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症例振り返り15 慢性陰嚢痛で陰嚢外の原因を探る

症例 50歳男性

生来健康で手術歴のない方の右下腹部痛。
2-3カ月前に右腰部痛が先行。
1月前から続く右下腹部の圧迫感で、陰嚢を握られる感じ日に何回もあった。

増悪因子:足を閉じての座位、立位、側臥位で増悪。前かがみも。
緩解因子:右股関節を外転してると楽

陰嚢は問題なく、右下腹部の鼡径靱帯の1横指上に靱帯に沿って深い触診で圧痛あり、Carnet徴候は陰性でした。
脊椎由来の神経痛かとも思い診察するも否定的な結果でした。

採血、エコー、腹部CTでは特に所見はありませんでした。

慢性陰嚢痛

慢性陰嚢痛の鑑別での考え方の最初の一歩は原因が陰嚢内にあるのか、陰嚢外にあるのかというところ。

陰嚢内の原因による慢性陰嚢痛の原因について
Up to dateでの非急性の精巣疾患の鑑別には精索静脈瘤、水腫、嚢腫、精巣癌、慢性精巣上体炎などが挙げられている

精索静脈瘤は最も頻度が多い。
・左側精巣に多い(左腎静脈が動脈に挟まれるていることによる)
・立位やValsalva手技で増悪(静脈うっ滞による)
・症状は①陰嚢痛②性腺機能低下などだが無症状も多い
・右側の場合は注意(静脈血栓などの閉塞性病態を考慮し)
・治療は手術加療となるが、性機能の保持が目的でなければ必須ではない。

関連痛としての陰嚢痛

陰嚢外の原因として骨盤底機能障害、尿管結石症、鼠径ヘルニア、大動脈瘤、血管流障害、絞扼性神経障害など、陰嚢外に原因がある場合も精巣に痛みを引き起こすことがある。

文献1より

筋骨格系、脊椎疾患からの陰嚢痛は参考文献4が詳しい

慢性陰嚢痛へのアプローチ

  • 陰嚢内に原因がありそうなら泌尿器科でエコー検査など依頼

  • 陰嚢外の検査として手術歴とCT画像検査で大体の関連痛を来たす状態は評価できる

  • 前立腺や膀胱からの関連痛の可能性はあり、泌尿器症状や射精痛は確認

今回の症例では陰嚢外の原因による関連痛がもっとも考えられ、右下腹部にCarnet徴候陰性の圧痛を確認できたため盲腸周囲の病変が最も可能性が高い。CT画像では指摘できていないが、盲腸癌は大腸カメラでチェックする。大腰筋による神経のentrapmentも可能性はあるがその場合には対症療法での経過観察をメインと考える。

参考文献

  1. McGee, Steven R. "Referred scrotal pain: case reports and review." Journal of general internal medicine 8 (1993): 694-701.

  2. Ziegelmann, Matthew J., M. Ryan Farrell, and Laurence A. Levine. "Evaluation and management of chronic scrotal content pain—a common yet poorly understood condition." Reviews in Urology 21.2-3 (2019): 74.

  3. Rottenstreich, Misgav, Yuval Glick, and Ofer Natan Gofrit. "Chronic scrotal pain in young adults." BMC Research Notes 10 (2017): 1-5.

  4. Chu, Eric Chun Pu, and Arnold Yu Lok Wong. "Chronic orchialgia stemming from lumbar disc herniation: a case report and brief review." American Journal of Men's Health 15.3 (2021): 15579883211018431.

  5. Up to date:Nonacute scrotal conditions in adults


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