にっしー

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マーダーミステリー評論家です。 市販のマーダーミステリー作品はオンライン、オフラインともにすべて購入、プレイ回数はオンライン、オフラインとも数百回です。 レビューはネタバレを一切含まないというポリシーで執筆しています。また個人的な主観で描かれていることをご了承ください。

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  • マーダーミステリーのプレイレビュー

    自分でプレイしたマーダーミステリーについてのプレイレビューです。 1度しかプレイできないので個人的な主観であることはご了承ください。

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    個々の作品についてではなく、マーダーミステリー業界やマーダーミステリーというジャンルそのものについての考察です。

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霧に眠るは幾つの罪のレビュー:情報の海で推理に忘我する佳作―ベテランプレイヤーの試金石

マダミスが世に出てから5年が経過し、3000作品以上がリリースされ、プレイヤーも何十、何百と数多くの作品をプレイしてヒューリスティックな知識を蓄積している人も現れています。 マダミス作品も進化し続けていて、物語体験に重きを置くもの、プレイヤー同士の関係性を重視するもの、協力して推理にあたるものなど、百花繚乱の遊壇を迎えています。 そんな中でリリースされた『霧に眠るは幾つの罪』は推理にフォーカスした作品であり、圧倒的なインフォメーションからインテリジェンスを導出するため、推理に

    • あるマーダーミステリーについてのレビュー:緻密にゲーム体験が設計され、独特な没入感を持つ傑作

      『あるマーダーミステリーについて』は推理を重視した作品でありながら、ユニークな手法で深い没入感まで実現されており、計算され尽くした濃縮な体験を短いプレイ時間の中でぎゅっと味わえる傑作です。 事前の注意事項にある通り感動する要素は一切なく、ロールプレイやエモさを楽しみたい方には向いていませんが、マダミスらしい「別のリアル」を体験できます。 一般的にマダミスの没入感は世界観や人物造詣の作り込みによって高められます。 登場人物にリアリティを持たせることで、俯瞰的なプレイヤーの視点

      • マダミスを再定義する:ジャンル拡張宣言

        本Noteではこれまで、マダミスを「犯人探しのゲーム」だと定義づけてきました。この定義自体はほとんどの既存作品にうまく当てはまっていますし、これからも相当し続けるでしょう。 しかし約5年の時の流れの中でマダミス作品は多様化し、マダミス市場は拡大し、派生ジャンルも生まれています。 そしてこれからの5年を見据えると、「マダミス」を再定義すべき時期に差しかかっています。 具体的に新たなマダミスの定義として提唱するのは 「各プレイヤーが登場人物の1人となって行動し、物語を体験するエ

        • 5DIVEのレビュー:ニューウェーブマダミスの先駆となる傑作

          はじめにお断りしますが、『5DIVE』は従来型の分類でいえばマダミスではなくLARPです。 プレイヤーは登場人物の1人となって作品の世界観の中で事件解決のために決断や選択を行いますが、プレイヤーの中にいる犯人を探すわけではなく、競合や勝敗といったゲーム性も存在しません。 しかし本稿では敢えて"マダミス"の傑作と位置づけています(むろん、LARPとしても傑作です)。 『5DIVE』では登場人物の1人として作品の世界観に深く没入し、複雑な事件を協力して解き明かすことに重点が置か

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          マダミスを大量購入する人向けのゲームマーケットガイド

          ゲームマーケットでたくさんマダミスを購入するためにはなにを準備すればよいでしょうか---毎回ゲームマーケットでマダミスの全作品を購入している経験者によるノウハウをお伝えします。 マダミスとは謳っていますが、ゲームマーケットでボードゲームやTRPG、謎解きなどを購入する方でも役に立つはずです。 前日まで出展作品のチェック(ブース番号、作品名、価格など) 当日までにどういったサークルがどこに出展しているのか、何を販売するのかを把握していないと大量に回ることはできません。 ゲー

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          マーダーミステリーパラドクス体験版のレビュー:推理重視のマダミスの形式が体験できるアドベンチャーゲーム

          『マーダーミステリーパラドックス このひと夏の十五年』でマダミスプレイヤーがもっとも気になるのは、「果たしてマダミスになっているのか」ということでしょう。 体験版をプレイしたところ、犯人探しそして推理面はマダミスが再現されていました。 ただ没入感や自由度という点では一般的なアドベンチャーゲームと変わらず、結果として体験版は、「マダミスの形式で推理できるアドベンチャーゲーム」というのが正直な感想です。 アドベンチャーゲームとしては十分に楽しめますが、1人プレイでマダミスを体験で

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          パッケージマダミスの短評

          最近リリースされた作品を中心にしたパッケージマダミスの短評です。 ※初公開時に『金田一少年の事件簿 夢見島殺人事件』について表題の誤記がありました。お詫びして訂正します。 アストリアの表徴 ─名探偵アルフィー最後の事件─ 「本格派マーダーミステリー」という謳い文句の通りに推理を重視した良作です。 ゲームシステムはシンプルで情報量が多いわけではなく、あくまで犯人探しに注力しているのに重厚な作りです。 登場するキャラクターたちは個性豊かでわかりやすく、ヴィクトリア朝のイギリス

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          Lost/Remembranceのレビュー:極上のミステリ小説のような推理体験が満喫できる傑作

