上古漢語{深 *l̥um}

Sagart(2021)では上古漢語における「*-um」「*-əm」韻の中古音反射について述べられている。

  • 荏 *numʔ > nyimX ‘a kind of big beans’

  • 茙 *num > nyung ‘a kind of bean’

「*-um」韻が、西部方言では「*-əm」韻と合流し(中古音で覃₁/咸₂/侵₃韻)、東部方言では「*-uŋ」韻と合流する(中古音で冬₁/江₂/東₃韻)という説明である。

  • 朕 *lrəmʔ > drimX ‘I, we, our’

  • 勝 *l̥əŋ-s > syingH ‘overcome; surpass’

同様に、「*-əm」韻が、西部方言では「*-um」韻と合流し(中古音で覃₁/咸₂/侵₃韻)、東部方言では「*-əŋ」韻と合流する(中古音で登₁/耕₂/蒸₃韻)という説明である。

すると、以前の記事に関連して「*l̥- > sy-」は東部方言の特徴なので、「深 *l̥um > syim ‘deep’」は頭東尾西の混合型ということになる。この例は結構存在する。

とはいえ、付記された地図によれば無声共鳴音の「東西方言」が沿岸部-内陸部で分けられているのに対し、「*-əm」「*-um」の「東西方言」は東部がかなり内陸部まで及んでおり、西部は渭河流域のことのようだ。


Sagart, Laurent. (2021). Dialectal developments in Shi Jing rhyming. 19e symposium international et 39e symposium national sur la phonologie chinoise.


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