見出し画像

【全文公開】◎学術会議の任命拒否は法律違反/安倍政権の有識者会議座長・京都大元総長尾池和夫さん/報告書に「独立性重要」=しんぶん赤旗日曜版2020年11月29日号

#しんぶん赤旗日曜版 #日曜版全文公開 #日本学術会議

 菅義偉首相による日本学術会議会員の任命拒否問題―。第2次安倍政権下で内閣府有識者会議が、学術会議の政府からの独立を重視する報告書(2015年3月)をまとめていました。座長を務めた尾池和夫・京都芸術大学学長(京都大学元総長)は「政府が学術会議に直接手を出すことは許されない」と指摘します。
 聞き手・本田祐典記者

政府介入ではなく改革は主体的に行うもの

 ―首相は任命拒否を適法だと主張します。

 会員の任命に口を出すのは法律違反です。政府が学術会議をコントロールするようなことは許されない。
 日本学術会議法は、学術会議の推薦に〝基づいて〟首相が任命となっています。これは、学術会議が選んだ人を自動的に任命するという意味です。憲法に「天皇は、国会の指名に〝基いて〟、内閣総理大臣を任命」とあるでしょう。その表現を借りているわけです。

 ―学術会議の改革を議論した経緯を教えてください。

 学術会議の改革は、まず2003年に政府の総合科学技術会議(現、総合科学技術・イノベーション会議)が意見具申しました。その10年後の見直しを議論するのが、私が座長を務めた会議の役割でした。
 新しく会議をつくったのは、独立組織の学術会議を政府が評価するのは〝あかん〟というのが理由です。総合科学技術・イノベーション会議は、首相が議長ですからね。私は「第三者機関として評価するなら」と引き受けました。

 ―報告書では、「学術会議において主体的な見直し」としました。

 学術会議への宿題をたくさん書きましたが、それは学術会議自身がやることです。政府が手を出してはいけない。
 学術会議は国の機関ですが、憲法に書かれた「学問の自由」を守る組織です。だから、政府からの独立がとくに大事なのです。(別項1)
 科学者の国際的な窓口としても〝非政府〟であることが不可欠です。世界中の科学者の集まりとして唯一無二の存在である「国際学術会議」は非政府組織です。参加する日本の学術会議もそうでなければなりません。
 有識者会議では、学術会議と総合科学技術・イノベーション会議を「車の両輪」と位置付ける議論がありました。私はこれを全面否定しました。「両輪」は車軸でつながっているものでしょう。政府の会議と「上手に一緒にまわれ」は断固まかりならんと考えました。

別項1/独立性の担保重視
 「(学術会議は)制度上その独立性が担保されている。この点は、特に政府や社会との関係において、真に学術的な観点に立った見解を提示する上で、非常に重要な要素である」(有識者会議報告書から)
https://www8.cao.go.jp/scj/index.html

 ―橋下徹・元大阪市長らは〝独立組織なら自分で運営費を稼げ〟と求めています。

 政府が学術に金を出さなくてどうしますか。日本の科学者は本当に安く、よく働いています。学術会議も予算不足で、会員の持ち出しが多い。なぜ、こんなに粗末に扱うのでしょうか。
 報告書では、学術会議が仕事をするために事務局の人員増や予算増などを政府に求めました。ところが、全くやっていません。

 ―自民党はプロジェクトチームを立ち上げ、学術会議の組織や役割を検討するとしています。〝国の機関なのだから、政府にものを言うな〟という主張まで出ています。

 任命拒否の問題を別の議論に誘導しようとしていますね。
 学術の立場から政府にものを言うのは当たり前でしょう。それが役割の組織です。
 組織形態もいまの制度で問題ありません。有識者会議では、各国がどういう学術の組織を持っているのか調査に力をいれました。世界中を調べた結論が、日本はよくやっているということです。(別項2)
 世界のなかには中国やロシアなど、政府が口を出すような組織があります。それをマネしてはいけません。

別項2/現在の制度を評価
 「国の機関でありつつ法律上独立性が担保されており、かつ、政府に対して勧告を行う権限を有している現在の制度は、日本学術会議に期待される機能に照らして相応(ふさわ)しい」(有識者会議報告書から)

戦争に向かっていった歴史と重なって見える

 ―日本共産党は「日本の言論・表現の自由にかかわる大問題」として追及しています。

 任命拒否をいち早く報じた「赤旗」(2020年10月1日付)は見事でした。私はこの問題でまだ、ほかのメディアの記者と会っていません。でも、「赤旗」の取材なら仕方がないと応じました。ここで頑張ってもらわなければ困るからです。
 学術会議は、戦争を目的とした研究を否定してきました。学術の基本は人類の福祉に貢献することだからです。しかし、いまの日本には戦争をしたがっている人がいるようです。
 日本が進んでいる道が、かつて戦争へと向かった歴史と重なって見えます。関東大震災2年後に治安維持法(1925年)がつくられ、東日本大震災2年後に秘密保護法(2013年)がつくられました。
 今回の学術会議への攻撃も、戦争へと向かう仕掛けの一つでしょう。学者に政府がものを言うのは、言論を封じる常とう手段です。平和への道ではないことは明白です。

おいけ・かずお=1940年生まれ。京都大学理学部卒。地震学者。2003年から08年まで第24代京都大学総長、13年から京都芸術大学(旧京都造形芸術大)学長。14年から15年まで内閣府「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」座長を務め、16年から日本学術会議外部評価有識者の座長、座長代理を歴任。著書に『日本列島の巨大地震』など

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?