          マダミスとは「犯人探し」であり、その3要素は「没入」、「推理」、「競合」ですが、その中で『Lost/Remembrance』は推理に特化した作品であり、推理重視のマダミスでは史上最高傑作です。そして協力型という新たなマダミスの形態を世に知らしめる作品でもあります。 推理によって難解なパズルのピースを組み合わせて一幅の絵を完成させる様は一級の推理小説のようです。 しかも推理を進めるのはプレイヤー自身であり、よく練り込まれた構成や没入感を高めるシステムがゲームならではの体験を生み

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          天使は花明かりの下でのレビュー:物語への没入の先に待ち受ける情動の嵐を体験できる傑作

          ストーリープレイング(ストプレ)はマダミスよりも自由度が高く、マダミス以上に世に広まる大きな可能性を秘めているジャンルです。一方でマダミスと比べて非定型なジャンルであり、作品を成立させるのが難しくもあります。 実際、マダミスの派生ジャンルとしてストプレが生まれておよそ2年が経過しており、良い作品もいくつか出ていますが、いまだマダミスのような一ジャンルを築くにはいたっていません。 『天使は花明かりの下で』は「人の心を揺り動かす」というストプレで最も大事な要素を丹念に扱っていて、

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          七色の結婚式のレビュー:体験のリッチさを極限まで推し進めたアトラクション

          店舗公演のマダミス作品のトレンドの1つとして「体験のリッチ化」があります。パッケージやオンライン、アプリでは体験できない没入感を提供することで、ほかのプラットフォームとの差別化のポイントです。。 『七色の結婚式』は「超没入型マーダーミステリー」と銘打たれている通り、それにフォーカスした作品です。 それだけにリーズナブルな範囲内ではこれ以上望めないほどのリッチさが実現されています。 物語世界への物理的な没入感はほぼ究極であり、アトラクション的なエンタメ体験としてプレイすべき作品

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          ゲームマーケット2023春のマダミス出展状況を振り返る

          ゲームマーケット2023春が無事に開催されました。マーダーミステリーやストーリープレイング作品や出展サークルを振り返ってみます。 大きなトピックは「大人数向けへの回帰」、「謎解き団体の参入」です。 なおサークルや新作の出展数、価格の公式なデータは存在していないので、あくまで個人的な調査に基づくものです。多少のブレがあることはご了承ください。 まず出展したサークル数と新作の数を過去と比較します。 サークル数は2021年秋以降は右肩上がりで、前回のゲムマ2022秋と比較しても増

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          ゲームマーケット2023春のマーダーミステリー出展情報(5月12日時点)

          ゲームマーケット2023春(2023年5月13日、14日に東京ビッグサイト 西展示棟1~2ホール)で出展されるマーダーミステリー、ストーリープレイングの出展情報です。 あくまでにっしー調べになるのでリストは網羅できているとは限らず、誤りがあるかもしれません。

          ゲームマーケット2023春のマーダーミステリー出展情報(5月12日時点)

          『アク 星降る島に花束を』のレビュー:過猶不及―方向性の違いは揚棄せず

          『アク 星降る島に花束を』は、プレイスペース全体で作品世界を表現し、プレイヤーが五感で作品を体感できる「劇的マーダーミステリー」と『シュレーディンガーの密室』や『パンドラの箱の再開』といった物語体験に定評がある作品を送り出してきた白岩ぱんだ氏によるコラボ作品です。 どちらも異なるアプローチで没入感を追い求めており、うまくマリアージュすればマダミス史上に残る傑作が生まれる可能性を秘めています。 それだけに期待していたのですが、残念ながら本作では要素が詰め込まれすぎてフュージョン

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          限界の向こう側のレビュー:博愛主義を感じるやさしい世界、コンセプトとマダミスの競合

          『限界の向こう側』は名作『コーヒーカップが割れたとき』の作者すな氏の新作であり、前作に引き続いて「登場人物と真正面から向き合う」という作家性が強く感じられるフィランソロピーな作品です。 また演出によって没入感を高めるという店舗マダミスのトレンドが採り入れられていて、丁寧に作られた愛があふれる世界観をプレイヤーが作者とともに体験することができます。 作者は「大人の青春の世界」と表現していますが、まさに「大人の青春」を体験することができます。 一方でシステムや進行面では犯人探しを

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          『キミと青いヨルの』のレビュー:ジャンプに載る快挙、物語体験型マダミスの名作

          日本で最も有名で売れている漫画雑誌といえば週刊少年ジャンプです。発行部数は100万部を超えていて、これは漫画雑誌のみならず雑誌の全ジャンルの中でも最も発行部数の多い雑誌で、『ワンピース』や『鬼滅の刃』、『チェンソーマン』、『呪術廻戦』など、数々のヒット漫画が掲載されてきました。 そんな週刊少年ジャンプの3月20日発売号に『キミと青いヨルの』というマダミスとその漫画が掲載されました。ジャンプに掲載された漫画がプロローグになっていて、誌面のQRコードを読み込めば実際にマダミスをプ

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          私が好きなマーダーミステリーベスト10

          2022年末に開催されたトークショー「私が好きなマーダーミステリーベスト10」に登壇、ベスト10を発表しました。 トークショーは配信も終了していますが、各登壇者のベスト10は「マーダーミステリーマガジン Vol. 6」で掲載予定です。 そこでベスト10作品を選んだ私なりの基準を公開します。 ベスト10を選ぶにあたって、そもそも「マダミスとは何か」、「マダミスの面白さとは何か」を把握していないと何がベストなのかを決めることができません。 そこで具体的な作品に触れる前にこれらの

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