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やが君アンソロ2全部読んで感想言うね!

はじめに、本稿はタイトルの通り「やがて君になる 公式コミックアンソロジー(2)」(以下、やが君アンソロ2)の感想であり、やが君アンソロ2を全部読んでいる前提で話をすることとなります。もしやが君アンソロ2を未読の方がこちらに迷い込んだのでしたら、これもなにかの縁なので、以下のリンクからやが君アンソロ2を購入し、全部読んでください。

また、やが君アンソロ2を全部読んでいる時点で「やがて君になる」原作も最終話まで読んでいるものとみなします。万が一未読でしたら「やがて君になる」本編を全部読んでください。

全部読んで感想言うね!のコーナー

表紙(柊ゆたか先生)

「ふたりとも純粋に幸せそうな表情」というのはアンソロ1巻の時点ではなかなか限られたシチュエーションでしか見られない光景だった。現在はほとんどの登場人物をいくらでも幸せに描くことができる環境が整っており、無限の可能性が広がっている。小糸さんがおさげなので、素直に受け取れば原作最終回よりは前の時点になるのだろう。しかし七海先輩と小糸さんが(特に小糸さんが)こういう感じの服装をし、あまつさえレイを手に持っているのはなんらかの特別な、具体的な状況を思わせる。やはり無限の可能性がある。

イラスト(ふぃふ先生)

夕暮れの生徒会室、と見てよいだろうか。カーテンはかなり印象的なアイテム(入口にないことも含め)。表紙に続いて幸せ全開の1枚で、40話を思い出させる構図と表情。しかしあの時とはまた違う夕陽が、スペクトルが映える。絡めた指に目が行きがち。

風と共に来る(柊ゆたか先生)

トップバッターから突然の佐伯先輩に虚を突かれた。「のっけから攻めてきたな」と思った。ページをめくるごとに「攻めてるな」という感じが強くなり、その攻めの強さが最後のページまで更新され続けた。時系列に関してかなり想像の余地があり、(正解はひとつなのだろうが)最後から2ページ目の佐伯先輩の表情などは多様な受け取り方が可能であるように思う。ただしどんな読み方をしても最後は最終コマの槙くんのような有様にさせられることになる。こわ…

ふたりとゲームとこれから(くもすずめ先生)

互いの呼び方については、原作では第11話「秘密のたくさん」と第41話「海図は白紙」との対比が印象的。この作品はもちろん41話的な雰囲気だが、七海先輩の仕掛ける感じはどことなく11話っぽく、ある意味美味しいとこどりのような構成。この贅沢感は原作にはないアンソロジーという媒体ならではの読み味だが、それでいて「これは絶対におれたちの知っているやが君界の出来事だ」と感じさせるのですごい作り込みである。

君との間隔(優木すず先生)

原作単行本オマケページで出てきた「ぐいぐいのびる牛乳」、あれはずるい。胴がぐいぐいのびた牛の姿から漂う絶妙なコレジャナイ感と、生後から大量の牛乳を飲んで育ったはずの現実の牛に実際あんなぐいぐいのびた奴はいないという事実が、この上ないシニカルさを醸し出す。この牛乳を無駄に凛とした立ち姿で飲み干す小糸さんからは圧倒的かわいさが滲み出し、「君は(少なくとも身長の面では)そのままでいいんだよ」という情動を喚起し、もののあはれを感じさせる。牛乳以外の話をすると、ふたりのデフォルメのされ方がやが君界では極めて珍しいタッチで印象に残っている。七海先輩は本当に雨乞いをこっそりやりそうな雰囲気もある(失礼)。

彼女の選択(柚原もけ先生)

佐伯先輩が当然のように七海先輩を占ったのを私は見逃さなかった。特に理由はなかったかもしれないが、むしろ本当に特に理由がなかったならば尚良し。柚原もけ先生が描く表情の中でも私はぐぬぬという感じの表情と勝ち誇った表情が特に好きなので、人狼ゲームというシチュエーションにはガッツポーズが出た。2日目から急に饒舌になった佐伯先輩はいくらか怪しくもあるし、急にまくしたてられて黙っちゃう小糸さんがなんだか本物の占い師っぽくも見えるという擁護はできるが、七海先輩は何も考えず小糸さんに肩入れしただけっぽいのでそこは問題ではない。もしあのゲームになんらかのかわいらしい罰ゲームがあったら結果も変わっていたかもしれない。

謎解きだよ!こよみちゃん(有馬先生)

突如現出した四コマ時空。ツッコミが冴えわたる。主役の叶こよみ先生は寝不足により知能指数が下がっているが、この作品はこよみのこよかわたるゆえんを的確に押さえており、まさに奥歯まで砕け散る高威力を実現している。最後の方の急に問題が雑になってタヌキ・クリプティックが出てきたところで私は完全にノックアウトされた。

椅子取りゲーム(すのはら風香先生)

槙くんはもしかしたら原作でも描写外でかなりツッコミを入れていたかもしれないと思わせる、槙くんに関してなんらかのリアリティを孕んだエピソード。だいぶ自由を謳歌している感じのプロットだが、槙くんの描写や「折衷案…?」という絶妙に七海先輩が言いそうなセリフといったディテールが光る。恋は人をアホにもするらしい、だそうですよ佐伯先輩。なにやってるんですか。椅子がないからってなんで空気椅子するんですか。最後は堂島の生徒会長としての資質が垣間見えました。

