小学校時代の山口先生、機会があったらブンなぐる(ゆかいなエッセイ)

小学校五年、六年の際(1978、79年頃)、自分は二組にいたが、一組が「山口先生」という身長180センチくらいのガタイのいい男の先生だった。
コイツは、実にロクでもないやつだった。
私に絶対的な権力があったら、穴を掘って埋めさせる拷問を三十年くらいやらせたいところだ。

自分の担任は「山川先生」という、当時五十代くらいの女の先生。
この山川というのも、ロクでもない教師だった。

まず担任の山川の話をしておこう。
この人は、給食で出る牛乳が好みに合わないのか、毎日まいにち、卓上コンロみたいなもので給食の時間、お湯をわかしてお茶を飲んでいた。
それは別にいいが、それを生徒にやらせていた。

当時(1978、79年頃)は、中学受験をする生徒はたいてい、教師に煙たがられていた。
クラスにも私立中学受験希望者は二、三人しかおらず、他の生徒との指導を違えるかどうかも当時はわからず、面倒だったのだろう。
確か中学受験は内申点が関係してくるので、教師に気に入られたい生徒(正確には生徒の親が子供にやれと言ったのだろう)が、「お湯沸かし係」をやっていたはずだ。
山口に至っては、遠足の弁当を生徒の親につくらせていたとも聞く。

山川は、ヒツジのツノみたいな髪型をしていて、いつもテロンとしたガウンみたいなものをはおっていた。
外見は、昔のドラマや少女マンガに出て来る、ヒロインをイビる継母そのものだった。
ちなみに、確か独身だったはず。

山川は、私が小五に進級した当初から、前に担任していた卒業生は立派だった、よい子だった、という話を、何回もなんかいもした。
本当に何度もその話をした。
こっちとしては、知ったことではない。

よほど前のクラスの生徒に慕われていたらしい。
「あんたたちが早く卒業して、すぐに同窓会をやりたい」みたいな気の早いことも言っていた記憶がある。前の卒業生で、マメに同窓会を開いていた者がいたのだろうか。
それにしても、あんなにクソひねくれていて嫌味な山川のババアが、生徒に慕われていたというのが非常に疑問だった。
前の卒業生が、集団で山川をだまして、陰で笑っていたのかもしれない。

山川はよくわかってもいないのに、適当なことを言っていたフシがある。何かすべてがうわっつらなのだ。たとえば「新聞を読みなさい」とか言っていたが、本人は読んでいただろうか? そんな疑問を持つ教師だった。

「唐沢」という名前の女生徒がいたのだが、歴史の授業の際、
「あんたの祖先は中国から来たのかもしれない」
と言っていた(「唐」という国があったから)。

しかし祖先の話など、かなりデリケートなことではないか?
山川は「あんたの祖先は韓国人かもしれない」とか「インド人かもしれない」とか、同じ文脈で言うつもりだったのだろうか。デリカシーがないので、そういうことを平気で言いそうなババアだった。

このテキストを書くのももう飽きたので、一組の担任だった山口先生の話は適当に済ます(笑)。

いわゆる「恐い先生」で、生徒たちからも恐れられていた。
しかし記憶に残っているのは、卒業文集か何かのアンケートで「子供の頃、どんな職業に就きたかったか」というところに、山口は「軍人になりたかった」と書いていたことだ。

1979年だと終戦から34年経っている。山口は、四十代半ばくらいの風体だったから、終戦を迎えたときは8~10歳くらいだったのではないだろうか。
戦前と戦後で価値観がまったく変わってしまった世代ということになる。
最近はどうか知らないが、70~80年代の、生徒を威圧して従わせていたような教師には、「軍人になって戦争で死ねなかった」という「時代にすかされた」という感じがにじみ出ていたように思う。
ま、一片も同情はしないが……(私の父親は出征して二年間、ウランバートルで捕虜になっていたという。「戦争に行けなかった」ことを不満に思うやつに同情するはずがない。)

だいたい、山口は子供が好きそうでも何でもなかった。教師という職業にも興味があるようには見えなかった。
当時、「デモシカ教師」という言葉があり、「先生にでもなるか」、「先生にしかなれない」と言われた人たちが、教師にたくさんいた時代である。
同じことは山川にも言えて、山川、山口の二人には「教師であること」のプライドみたいなものがまったく見えなかったのだった。

最後に。
卒業式に、卒業生が先生に呼びかける歌があったのだが、山口と山川は、その歌の「先生ありがとう、本当にありがとう」という部分を、本来の歌詞に三倍マシくらいにわざわざ増やして歌わせていた。
これには生徒たちもあきれていた。

卒業式に参加した母親は、
「何度も何度も生徒に先生ありがとう、先生ありがとう、って歌わせて、自分で歌詞を変えて生徒にありがとうって言わせて、恥ずかしくないのかねぇ」
と嘲笑していたのだった。

そう、おれたちは山口も山川も嘲笑していた。

あわれなやつらだった。

おしまい



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