2018年J1第9節 川崎フロンターレ対鹿島アントラーズ レビュー「『受け身の上手いチーム』が引き出してくれた力」

2018年J1第9節、川崎フロンターレ対鹿島アントラーズは、4-1で川崎フロンターレが勝ちました。

「無骨」で「受け身が上手い」チームとの対戦は面白い試合が見れる

最近新日本プロレスが好きなので、帰宅すると、よくお風呂の中でハイライト動画を観ています。プロレスを観ていて、面白い試合が生まれる時は、次に挙げる2つの要素がかみ合ったときなのではないかと考えるようになりました。

1つ目は、対戦相手の特徴がはっきりしているときです。プロレスでは「ベビー」と「ヒール」という具合に、善玉レスターと悪役レスラーではっきり個人のキャラクターが別れているのですが、このように対立軸がはっきりしていると、どこを対策すればよいかはっきりするし、観客も観るポイントが明確になります。

2つ目は、相手の技を「受け切れる」相手かどうかです。新日本プロレスを観ていると、石井選手との試合は、よい試合が多いという気がします。石井選手は無骨なファイトスタイルで、相手の技をきちっと受け切るタイプです。観客が盛り上がりやすい、チョップの応酬などで、観客を盛り上げていくのが石井選手は本当に上手い。石井選手の試合によって、実力を引き出されるレスラーはたくさんいます。

鹿島アントラーズというチームの特徴を思い浮かべる時、僕が思い浮かべるのは「無骨なレスラー」像であり、「受け身が上手い」姿です。

特別な事はしないけれど、相手の技を受けきり、見栄えのする空中戦を駆使するよりは、関節技などレスリングの基本的な技を駆使して、最後にきっちりと勝つ。そんなファイトスタイルを、鹿島アントラーズはずっと続けています。本当に「相手の技を受ける」のが上手いチームです。

鹿島アントラーズのようなチームは、ヴェルディ川崎(敢えて川崎と書きます)、ジュビロ磐田、ガンバ大阪、そしてクラブワールドカップのレアル・マドリーのように、「自分から仕掛けていくチーム」と対戦すればするほど引き立ちます。そして、2018年のJリーグで「自分から仕掛けていくチーム」の代表格は、川崎フロンターレです。第4節の名古屋グランパス戦とは異なる面白い試合を観ることが出来ました。

右サイドからの攻撃を増やせた理由

試合序盤は、川崎フロンターレがボールを保持する時間が長く続きます。川崎フロンターレの狙いは、川崎フロンターレから見て右サイド。鹿島アントラーズにとっての左サイドでした。

鹿島アントラーズの左サイドを守るのは、2年目の小田。川崎フロンターレの右MFは家長、後方からはエウシーニョが攻撃に参加してきます。家長とエウシーニョの2人で右サイドからボールを運ぼうとする川崎フロンターレに対して、鹿島アントラーズは試合序盤から押し込まれてしまいました。

ただ、川崎フロンターレはこれまでの試合で「右サイドからの攻撃が少ない」という課題をかかえていました。谷口と車屋の2人がボールを運ぶのがスムーズであること、エドゥワルド・ネットが左利きなので、左サイドにパスが出しやすい、といった要因が重なり、どうしても左からの攻撃が増えていました。

左からの攻撃が多いので、家長がボールを受けるために左に動いてしまうため、余計に左に攻撃が偏るという悪循環が続いていました。エウシーニョがFWと同じ位置まで移動しても、パスが出てこないので、全力で守備に帰るという場面を、2018年シーズンは何度も見てきました。

しかし、この試合の川崎フロンターレは、左サイドからの攻撃より、右サイドからの攻撃の方が、攻撃を仕掛ける回数は多かったのではないのでしょうか。久しぶりにエウシーニョが右サイドを駆け上がっていく試合を見た気がします。そのくらい、2018年シーズンの川崎フロンターレの攻撃は、左に偏っていました。

