見出し画像

心からの「ほめ言葉」を伝える──マインドフルネスの12の練習 WEEK6

photo by sai de silva/unsplash

『「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強くやわらかくする「マインドフルネス」入門』(ジャン・チョーズン・ベイズ著)の一部公開6回目は、「WEEK6──心からのほめ言葉を伝える」練習です。

画像1

今回の「マインドフルネス効能解説」は、著者ジャン・チョーズン・ベイズの言葉をそのまま掲載します。

マインドフルネスの効能 その4

マインドフルネスは「動じない心」を育む

 マインドフルネスによって、不快な経験にも動じずにいられるようになります。
 通常、私たちは環境やほかの人たちを変えて、自分が快適になるように調整しようとします。エネルギーを使って部屋の温度を最適にし、明るさを調整し、部屋によい香りを漂わせ、文句なしの食事を求め、ベッドやイスをほどよいやわらかさにし、壁紙の色を好みのものにし、家の周辺を整え、周りの人々──子どもやパートナーや友人や同僚やペットも自分の好みの状態にしようとします。
 しかしどんなに頑張っても、ものごとは自分が欲する状態のままではいてくれません。いずれ、子どもは反抗し、料理は焦げつき、暖房は壊れ、自分自身も病気になります。
 それでも、「今このとき」にいて心を開き、自分にとって快適とは言えない状況や人々を受け入れることができれば、その不快さの威力は弱まり、恐れたり、反撃したり、逃げたりする必要がなくなります。何度かそういうことを乗り越えると、自分でも驚くほどの力がつき、目まぐるしく変化するこの世界で、何があっても幸せでいられます。(30-31ページ)

たとえ不快な状況であっても、心をオープンにして受け入れる──。たしかに、「なんだあいつ」と発作的に頭にくることがあっても、落ち着いて状況を考えれば「そうか、それほどのことはないかも」と冷静になれることがあります。

そんな経験の積み重ねが、心を強くしていくのでしょうね。


それでは、「心からのほめ言葉を伝える」練習に移りましょう。あなたはきょう、誰かをほめましたか?

(本書PARTⅡ マインドフルネスを日常で実践する53の練習 より)

どんな練習?

1日に1回、家族、友人、同僚など、周りの誰かのことを考え、その人に心からの「ほめ言葉」を伝えます。子どもや親など、自分に近い人ほどいいでしょう(郵便局で会った見知らぬ人のスカーフをほめるのは、含まれません)。

また、ほめ言葉は、具体的なほど効果的です。人があなたをほめてくれたら、それをしっかり意識して聴きます。どうしてほめてくれたのかを考え、その言葉が自分に与えた影響についても考えます。

取り組むコツ

紙に「ほめる」と書いて、目につくところに貼っておきます。

この練習による気づき

この練習に、初めは抵抗を感じる人もいます。心にもないお世辞を言うのかと心配するのです。そのうちに、ありがたいと感じることは身の周りにいくらでもあることに気づき、実行できるようになります。また、これまでものごとを批判的に見る習慣があり、問題点だけに目が向き、文句ばかり言っていたことに気づく人もいます。この練習によって、自分の心の傾向が明らかになれば、それをあらためることができます。

一方で、ほめ言葉を言われても、すんなり受け入れられない人たちもいます。手作りのクッキーをほめられたのに、「とんでもない、今回の出来はいまひとつよ……」などと言うのです。こういう人は、ほめ言葉を受け取ることが不安なのです。

人によっては思春期に、ほめ言葉を警戒する姿勢を身につけてしまうこともあります。相手のほめ言葉が本心なのか、笑いものにするつもりなのか、よくわからないからです。そのため、人をからかい半分でほめたり、ほめられたときに、あとで恥をかかないように冗談として否定したりするようになります。

