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益子一人旅 #1

9月の終わる頃、休日に本を読んでいて、ふと思い立った。

「わたしは今、益子を訪れなければならない。」

すぐにある一人の女性に連絡をした。

一週間後、益子に行くことが決まった。

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初めて益子を訪れたのは、今年の夏。
尊敬する師の、夏の演奏会が行われたのが益子だった。

初めて訪れる土地。
思っていたより遠くにあった。

行きはバスで向かい、帰りはバスがなかったので電車を乗り継いだ。
帰りに益子駅から一番初めに乗る電車では、パスモが使えなかった。
車両も一両のみ。
降りる際に車掌さんが手作業で清算を行う。

そのなんとも言えない雰囲気、古さ、都会の時の流れを少しも気にしない、
いや、もはや気にしないどころか気付いていないような、ここはそのままでいい、必要ないからこれでいい、そんなことを勝手に感じた。

演奏会の会場に着いたとき、これまで体感したことのない雰囲気に身を包まれた。
これまで体感したことのない、だけどずっと出逢いたかった場所に来たような感覚。
真夏にも関わらず会場となるその場所にはひんやり冷たい空気が染み渡っていた。
センスと感性と、そこにある想いで溢れ返っていた。

初めての体感に、感動と圧倒を受けながら、席に座った。
バスの時間でギリギリに到着したから、ほとんど席は埋まっていて、一番後ろの席に座った。

すると、ある一人の女性がやってきて、

『ここ、空いていますか?』

女性は隣の席へと座った。

この女性が、益子をもう一度訪れることになった最大の理由であり、私の新しい友人だ。

演奏が始まるまで、少し時間があった。
女性はしばらく周りの方とお話していた。

「みんな常連なんだなあ」
「ここについて、聞きたいこと沢山ある!」

私は話しかけてみることにした。

『よく来られるんですか?』
『久しぶりなのよ〜、前にうちのお店で演奏してもらった事があって。』

聞くと女性は隣町に住んでいて、
この会場や、そこに居る方たちのこと、
〝益子はものづくりの街〟ということ、
皆んな自分で服を作っていること、他にも沢山お話してくれた。

彼女自身が旅好きなこと、自分でお店を作ったこと、時間は短かったけれど、彼女の話を聞いて、心と魂レベルで感じるものが沢山あった。

私の故郷、新島のことも知っていた。
『いつか行ってみたいのよね』
『ぜひいつかいらしてください!』

そんな会話をしていると、
『これも何かのご縁だから』と言って、連絡先を教えてくれた。

『益子に来た際は私が案内するわ』と、言ってくれたので、
「絶対にまた来たい」と思った。


演奏会がもう少しで終わる頃、帰りの電車の時間が迫っていた。

「ここから東京に帰るなんて、私一人なんだろうなあ」

仕方なく、演奏会が終わる前に、一人会場をあとにした。

家に着く頃、女性にお礼のメールを送ると、すぐに返信が来た。

『最後まで居られなくて残念でした。あれが最後の一曲でした。でも、この途中さが、次に繋がる気がしますよ。おとなりに座ったのもご縁ですね。きっと又会えますね。益子でまっていますよ。』

「またきっと益子に行く。絶対に行く。」
わたしはまた、強くそう思った。


————— 続く

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