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【全文公開】◎菅首相の任命拒否問題/学術会議ってそもそも何しているの?=しんぶん赤旗日曜版2020年11月22日号

 菅義偉首相による日本学術会議会員の任命拒否問題。そもそも日本学術会議とはどんな組織なのか、Q&Aで考えました。

1/どういう組織で役割は何なの?→国が適切な方向取るよう科学的提言

 日本学術会議は終戦から4年後の1949年、政府から独立した国の機関として設立しました。
 その使命を同会議法前文は次のように掲げています。

「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与する」

 法案は、全国の科学者から選挙で選ばれた108人でつくる委員会が起草しました。
 地球温暖化や高齢化社会などあらゆる問題で、国が適切な方向を取るには科学の裏付けが不可欠です。学術会議は人文・社会科学、生命科学、理学・工学など全分野、約87万人の科学者を代表し、それぞれの課題に応える活動をしています。
 学術会議の役割は、政府も「南極地域観測の開始や国立公文書館設置などの勧告、要望が具体化され、政府の施策に貢献」(2004年3月、茂木敏充科学技術担当相=当時)と評価してきました。
 11年の東日本大震災では、福島原発事故の放射線量調査、事故対応へのロボット活用、被災者の救援と復興など、6次にわたる緊急提言を発表しました。
 2020年も9月末までに83本の提言・報告を出しました。私たちの生活に密着した提言も多くあります。
―児童虐待や子どもの貧困、若者の自殺率の高さなどの課題について「関連の予算、投資の少なさが際立ち、その方向転換が望まれる」と提言(9月25日)
―「同意の有無」を刑法の性犯罪規定の中核にするよう提言(9月29日)。法務省が検討会資料に

日本学術会議の概要

会員:定数210人
任期:6年(3年ごとに半数を選任)
連携会員:約2000人
位置づけ:日本の科学者の国内外に対する代表機関
主な役割:政府に対する政策提言・勧告/国際的な活動/科学者間ネットワークの構築/科学の役割についての世論啓発
協力学術研究団体:2071団体

2/なぜ「独立性」が大切なの?→政府に耳の痛い勧告も出せるように

 〝国の機関だから政府に従え〟では、学術会議の使命を果たせません。
 同会議の発会式で当時の吉田茂首相は「国の機関ではありますが、その使命達成のために…高度の自主性が与えられておる」(別項)と強調しました。
 たとえば、政府への「勧告」(同会議法5条)です。同会議が独立性を失えば、政府にとって耳の痛い意見は出なくなります。
 自民党が立ち上げたプロジェクトチームは〝政府に従わないなら民間組織に〟と狙っています。国の機関でなくなれば勧告権を失い、政府がその意見を受けとめる責任もなくなる―というカラクリです。

別項 独立性や会員任命に関する政府の立場

1949年 日本学術会議設立 吉田茂首相(当時)「国の機関ではありますが、その使命達成のためには、時々の政治的便宜のための掣肘(せいちゅう)を受けることのないよう、高度の自主性が与えられておる。ここに本会議の重要な特色がある」(1月21日、発会式での祝辞)

1983年 日本学術会議法改正 中曽根康弘首相(当時)「政府が行うのは形式的任命にすぎません」「政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば、学問の自由独立というものはあくまで保障される」(5月12日、参院文教委員会)
2004年 日本学術会議法改正 総務省作成の法案説明資料「総理大臣が任命を拒否することは想定されていない」
2018年 学術会議事務局(内閣府職員)が内閣法制局と協議し「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」とする文書を作成
2020年 菅首相が6人を任命拒否

3/「既得権益」なの?→給与や年金なし、〝手弁当〟で出張も

 菅首相は「(学術会議が)閉鎖的で既得権益のようになっている」「会員、連携会員と関係をもたなければ、会員になれない仕組み」(2020年11月2日、衆院予算委員会)と攻撃しています。
 菅首相の発言は事実ではありません。学術会議は、会員や連携会員からの推薦に加え、学会などの協力団体2千団体超から会員にふさわしい人の情報提供を募っています。
 現役会員らが次期会員を選ぶ方式は、2004年に小泉純一郎政権が法改正で提案し、自民党も賛成してできたものです。
 会員の活動は「既得権益」どころか、給与・年金ゼロ。会議や出張で手当1万9600円と旅費が出るだけです。それも年度末は予算不足で不支給になるなど、一部は〝手弁当〟です。会員が献身的に活動を担っているのが実情です。
 これは政府が、予算増を求めた内閣府有識者会議の報告書(2015年)を無視したからです。
 「毎日」2020年11月7日付は「首相『口撃』に会員困惑 『既得権などない』」との見出しで首相発言を検証し、「こじつけや言いがかりのような主張も目立(つ)」と指摘しています。

4/どうして軍事研究を拒否?→侵略戦争に加担した反省から

 学術会議が軍事研究を拒否するのは、科学者が侵略戦争に加担した反省からです。先の戦争では、毒ガスや生物兵器の開発、人体実験、原子爆弾などに科学者が動員されました。
 学術会議の前身である学術研究会議(学究会議)も、「国民総武装兵器」「音響兵器」「磁気兵器」「電波兵器」などの特別委員会が設置され、軍事研究に動員されました。
 学術会議は設立後、軍事研究拒否の声明を3回出しました。

―「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」との声明(1950年4月)
―米陸軍による日本物理学会主催国際会議への資金援助発覚を受けて、「軍事目的のための科学研究を行わない」との声明(1967年10月)
―過去の2つの声明を「継承する」との声明(2017年3月)

 これらの声明を、自民党の下村博文政調会長は「軍事研究否定なら、行政機関から外れるべきだ」(2020年11月6日、「毎日」インタビュー)と攻撃しています。〝軍事研究のために、学術会議が邪魔だ〟というのが本音です。

5/改革が必要?→主体的に透明性高めてきた

 学術会議の改革は、首相ではなく同会議が主体となって行うものです。これは、政府や内閣府有識者会議も説明してきたことです。
 2004年、茂木敏充・科学技術担当相(当時)の国会答弁

「これから改革を進めるのは学術会議本体。次回の改革は、より学術会議の側が中心になって改革を検討していただく」(2004年3月23日、衆院文部科学委員会)


 2015年の有識者会議報告書も「学術会議において主体的な見直し」としました。
 こうしたなか、学術会議はみずから改革の努力を続け、会員選考についても「透明性を高めてき」(梶田隆章会長)ました。
 2003年と現在の会員構成を比べると▽女性比率6.2%→37.7%▽地域分布(関東以外)33.8→50.5%―と多様性が広がっています。

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