アルコール依存症の親に育てられたというある人は、「それまでの人生でネガティブな言葉以外かけられたことがなかったので、人をほめる術(すべ)は一から学ばなければならなかった。でも、ほめ言葉を口に出すと空気がなごんで、エネルギーがポジティブなものに変わることがわかった」と言いました。心からのほめ言葉を伝えると、子どもたちも妻も、従業員たちも生き生きするそうです。

「非暴力コミュニケーション」という対立を効果的に解決するための方法で、ほめ言葉についても論じています。「君って、本当に○○○だね」という形容詞を使ったほめ言葉は、関係を弱めてしまう傾向があると言い、むしろ自分の心が動いたことを中心にほめることをすすめています。そのようにほめると、絆が強くなり親密さの感覚が増します。「忙しい時間をやりくりして、この会のためにクッキーを焼いてくれるなんて感激だわ。本当にありがとう」という感じです。

この練習をすると、ほめ言葉がどんな働きをするか、周りの人たちとの関係においてそれがどれくらい使われているか、ということに気づくようになります。

深い教訓

道元禅師は、こう書いています。

「優しい言葉は優しい気持ちから出るものであり、優しい気持ちは相手への共感から芽生えるのだということを知らなければならない。優しい言葉というのは単に人の価値を称えるものにとどまらず、国の運命を左右するほどの力をもっているということを考えてみなさい」

仏教の教えは、他者やモノや出来事に対する反応には、3種類の感情の色合いがあると説いています。「肯定的色合い(うれしい気持ち)」「否定的色合い(いらだたしい気持ち)」「ニュートラル(ポジティブでもネガティブでもない気持ち)な色合い」の3つです。

人に対して肯定的な気持ちをもったとき、私たちは相手にポジティブな色合いを反映し、ほめ言葉を発します。たとえば、好意を得たいと思っている相手や、まだダダをこねることも知らないかわいい赤ちゃんなどに対して、自然にほめ言葉を言いたくなります。

相手がまるで家具のように生活の一部になってしまうと、互いが何をしてくれているかに気づくことすらなく、ほめ言葉を伝える必要を感じなくなります。ネガティブなことや改善すべき点についてしか口にしなくなります。そういうつもりがなくても、相手との関係は、ネガティブな色合いになっていくでしょう。もっと積極的に相手のよい行動に注意を向ける練習をして、心からのほめ言葉を伝えるようにすれば、2人の関係はより温かくなり、心が
通い合うでしょう。

身体的美しさのように、一時的な、あるいは条件つきの特質をほめられることは、少々居心地が悪いものです。そういう特質は、遺伝で受け継いだものと、そのときの世間の好みがたまたまマッチしたにすぎないことを、誰もが本能的にわかっているからです。

きれいな人も、自分で顔を製作したわけではなく、一時的に与えられた恩恵にすぎません。

時がたてば、二重あごと小じわができて老け顔になることをみな知っています。1年後には、「きれいじゃない人」の部類に入れられてしまう可能性もあります。

ほっそりした体、運動能力など、周りがほめてくれることのほとんどは、いっときのものです。知性でさえも一時的と言えます。第一それらの多くは、当人が自分で獲得したものではありません。だから、人をほめる場合には、そういう特質ではなく、その人があなたをどんな気分にしてくれたかを称えるのが一番なのです。

一時的な特質のもっと奥深くには、人の「本性」が隠れています。仏教ではこれを「仏性(ぶっしょう)」と呼び、ほかの宗教では「神性」と呼びます。これこそが私たちの本質です。これは感情や身体的特徴に基づくものではなく、何かとの比較によって表されるものでもありません。

ほめ言葉によってふくらむことも、批判によって減ることもありません。その人が何をしても増えも減りもしません。正しいことをしても、間違ったことをしても、ほかの人がその人に何をしても「本性」は不変で、1人の人間として表現し続ける永遠の性質です。

自分を変える言葉
優しい言葉は贈り物。それは人の心を豊かにする

日本実業出版社のnoteです。まだ世に出ていない本の試し読みから日夜闘う編集者の「告白」まで、熱のこもったコンテンツをお届けします。