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Crimson Artのあとがきにかえて

自作のマーダーミステリー作品のレビューはできませんが、本稿では拙作『Crimson Art』をどのようなコンセプトで制作したかについて紹介します。

なお完全なネタバレとなりますので、プレイ予定の方はプレイ後にお読みください。














システムのリアリティ

システムのリアリティはゲームの都合から要請される不自然さを極力なくすことです。
自分の持ち物を調べられない、密談の人数が決まっている、推理を発表する順番が決まっている……などなど、ゲームバランス的には必要なのが理解できるものの、現実の起きていれば不自然な点はなるべく減らしました。
マーダーミステリーのプレイヤーであれば一度くらいは疑問に感じたことがあるはずで、それは私も同じです。

であれば、いつ何をしていたか30分単位で記憶しているのはもちろん不自然で取り払うべきです。それは重々承知しています。
ただ各自の思惑が絡み合うこの作品で、タイムラインくらいははっきりさせないと情報整理が捗らずに混乱を来すと判断し、今回は妥協して残しました。
リアリティを高めるのはユーザー体験を向上させるためなので、ユーザー体験を犠牲にしてリアリティを高めても本末転倒です。
次回作があるのなら、この点もよりリアルに近づけられればと考えています。

キャラクターのリアリティ

キャラクターのリアリティは背景設定に表れています。
『Crimson Art』の登場人物のほとんどはファンタジーの住人です。だからこそ真実味を出すために史実や実在の組織を引用しています。
すべてが架空だとプレイヤーに現実めいて受け入れてもらえません。99の真実があれば、1のフィクションももしかすると真実かもしれないと考えてもらえます。
そしてそれが没入感につながります。

美術商が師事したウィリアム・ブレイクは幻視者という異名がある実在の人物です。彼の描いた絵を見ると、魔性の存在とつながりがあったかもしれないと想像を巡らせることができます。
給仕が所属する特殊組織対策室は架空の組織ですが、警察庁警備局警備企画課は実在していて、チヨダやゼロと呼ばれる諜報組織が属しています。
探偵の敵であるカガチの配下とされている企業も実在していて、事業内容や歴史を調べてもらえばなぜ挙げられているかがわかります。
実業家のスーツ(イングリッシュドレープスタイル)と政治家のスーツ(いわゆるお座敷スーツ)は仕立てが違っていて、ちゃんとその理由もあります。

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また作中ではほぼ触れられていませんが、吸血鬼社会や作中に登場する以外の吸血鬼や人狼の能力、魔性の者同士の関係性などもきちんと設定しています。
もっとも『Crimson Art』はテーブルトークRPG『World of Darkness』シリーズをモチーフにしていて、完全オリジナルではなくその設定に沿ったものです。

もちろんこれらの知識をプレイヤーが知っている必要はまったくなく、プレイには何の支障もありません。そもそもプレイ中に知ることができない情報もあります。
ただリアリティを積み重ねることでキャラクターの深みが生まれ、それによって没入感が増し、プレイヤーの満足度も上がります。

自由度のリアリティ

プレイヤーの自由意志の尊重は最もこだわった点です。
キャラクターを演じるとはいえ、役者や声優でもない人間が自分の考えとまったく異なる行動原理や性格のキャラクターをプレイするのは困難です。
背景は細かく設定する一方で、キャラクターの性格にはほとんどハンドアウトの中で触れていないのは、プレイヤーが自由に性格をあてはめられるようにです。
あなたが考える政治家、あなたが想像する美術商……プレイヤー1人1人が自分のキャラクター像を作り上げてほしいと考えています。

画家以外はメイン目標を2つの中からどちらか1つを選べるようにしているのも、アクションフェーズの行動をいくつも用意しているのも、プレイヤーにキャラクターの運命を選択してもらうためです。
2つ目の選択肢が提示されるのが画家の告白の後というのは、エスカレーション(盛り上げ)を考えてのことです。
犯人がプレイ半ばで自白するというサプライズをきっかけに物語が転回します。

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メイン目標を選択可能にしたことで、キャラクター同士の対立関係も自由に組み合わせられるようになっています。
一般的なマーダーミステリーでは「犯人探し」が主である以上、犯人 vs それ以外という構図にしかなりませんし、キャラクターの目標からも誰と誰が対立するかが既定されています。
しかし『Crimson Art』では犯人を捕まえようとしているのは給仕だけです。ほかのキャラクターには犯人を捕らえるより大事な目標があり、目標達成のために誰と協力するかを自由に選べます。

いつ協力関係を結ぶのかも重要で、早い段階で吸血鬼が政治家を取り込めれば、実業家、美術商、政治家で吸血鬼ハンターの給仕を拘束するという展開もあり得ます。
一方で終盤まではっきりした協力関係がなければ、探偵、美術商、政治家で画家を守る同盟が結成されるでしょう。
あるいはマダムを復活させるため、それを阻止しそうな給仕を拘束しようという流れもあるかもしれません。

大切な目標を持った人物が集まった場で殺人事件が起こったとして、全員が犯人を捕まえることに必死になるかというと、そんなことはないだろう(特に美術商や政治家あたり)という考えに基づいています。
だからこそ犯人を捕まえた後、自分のやりたいことのために行動する「ポストミステリー(犯人探しのその先)」として追加議論とアクションフェーズを用意しています。

プレイヤーの意志と決断次第で「たった1つの物語」を紡ぎ出すことができます。

さいごに

『Crimson Art』はこんなことを考えながら制作しました。
もちろん作者の力量不足で伝えきれなかったこと、表現しきれなかったことはあるでしょう。
感想、要望、質問、文句などを送ってもらえれば、今後の参考とさせていただきます。

マダム背景


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