6年後もあなたの隣で(ヨドカワ先生)

執筆時期は「陽ちゃん」の存在が神秘のベールに包まれていた頃だろう。我々やが君ストは「陽ちゃん」を知ることで間違いなく幸福度が増したが、こうやって神秘の時代に戻る体験にもまた価値がある。佐伯先輩が児玉さんに対し、高校時代は一応心の内に留めていた手厳しいツッコミを何の遠慮もなく突き刺すようになっていて時の流れを感じる。箱崎先生を描くのって(絵を描かない人間なりに)難しいと思うのだが、この作品の箱崎先生はきれいで、それでいてすごく箱崎先生だ。

ここまででまだ全ページ数の50%であり、内容の充実度を実感する。

落葉讃頌(缶乃先生)

まなかわ(初手どアップ)
みどり視点というのが新鮮で、かつ非常に効果的だったと思う。ふたり分買っておいた飲み物がひとつになって、シェアして、「そうくると思った」という流れの美しさに感動した。原作単行本の巻末に収録されていても何ら違和感のない、これぞやが君というべき一幕だった。

Lies and true(sheepD先生)

佐伯先輩が感情を表に出した場面と言えばいくつかあるが、確かに取り乱した感じは少ない。佐伯先輩はやが君界の中でも最も長い時間(約10年のほぼフルスパン)を描かれた人物だが、それでも群を抜いて取り乱しておらず、そこが美徳でもある。先の「佐伯沙弥香について3」では佐伯先輩の思いっきり笑った顔が見たいという全人類の悲願がついに達成されたわけだが、その光景を踏まえて、そこへ至る道のりとして佐伯先輩の人生を振り返り、彼女の述懐を味わうのはかけがえのない体験となる。

ずるい(そめちめ先生)

同じセリフが使用されるたびに違う意味になっていくのは、やが君の特徴的なセリフ回しの中でも特に印象に残る演出。その最たる例のひとつである「ずるい」のその後が描かれる。単なるこじつけかもしれないが、この作品の画面づくりはアニメ1期を思い出させる。ぼーっとする七海先輩。水槽越し視点。輝く水の世界。光の宿った目元のどアップ。手の演出。アイテムの使い方。最後の「ずるい」を言わないところ。この作品のカット割り、雰囲気、テーマ選び、セリフ回しといった演出全般が私好みだった。

かんげき!(むっしゅ先生)

「人生に区切りはない」「毎日は途切れることなく続き」「特別だったあの日もあの瞬間も」「はるか後方に」。時間はどんどん過ぎ去って、それでも過去現在未来と続いていて、だからこのふたりはきっと大丈夫。原作を見届けた感慨がよみがえってくるエピソード。思えば原作でも好きな人の話をするときのふたりは特に魅力的だったような。劇の内容もすごくやが君の劇中劇という感じで実際に観てみたい。演者はなぜか吉田愛果先輩がしっくりくる。(「なぜか」という必要もないかもしれないが。)

君を浴びて光る(植下先生)

あの「ふたつめの心臓」の植下先生が登場。蓄光テープというアイテムの使い方が本当に良い。アイテムと人物を絡めたタイトルも良い。やが君アンソロ2のラインナップにあって、特筆すべきは、私を好きにならないで期ののっぴきならなさをふたたび突きつけてきた点にある。小糸さん&七海先輩の、さらには佐伯先輩の物語の大団円を見届けて完全に油断し、良くも悪くもふにゃふにゃになった我々の心に、あの唯一無二のしんどさが容赦なく突き刺さる。しんどさあってのやが君。人類は今一度心に刻むこととなった。

45日差カップルなので(仲谷鳰先生)

これまで情報が著しく不足していた受験生小糸さん&OG七海先輩の一幕。痒いところに手が届くとはこのことか。「なんだとー」「やるかー!?」は吉田愛果かよって思ったし(絶対的にかわいいものへの賛辞)、「…っとできた 先生見てくださーい」と「「ふぅ」」、「えらいじゃん」が地味に好き。45日差カップルなので、実際どちらかが特別大人びているというわけでもない。あと近いといえば、物理的に近い。距離感おかしいおかしい。

全部読んだ感想言うね!のコーナー

※あとがき部の感想を含みます。

描くべきことは全部描けた、仲谷先生だけが知っていることはもうないという宣言により、やが君原作がもう完結しているのだということを再認識することとなった。やが君アンソロ2が書籍として最後の公式新規コンテンツとなる可能性を覚悟しなければならないのだ。しかし私はあまり悲観的な気分にはなっていない。最終話を迎えた寂しさはとうに私の一部になっているような気がするし、やがて君になるという作品が私に与えてくれたものは少しも色あせていない。twitterを開けば結構な割合でやが君の話をしているし、アニメ1期サントラの曲は今でも1~2秒ほど聴けば曲名を答えることができる。完結作といえど、やが君は現在進行形で好きな作品なのだ。

舞台encoreの情報も出たし、残すところはアニメ2期の報せのみとなったと言っても過言ではない。何事もタイミングがあるものなので、ASAPで実現させてくれとまでは思わない。どうせずっとやが君好きなのだから、その日が来るのを気長に待っている。ただしアニメ2期を観たいという気持ちの強さ自体は相当であるということを申し添えておく。まじでお願いします。以上です。

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