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カフェ ちっちゃ話

【2枚目のお皿】
日々フェイントを入れられながらも今日はきっちり寒い。雨は止み、ぽかぽかとした気持ち良さがありつつキリっと冷たい空気に引き締まる。

用事まで1時間ほど空きがあり、ちょっとだけ頭を整理したい。安上がりにホットコーヒーをいただくしかないだろうとドトールにお邪魔する。
前を並ぶ若い男性がブレンドを頼むと「今お淹れますのでお席までお持ちします」とのことで、カウンター脇には順番待ち、カップ置かれ待ちのソーサーが置かれた。男性は2階席へと上がり、僕の順番が来た。
そこそこに混み合う店内、スピーディーなオペレーションで動く店内に空のソーサーがもう1枚並ぶ画を想像し、連ちゃんで「今お淹れします」のアナウンスをいただくのが気まずい。飲みたくもないアイスコーヒーを頼む。すぐに提供されて2階に上がると、そりゃそうなんだけど良い感じに暖房が効いている。前の男性より一足先に頂戴する。アイスコーヒーで良かったと思う。良かったと思うことにする。





【早上がり】
ルノアールでうんうん唸って、粘って粘ってとしているとじきに閉店の22時を迎える。
21時50分あたりから店員さんが席を巡回し
「間もなく閉店となりますので、お先にお会計をお願いします」と告げていく。

遠くの方から始まって、徐々に徐々に近づいてくる。今までもう何度も耳にしているアナウンスで、ほんのり聞こえだした時点でああもうこんな時間か、となる。
2つ隣のお客さんぐらいにまで近づいてくると、ほぼほぼしっかりと声が聞こえている。いざ自分の番が来た時に、「今初めて聞きました」みたいな表情で1から10まで聞くのか、「もう聞こえてます、お会計しますね」の顔で待ち構えるのか、そこらへんの雰囲気をいつも決めかねる。

もう分かってるという顔をしているのに律儀に1から10まで説明されてしまったのでは、なんだか我慢ならず急かしているみたいな、貧乏ゆすり顔(してないのに)に映りかねない。
かと言って、既に聞こえているのに、あくまで知らんぷりして1から10まで説明を引き出すのは、サービスを余すところまで受け取ろうとふんぞり返っているような居心地の悪さがある。

迫り来る巡回から逃げ出すように一足早く退店する。なかなかどうしてあと10分居座るのが難しい。




【睨み合い】
黙々と勉強する女子高生?中学生?の隣におばさまグループがぞろぞろとやってくる。これは難儀だぞと思うが、まあカフェで勉強するならそのあたりのリスクは許容しなければならない。

ちょうど女の子の隣に陣取ったおばさまが、それはもうスケベと形容せざるをえないだろうという角度で、バレないようにノートを覗き込む。限界まで鼻の下を伸ばし、ギリギリまで目を高い位置に突き上げ、なんとかかんとかノートを見下ろす。何をそんなに気になることがあるのか。
そのおばさんを、目の位置をギリギリまでこめかみに寄せて僕が横目で見る。

おばさまは少女に計算間違いがあってはならないと、僕はおばさまと少女の間に何か間違いがあってはならない(間違いがあったら1から10まで見届けなければならない)と、互いに監視し合う。少女の集中力に目を見張る。

なにも起きなかった。むしろおばさま達も特にお喋りに興じることもなくそれぞれで黙々とコーヒーを飲んでいた。黙々とコーヒーを飲むおばさまのグループって、なんなんだろう。




【芸能人】
カフェで作業に勤しむ中でも息をするようにエゴサーチをする。
「同じカフェにさすらいラビーの中田いるわ、芸人を初めて町で見た」というような投稿をリアルタイムで見かける。
慌てて身をすくめ、バーディーパットのライン読みのごとく慎重に、目を細め、店内を見渡す。
僕から見える範囲には、赤ペン片手に競馬新聞に没頭しているおじいちゃましかいない。よもや彼が呟くことはあるまい。人生の大ベテランが初めて見る芸人が僕ということもあるまい。
どこか違うカフェにいる投稿主の見間違いか、L字の店内でちょうど見えないところに位置しているのか、いずれにしても不気味だし気が散るのでミュートした。エゴサするたびに最新で「見ているぞ」と言われているようで不気味だから。
スマホとがっつり向き合ってだらだらしているところを見られたくないし、ノートに情熱を書き殴る様を見られクリエイターぶってると思われたくもない。や、それはちょっと思われたい気もするけどなんにせよ気が散る。
有名になる前の贅沢を味わっている。カフェの中で誰にもバレずに、人知れず世界をぶち抜く策を練っている。





たぶん明日も明後日もとりあえずカフェに行く。
カフェに行く量と良いネタができる量には正の相関がある。もしかしたらそんなことないかもしれない。ないかもしれないけどとりあえずカフェに行く。

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