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Lost/Remembranceのレビュー:極上のミステリ小説のような推理体験が満喫できる傑作

マダミスとは「犯人探し」であり、その3要素は「没入」、「推理」、「競合」ですが、その中で『Lost/Remembrance』は推理に特化した作品であり、推理重視のマダミスでは史上最高傑作です。そして協力型という新たなマダミスの形態を世に知らしめる作品でもあります。
推理によって難解なパズルのピースを組み合わせて一幅の絵を完成させる様は一級の推理小説のようです。
しかも推理を進めるのはプレイヤー自身であり、よく練り込まれた構成や没入感を高めるシステムがゲームならではの体験を生み出しています。

『Lost/Remembrance』を特徴づけるのは歯ごたえのある謎と推理です。
きちんと情報を集めて推論することで論理的に真実にたどり着くことができますし、論理連関にも溝はありませんが、さまざまな人間関係や思惑が絡み合った複雑なストーリーを解き明かすには一筋縄ではいきません。
情報の収集、整理、気づき、導出とそれぞれの段階で知恵を絞らなければ到達することはできず、そのためにプレイヤー全員が知恵を出し合う必要があります。
しかも『Lost/Remembrance』は推理小説ではなくマダミスです。プレイヤー全員が主人公として参加できたと体感できなければいけませんし、謎がすべて解き明かされるとは限りません。

どの作品でもプレイ中に謎が残ることはあって、出来が良くない作品では解説を聞いてもしっくりこないことはあります。重厚な作品だけに本作でもプレイ中に全貌を知ることは非常に困難ですが、解説を聞くと疑問は氷解し、納得感しかありません。
これだけ入り組んだストーリーを用意し、伏線を張り巡らせ、適切な手がかりを提供し、矛盾なく整合性を保たせる手腕には舌を巻くばかりです。

ロールプレイこそ重視されていませんが、登場人物の人物造詣もしっかり描かれていて誰一人欠かすことはできないと感じさせられます。
没入感も疎かにされているわけではなく、登場人物も事件も現実にいるかもしれない、あり得たかもしれないというリアリティがあります。
リアリティの醸成に一役買っているのは調査のシステムです。一般的なマダミスのようにただカードを引くのとは異なる調査方法で、証拠品の作り込みと相まって、実際に調べたかのような没入感を与えてくれます。
また文章力の高さがプレイアビリティに貢献しています。明快な文章のおかげで状況や情報の理解が捗ります。わかりやすい文章は本作の必要条件であり、それがなければただただ複雑で難解な作品に終わっていたでしょう。

推理の重厚さに目を奪われがちですが、本作を傑作たらしめているのは構成のうまさです。
ゲームの序盤、中盤、終盤と物語の展開がハリウッド映画の脚本ようにメリハリがあります。いくら推理重視とはいえプレイヤーの集中力には限界があります。緩急をコントロールすることで疲れすぎずダレすぎもせずに、ゲームを最後まで走り抜けることができます。
またゲームが複雑ゆえに情報が膨大で考えるべきことも多く、ややもすると議論が散漫になりがちです。
その点、いま何を考えるべきかというテーマがつねに提示されます。そのおかげで事件の迷路で遭難することがなく、何もわからないまま迷宮入りすることがありません。
また小目標をクリアすることでプレイヤーが達成感を得られ、ゲームへさらに没入していく動機になっています。
それでも最終的な真実はプレイヤー自身でたどり着く必要があり、全員で協力したとしてもその道のりは困難です。

本作が名作であることは間違いありませんが、瑕疵がないわけではありません。
そもそも協力型マダミスであり、プレイヤー同士が対立する競合要素はありません。そうした駆け引き、騙し合いを楽しみたい方にはまったく向いていません。
競合の要素を完全に捨て去ったからこそ、ここまで難解な推理を成立できたといえるので、競合がないことを非難するのは筋違いではあります。
ただプレイの中で少しだけ異質な箇所が1つあります。もちろんストーリーからまったく離れるようなものではありませんが、ゲームのコンセプトを考えると無かった方がよりテンポが良くなったでしょう。
といっても人によってはまったく気にならない程度ではあります。

『Lost/Remembrance』は推理要素の完成度の高さ、プレイのやりごたえ、メリハリのあるゲーム構成、謎を解き明かした時の達成感と、マダミスの最高峰の1つであり、マダミス史上に残る傑作です。
名作が出ればそのフォロワーが出るもので、協力型マダミスという新しい形態が花開いていくきっかけになるでしょう。

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