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2017年J2第7節 名古屋グランパス対カマタマーレ讃岐 レビュー「今の名古屋グランパスは十分面白い」

2017年J2第7節、名古屋グランパス対カマタマーレ讃岐は、2-1で名古屋グランパスが勝ちました。

カマタマーレ讃岐の狙い

前半はカマタマーレ讃岐のペースで進みます。カマタマーレ讃岐は、名古屋グランパスのDFがボールを持った時、積極的にボールを奪いにきました。そして、ボールを奪ったら、ロングパスで名古屋グランパスのDFの背後を狙い、チャンスを作り続けました。特に攻撃時の狙いとしては、名古屋グランパスの守備を支えている櫛引を中央からサイドに動かし、空いたスペースを活用してゴールを奪おうという狙いがみえました。

名古屋グランパスは、前半はカマタマーレ讃岐の守備に捕まってしまいます。カマタマーレ讃岐の守備もよかったのですが、気になったのは田口のポジションです。普段だとDF3人とワシントンの4人でパスを回し、ワシントンが時折DFラインに入りながら、相手のマークを外し、ボールを運んでいきます。しかし、この試合の前半は、田口が相手の守備を外そうとするあまり、ポジションをワシントンと同じ位置まで下げてしまい、DFが相手ゴール方向にボールを運び、パスを出したくても、パスを受ける田口がいないので、なかなかボールを前に運ぶ事が出来ませんでした。

また、前半はフェリペ・ガルシアがシモビッチと同じように、相手DFに並んでボールを受けようとしてしまったため、なかなかDFからパスを出せません。田口とフェリペ・ガルシアとの距離が遠いことで、玉田の周りに人がいなくなってしまい、玉田がボールを受けても次のプレーでパスを出す選手がいないので、パス交換のテンポが上がりませんでした。田口とフェリペ・ガルシアは、共に負傷した和泉と佐藤に代わって出場した選手です。和泉と佐藤は、攻撃の起点として、ボールを受け、ボールを運ぶ役割を担っていた選手なので、前半は2人の不在が響いてしまいました。

田口とフェリペ・ガルシアの役割を整理して、改善

しかし、後半に入ってチームは上手く修正しました。まず、田口とワシントンの役割を整理し、ワシントンがDFラインをフォローし、田口は玉田の近くでプレーするというように、役割を整理します。また、フェリペ・ガルシアは攻撃時は玉田の近くでプレーし、ボールを受けてくれるようになったことで、パス交換のテンポが上がっていき、カマタマーレ讃岐の守備を外して、スムーズに相手ゴール前までボールを運べるようになりました。

杉本と杉森のプレーの違い

後半から入った杉本のプレーも、ボールをスムーズに運ぶことに貢献していました。杉本は上手く相手のサイドバックとサイドハーフの間に立ち、ボールを受けることが出来る選手です。そしてボールを受けたら、相手がボールを奪いにくるまでドリブルでボールを運び、ボールを取られる事がありません。常に相手の守備者をドリブルでかわすわけではありませんが、杉本がミスなくボールを運んでくれるので、他の選手は動き直す余裕が出来ました。

杉本とは対象的だったのが、前半で交代した杉森のプレーです。杉森が能力が高い選手なのは、ボールを持った時の姿勢、ボールの持ち方を見ればよく分かります。しかし、杉森が上手くプレー出来ないのは、ボールをもらう前の動きが悪いからです。サイドの選手は、ボールをもらう前に、相手のマークを外す動きをしなければ、ボールを持った時に相手に捕まってしまいます。しかし、杉森はほとんどボールをもらう前に動きがありません。杉本のように、フリーで受けられる場所を探す事もありません。したがって、ボールを持った時に、相手の守備者に捕まっている状況でボールを受けてしまうのです。相手に捕まっているなら、近くの味方にパスして、もう一度動き直したりすればよいのですが、杉森はそれもしません。ボールを持ったら、相手の守備が待ち構えているところにドリブルを仕掛け、ボールを失う。そんな場面が何度もみられました。