右サイドからの攻撃が増えた要因は、3点考えられます。

1点目は、もちろん家長と小田がマッチアップすることを考え、小田が守るサイドを攻撃しようという意図があったのだと思います。

2点目は、チームとして意識してトレーニングしている成果だと思います。この試合を見ていて、谷口やエドゥワルド・ネットのパスや顔の向きなどを見ていると、「同サイドだけでしつこく攻撃する」のではなく、「人が少ないエリアも使って攻撃する」ことを意識しているように感じたからです。左からボールを運ぼうとして、相手チームの守備者の距離が近くなったら、空いているサイドの選手にパスを出して、ボールを運ばせる。そんなプレーが何度も見られました。

バスケットボールでは、「スペーシング」という言葉を使うそうですが、わざと片方のサイドに人を集め、逆サイドの選手にパスを出して、1対1でドリブルを仕掛けてシュートチャンスを作り出すような攻撃を仕掛けることがあります。

今までの川崎フロンターレは、左サイドに人が集まっていても、半ば強引に攻撃を仕掛けシュートチャンスを作り出そうとしていました。シュートチャンスを作り出せる時もあるのですが、相手チームも対策をしているので、全てが上手くいくわけではありません。

むしろ、空いている人や場所があるので、上手く活用してもよかったくらいです。たぶん、トレーニングで修正を施したのだと思います。そして、この試合では、「右サイドから攻撃する」という意識をチームに浸透させやすい状況だったこともあったのも、幸いしました。

守田の素晴らしさは「アクションを止めない」こと

3点目は、守田のプレーです。守田は2018年シーズン開幕からコンスタントに出場機会を得ていますが、この試合は中央のMFでプレーし、素晴らしいプレーを披露しましたが、守田が最も貢献したのは、「右サイドにもパスを配った」ことです。

風間八宏さんの指導をうけた選手は、「簡単に攻撃する場所を変えない」ようにしつこいくらい言われているので、同じサイドで出来るだけ攻撃しようとします。

しかし、守田は風間さんの指導を受けていないので、良くも悪くもこだわりがありません。右サイドが空いていると思ったら、右サイドの選手に時間をかけずにパスを出します。

この守田の「空いている場所を使って攻撃する」という意識の下選択されたプレーが、川崎フロンターレが抱えていた「左サイドに攻撃が偏る」という問題を解消してくれました。守田は、15mから20mの距離の低くて速いパスが正確なので、「サイドを変える」と表現されるパスを出しても、相手の守備が対応する前に攻撃することが出来ます。

そして、守田が素晴らしいのは、「次のアクションに移るのが速い」「アクションが止まらない」ことです。

実は守田は「ボールを止める」というプレーの精度はそこまで高くはありません。「ボール止まっていない」と思う場面もあります。

しかし、守田はボールが止まっていなくても、次のアクションに移るのが速く、ボールを落ち着かせたり、止まっていない状態のまま、正確なプレーをするのが上手いのです。

そして、守田は1つアクションが終わっても動きを止めることなく、次のアクションを起こせるので、止まっていることがありません。アクションを連続して実行出来るので、ちょっとミスしても、すぐに取り返せるのです。守田がファウル無しでボールが奪えるのは、「アクションを止めずに実行し続ける」ことが出来るからです。

守田が入ったことによって、左はエドゥワルド・ネット、右は守田という役割分担が出来て、家長にもボールが供給される頻度が増え、家長が左サイドに移動する回数が減りました。大島は素晴らしい選手なのですが、どうしてもボール近くでプレーすることが多く、それゆえに生じていた問題を、守田が解消してくれました。

守田が活躍したことで、エドゥワルド・ネットや大島の控えを務める森谷と争いは、守田が一歩リードしたように見えます。

守田の課題は、今後試合日程が詰まってきて、疲労が蓄積してきた中で、どこまでコンスタントにプレーの質を保てるかだと思います。守田はいよいよ「活躍したら凄い」という段階から、「活躍するのが当たり前」という段階に入ったと思います。品定めされていた時期は終わりました。勝負はこれからです。

