パッケージマダミスの短評

最近リリースされた作品を中心にしたパッケージマダミスの短評です。
※初公開時に『金田一少年の事件簿 夢見島殺人事件』について表題の誤記がありました。お詫びして訂正します。


アストリアの表徴 ─名探偵アルフィー最後の事件─

「本格派マーダーミステリー」という謳い文句の通りに推理を重視した良作です。
ゲームシステムはシンプルで情報量が多いわけではなく、あくまで犯人探しに注力しているのに重厚な作りです。
登場するキャラクターたちは個性豊かでわかりやすく、ヴィクトリア朝のイギリスという舞台もキャッチーな正統派マダミスです。

金田一少年の事件簿 夢見島殺人事件

「金田一少年の事件簿」らしい外連味がうまくマダミスに落とし込まれた良作です。
ピーターパンをモチーフにした仕掛け、キャラクター同士の関係性、一筋縄ではいかない推理と、4人用でGMレスなのにやりごたえとボリュームのある良作です。
もちろん金田一と美雪が重要な役柄で登場するのでアニメファンに親しみやすいです。アニメを見たことがない人も高校生の名探偵が登場することさえ知っていれば楽しめます。

ゲノムの塔

SFの醍醐味はテクノロジーの進歩によって人間に諸問題が突きつけられることであり、本作はまさしくSFです。マダミスとして成立させつつ、ハードSFとしてもまとめる手腕には驚嘆します。
ただマダミスとしてのテーマとSFのテーマがまとまりきっていないが故に、突きつけられた問題をプレイヤーが咀嚼する余裕がありません。
おそらくほとんどのプレイヤーは「なんだか難しいマダミスだったな」という感想で終わってしまいそうで、非常にもったいないです。
結果的にSFとしてもマダミスとしても平均値にとどまっています。

誰がために伝書鳩は飛ぶ

コンセプトが明確で面白く、どういう展開になっても楽しめる佳作です。
人間の暗部をうまく利用しており、マダミスをある程度プレイした人の方が遊んだ時の衝撃は大きいでしょう。
なお複雑なルールがあるため、GMレスはまったくおすすめできません。

鹿神館の罪人

マダミスの根源を問いかける一作で、ほかに類をみません。
うまく掘り下げれば形而上的な作品が生み出せる、そのような深いテーマを含んでいます。
没入感、推理、競合というマダミスの要素がうまくまとめられていて、大人数マダミスが数少ない中で楽しめる作品です。
ただプシュケーとソーマが交わる危うさはもっと強調されているべきでしょう。理不尽さを感じる可能性があります。

楽園酒店

実物の証拠を手にとって調べられるという店舗公演のトレンドが採り入れられており、没入感を高める工夫がされています。
推理や競合といったマダミスの重要な要素もしっかり押さえられていて、進行役不要のパッケージ小作品ながら店舗公演に劣らない体験の濃さを堪能できます。

セレブリティ学園殺人事件

ビジュアルや世界観からわかる通り、マダミスを題材にしたロールプレイも楽しめるコメディタッチのパーティゲームです。
ガチガチに推理や競合する作品ではありませんが、気を張らずに友人たちとロールプレイや会話を楽しめます。
作品のコンセプト上、オススメに上がることは少ないかもしれませんが、シリアスになりがちなマダミスが多い中でフザけて楽しめる数少ない作品です。

黒装の暗暗裏

要素がかなり詰め込まれていますが、没入、推理、競合という基本が守られているため、プレイを楽しめる作品になっています。
ただそれらの要素によって止揚が生まれているわけではありません。独自のギミックも試みは面白いのですが、作品のビジョンにつながっているとは感じられませんでした。
まとまりが良くなれば凡作止まりではなく良作、名作になり得たかもしれません。

泉涌館の変転

老舗の謎解き団体のマダミス第1弾として期待が高かったのですが、作品自体は詰め込みすぎで犯人導線が希薄、キャラクターごとの濃淡がある凡作でした。
作品のビジョンに対して不要な要素がいくつかあり、それがノイズになっています。
一方でゲームシステムは非常に素晴らしく、オフラインマダミスの問題点が解決されています。カードを使ったオフラインマダミスはすべてこのシステムを導入すべきといっても過言ではありません。
システムだけライセンスして導入してもらいたいくらいです。

雷鳴轟くシェアハウスからの悲鳴

適度な喧騒が楽しめる小品で、スクラップらしいギミックもありますし、作家性も出ています。
ただし、脱出ゲーム業界最大手のスクラップのマダミス初参入作品という前評判にはまったく見合っていない肩すかしな内容です。
何作かある内の1つ、あるいは別の団体から出ていればわちゃわちゃする楽しい作品という評価だったでしょう。
マダミス業界内で発売前から大きく注目されていただけに非常に残念です。

黒き航跡は蜉蝣と散る

いままでにない斬新なシステムで、本作に限らず別の作品でも同じシステムを使った面白いマダミスができる可能性を感じました。
もったいないことに肝心のシステムを活かしきれていません。
ゲームバランスが悪くて歯がゆい思いをするプレイヤーが出てしまいます。またルールの把握が困難な上に複雑で、GMレスのプレイでプレイミスせずに終えることはほぼ不可能です。
金額の見合う満足度は残念ながら得られません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?