杉本の方が、ボールを持っている時、ボールを持っていない時の判断が悪い選手に見えるかもしれませんが、杉本はとても賢い選手です。常に動いて、相手の守備を動かし、自分がボールを受ける事が出来る場所を作り出します。ボールを受けたら、相手をかわすプレーもしますが、まずはボールを失わないことを優先してプレーしてくれます。とても頭のよい選手です。

杉森がどこまで自分に足りない部分を自覚しているかは分かりませんが、サッカーはボールを受ける前の駆け引きで、ボールを持った時のプレーの成功率が変わるスポーツです。その事を理解し、ボールを持っていない状態で相手を動かせる選手になれば、素晴らしい選手になると思います。チームも期待して杉森をコンスタントに起用しています。あとは本人次第です。僕は杉森がどこで変わるのか、変わらないのか、注目しています。楽しみです。

宮原は個人戦術のレベルが高い

この試合の失点のきっかけは、宮原が足を滑らせた事が原因でした。しかし、これまでの宮原のプレーを観ている人は、このミスだけで宮原の評価を変える事はないと思います。サンフレッチェ広島から移籍してきて、既にチームに欠かせない選手になっています。

宮原は名古屋グランパスの中では、個人戦術のレベルがとても高い選手です。守備時の1対1の対応に優れ、ボールを扱う技術も高く、簡単にボールを失う事がありません。そして何より宮原の凄い所は、どんな場所で起用しても、自分が何をすべきか分かっている事です。サッカーというスポーツで、状況に応じて求められている事を理解し、最適なプレーを選択し、時には自分のポジションを外れても、相手を叩きのめす上で最適なプレーを選択出来る選手です。宮原のような選手を、「頭のよい選手」というのですが、本当に頭のよい選手です。宮原のような選手が11人欲しい。監督としては、そんな事を考えたくなるような選手です。あえて課題があるとしたら、1つ1つの技術のレベルを上げていくことでしょうか。ただ、それは、今の名古屋グランパスの環境でプレーしていれば、自ずと実現出来る事だと思います。今後の成長が楽しみな選手です。

今の名古屋グランパスは十分面白い

この試合の入場者数は、7,046人。雨という天候もありましたが、少し観客が少ないと思いました。僕自身、名古屋に住んでいないので、観に行けない立場で言うことではないかと思いますが、今の名古屋グランパスはとても面白いサッカーをしています。個人個人の技術レベルを高めることで、攻撃時は3-4-3、守備時は5-4-1というフォーメーションを使い分け、攻撃時は永井と杉本が左右のFWのようにプレーし、MFはワシントンとフェリペ・ガルシアを中心にひし形を構成することで、パスが回しやすいトライアングルを作りやすいフォーメーションにすることで、パスを回しやすくしています。そして、選手間の距離を短く保つことで、ボールが奪われた時に、ボールを奪い返しやすくするような工夫もしています。

相手が攻め込んできた時は、フォーメーションを5-4-1にすることで、相手が攻め込む場所をふさぎます。こうした、攻守でフォーメーションを変え、時には決められたフォーメーションを崩してもゴールを奪おうとする戦い方は、最近のヨーロッパサッカーのトレンドとも通じます。そして、サンフレッチェ広島や浦和レッズのように、きちっと形を決めているのではなく、状況に応じて選手の判断でプレーを変えているため、僕が書いたフォーメーションが正しいのかもわからないくらい、目まぐるしくポジションを変えてプレーしています。

ペップ・グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンの監督を務めていた時、「フォーメーションが分からない」と言われた事がありますが、今の名古屋グランパスのフォーメーションがどうなっているのかは、監督と選手しか分からないと思いますが、選手も監督もフォーメーションを意識して戦っていないと思います。名古屋グランパスのようなサッカーは、今のJリーグではほとんど見られません。風間監督は戦術の事を詳しく語りませんが、実は戦術の観点で分析すると、とても面白い事を実践しています。今の名古屋グランパスは、もっと注目されていいし、もっと観られてよいサッカーをしていると思います。そして、今の名古屋グランパスの戦い方を追いかけていくと、少しずつ風間監督が新たな環境でやりたかったサッカーが理解出来た気がするのです。

次はアウェーで徳島ヴォルティス戦。監督が代わり、とてもよいサッカーをしているチームです。どんな試合になるのか、楽しみです。

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