鹿島アントラーズのFWに真っ向勝負を挑んだ川崎フロンターレのDF

前半20分以降は、鹿島アントラーズが川崎フロンターレを押し込み始め、攻撃を仕掛ける回数が増えていきました。

鹿島アントラーズは川崎フロンターレとは異なり、DFからFWへのロングパスを活用して、相手陣内にボールを運んでくるチームです。FWは必ずサイドのDFの背後を狙い、DFはタイミングを見計らってパスを出してきます。パスを出すタイミング、受けるタイミングが的確なので、この攻撃は「分かっていてもなかなか止められない」のです。

鹿島アントラーズは監督が変わっても、サイドのDFの背後を狙った攻撃は変わりません。そのくらい徹底して狙ってきます。

ちなみに、この試合で鹿島アントラーズの方がヘディングの競り合いで勝っていたように見えたことを気にしている人もいたかもしれませんが、それは、鹿島アントラーズのプレーが上手いからです。セットプレーからの失点が多いのも、別の要因です。

僕はこの試合ちょっと驚いたのは、エウシーニョ、奈良、谷口、車屋といった川崎フロンターレのDFが、鹿島アントラーズのFWに対して、「真っ向勝負」を挑んだ事です。

エウシーニョや車屋の背後を狙ってくるのは分かっているので、DFが守る位置を自陣深くに下げて対応するという方法もありました。しかし、川崎フロンターレが選んだのは、出来るだけ相手ゴールに近い位置で守り、スピードに乗って攻撃を仕掛けてくる金崎や鈴木に対しては、1対1で守るという選択でした。鈴木や金崎がボールをキープし、仕掛ける場面が何度もありましたが、川崎フロンターレのDFも一歩も引きません。

特に谷口は、これまでこうした相手に対して、1対1の守備を避ける傾向がありましたが、この試合は金崎に対して、びっくりするくらい真っ向勝負を挑んでいました。

必ずしも全ての局面で優位にたてたわけではなく、金崎を1対1で封じこめたわけでありません。しかし、普段はイエローカードをもらうような守備をしない谷口が、ボールを果敢に奪いにいく姿は、僕には頼もしく見えました。車屋も素晴らしかったです。

たぶん、川崎フロンターレの選手には、「引いたらやられる」という思いがあったのだと思います。鹿島アントラーズを叩くなら、真っ向勝負して、きちんと勝ちたい。そんな想いを選手のプレーからは感じました。

鹿島アントラーズの攻撃は「速すぎる」

鹿島アントラーズの攻撃を見ていて感じたのは、「プレーのスピードが速すぎる」という事です。FWの金崎や鈴木は身体が強く、ボールを運ぶのも上手いので、2人の力でボールを相手陣内まで運べます。特に鈴木のボールを引き出す動きやドリブルの上手さには驚かされました。このプレーが出来れば、鈴木は90分プレーする機会も増えるし、日本代表に選ばれる可能性もあるはずです。

しかし、2人でボールが運べるということは、他の選手がプレーに関与していないということでもあります。

2人がボールが運ぶスピードが速いので、他の選手は全力で追いかけないと追いつかないし、追いついたとしても、全力疾走でパワーを使っているので、ゴール前で正確なプレーが出来ないのだと思います。

Football-Labのデータに記されていた、攻撃回数がリーグ1位、シュート数がリーグ2位なのに、シュート成功率がリーグ17位というデータの要因は、攻撃が速すぎることと、シュートを打つまでにパワーを使いすぎていることが要因だと思います。

また、この試合では中央からの攻撃がほとんどなかったことも気になりました。サイドからの攻撃が得意なチームなので、サイドからボールを運ぶのは悪い選択ではありませんが、中央から攻撃してこないと思えば、相手としては対策は簡単です。もっと中央からの攻撃が増やせれば、パワーをそれほど使わずにシュートチャンスを作れるのではないかとも感じました。

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西原雄一

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