオタクをしたくはないので、アイドルはもちろん、割と周りの親しい友人や家族に対しても、目を瞑ったり、他で気を紛らわしたりして、色々な方法で許しているのかもしれない、そしてそれは全く悪いことでも恥ずべきことでもないのかもしれない。

そして終盤。主人公は友人が輝いている空間を、世界は友人と音楽だけで、時間が止まったようだと表現する。

ああいう一瞬は、人生でそう何度もあるもんじゃないんだもん。その目撃者に何度も何度もなれたんだもん

柚木麻子.デートクレンジング.祥伝社,2018.

もうすこし文才に溢れたおしゃれな感想を書きたいのだけれど、これめちゃくちゃ"わかりみ"じゃない?いくつもあるけれど、渉ならこれは光に照らされた西武ドームだし、今江くんならマラソンだよ。時間って止まる。その瞬間をずっとずっとずっと咀嚼している。そんな一瞬を見落とさないために、覚えておくために、オタクやってるところある。

とりあえず私の、特に演劇の感想とかオフに関する投稿に同意してくれるタイプの人はみんな好きなので読んでください!!!


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