見出し画像

野生イノシシを対象とした豚コレラウイルス浸潤状況調査の現状

 2018年9月に岐阜県で国内26年ぶりに発生が確認された家畜伝染病(監視伝染病)の豚コレラ(CSF; Classical Swine Fever).養豚場の豚だけでなく野生のイノシシ間での感染も生じ,現在では関東~近畿地方の各地に感染が拡大.終息の目処が立っていません.
※最新の豚コレラ感染状況については以下のページにまとめています.

 豚コレラウイルスの拡がりを把握する上で重要なのが,各県で実施されているウイルスの浸潤状況調査です.これは,通常行われているイノシシの狩猟捕獲や有害捕獲とは別に,調査捕獲による検査を実施します.この浸潤状況調査の手順方法については,農林水産省の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」内で示された「豚コレラ対策における野生いのしし対応マニュアル」に定められています.

対応マニュアルの概要

■飼養豚で患畜・疑似患畜が確認された場合
発生農場や感染源と考えられる地点を中心とした半径10km以内の区域や県内養豚場周辺を中心に,少なくとも28日間,検査のための検体を死亡・捕獲野生イノシシから採材する.各都道府県が抗原検査や血清抗体検査を実施する.
野生イノシシからウイルスや抗体が検出された場合
当該野生イノシシ確保地点を中心とした半径10km以内の区域・県内養豚場周辺を中心に,消毒終了後少なくとも28日間実施する.採材・検査内容は上記と同様.
(農林水産省「豚コレラ対策における野生いのしし対応マニュアル」)

追加の対応

 農水省は,岐阜県での発生を受け,野生イノシシへの追加の対応について各都道府県に以下のような関連通知を出しています.
■死亡個体の感染確認検査実施(2018年9月14日)
各都道府県内で死亡した野生イノシシは,原則として抗原検査・血清抗体検査実施のために検体を採材する
(農林水産省「岐阜県における豚コレラ発生に伴う野生動物の感染確認検査の実施について」)
■浸潤状況確認の期間変更(2019年6月28日)
感染拡大状況を踏まえ,上記マニュアルの「少なくとも28日間」を「当面継続」とすることが適切である
(農林水産省「『豚コレラ対策における野生いのしし対応マニュアル』におけるウイルスの浸潤状況確認の期間についての考え方」)

 以上のように,これまでのマニュアルの対応に加え,全国で死亡イノシシの検査を実施することや感染地点周辺での検査は当面継続して実施することを求めています.

岐阜県での調査状況

 では,実際にこれまで検査がどの程度行われ,どのような結果が出ているのか,岐阜県の公表資料をもとに以下のグラフにまとめました.

画像1

 このグラフは豚コレラ(CSF)初確認の2018年9月以降に岐阜県内で検査を実施した野生イノシシを,捕獲•陽性,死亡•陽性,捕獲•陰性,死亡•陰性の4区分で月毎に集計したものです.棒は検査頭数,折れ線は陽性率を示しており,青が捕獲個体,赤が死亡個体を表しています.

 岐阜県内では継続して毎月一定数のイノシシが検査されていることが分かります.2019年3月に捕獲数が大きく減っているのは,この時期に第1期豚コレラ経口ワクチン野外散布が実施されたためと考えられます.ワクチン散布の「餌付け~散布~回収」の時期はイノシシの捕獲が停止され,回収終了後に集中的に捕獲を実施する体制を取っているからです.今月(2019年12月)の捕獲数が非常に少ない経過をだとっているのも,同様の理由によるものです(第3期の散布を実施中).
 時期によって検査対象の地域が異なること,経口ワクチン散布時に捕獲体制が変わることなどから,単純に結果の推移を比較することはできませんが,死亡個体の陽性率は高い水準を維持している一方,捕獲個体の陽性率は2019年中頃から減少傾向にあるように見受けられます.

岐阜県内・地域ごとの状況
 県内の地域によってどのような違いが見られるのか,岐阜県を6地域に分けて同様の集計を行ったのが以下のグラフです.

画像2

※各地域は以下のように区分しています(下図参照).
「岐阜地域」=岐阜市,各務原市,山県市,本巣市,瑞穂市,羽島市,北方町,岐南町,笠松町
「中濃地域」=関市,美濃市,美濃加茂市,可児市,坂祝町,富加町,川辺町,七宗町,八百津町,白川町,御嵩町,東白川村
「東濃地域」=多治見市,土岐市,瑞浪市,恵那市,中津川市
「西濃地域」=大垣市,海津市,揖斐川町,大野町,池田町,垂井町,関ケ原町,養老町,神戸町,輪之内町,安八町
「北濃・飛驒南部」=郡上市,下呂市
「飛驒北部」=高山市,飛驒市,白川村

画像4

 初めて陽性個体が確認された岐阜地域では1年以上が経過した現在においても陽性個体の確認が続いており,完全に終息したとは言えない状況にあります.中濃・東濃地域では,2019年の春~初夏をピークに陽性捕獲個体の割合は減少傾向にあり,陽性死亡個体の頭数もこの頃をピークに減少しています.これらの地域の動向が岐阜県全体の推移に大きく反映されていることが分かります.一方,ウイルスの侵入が他の地域より遅いと考えられる飛驒北部では,現在も陽性死亡個体頭数の多い状態が続いています.
 「北濃・飛驒南部」は郡上市と下呂市を対象とした地域ですが,グラフを見ると,今年10月以降このエリアでは調査捕獲がほとんど行われていないことがわかります.ほかの地域では捕獲が継続して行われていることから,このエリアのイノシシだけ全滅状態で捕獲困難だとは考えられません.こうした地域差は,各自治体にある猟友会の体制・方針・規模の違いによって生じていると考えられます.イノシシの検査は前述の通り各都道府県が行うものですが,実際に現地で捕獲・収容等を行う作業は猟友会や地元自治体関係者に課せられています.そのため,どうしても地域によって捕獲体制・方針には差ができてしまうのでしょう.
 なお,この「北濃・飛驒南部」エリアで検査している個体の大半が郡上市で発見・捕獲されたイノシシで,下呂市内の個体が占める割合は非常に少なくなっています.これまでに確認された陽性頭数は郡上市が109頭なのに対して下呂市はわずか16頭で(12月20日現在),陰性個体についても同様の差が出ています.この2市の陽性個体の捕獲状態を比較すると(下図),郡上市では有害捕獲(赤)による個体が大半を占めているのに対し,下呂市では調査捕獲(ピンク)由来の個体しか確認されていません.このことから,捕獲体制の違いのみならず,そもそも検査対象が地域により異なっていることが検査頭数の違いとして表れていると言えそうです.

画像3

 岐阜県によれば,経口ワクチン散布地域内の陰性イノシシの抗体保有率は徐々に上昇傾向にあるようです(「岐阜県豚コレラ有識者会議」資料など).これが経口ワクチンによるものなのかどうかは定かでないですが,発生地である岐阜県で,今後イノシシの個体数や陽性率,抗体保有率がどう推移するか引き続き注目です.

※豚コレラ(CSF)に関する詳細情報·最新情報は錦鮒出版公式サイトに掲載中です。https://nishikibuna.web.fc2.com/hogcholera.html


錦鮒出版は有志が個人で運営しています。
当活動を応援して下さる方は,是非ご支援をお願い致します。⇩
※サポートはログインが必要・金額設定可,記事の購入はログイン不要・金額固定となっています.

ここから先は

0字

¥ 300

支援していただける方がいましたら、よろしくお願いいたします