作品「踊る言葉」


踊る言葉         
 
 
詩を書くには
静かな時間がほしい
 
静けさに誘われるように
体から言葉が
ペン先に
にじみ出す
 
放たれた言葉は
紙の上で立ち上がり
勝手に踊り出すことがある
または
紙の上に倒れたまま
全く動かないこともある
やっかいなのは
紙の上でも
考えている言葉
 
昨日
古い詩集が届いた
私の好きな詩人が戦後初めて世に送り出した詩集だ
奥付には
昭和二十九年とある
活版印刷の文字は
すっかり年老いていたが
「生は すでに宙に浮いている」と
クールに放たれた言葉は
まだ熱く
踊っていた






『歩きながらはじまること』(七月堂)収録
『フタを開ける』(書肆山田)収録

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