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悲しみとはなにか考え続けてみた

なぜ自分は泣いているのかと考えたことないですか。
なにがこんなに悲しいのだろうと。

去年、編集作業をしながらずっと考え続けたことが、感情(エモーション)でした。その中での最初の謎が「悲しみ」とはなにか、でした。


まずはたどり着いた仮説から書きます。

悲しみとは「物事が失われたときに感じる感情」です。
(書き進める途中に更新がありました。
より正確には「切実な物事が失われたときに感じる感情」です)

これだけだと、知ってたというか、まあそうかもね、ぐらいではないでしょうか。大事なのはここからです。

切実な物事とはなにか、失われるとはどういう現象か、感情とはなにかです。


●「悲しい」を辞書でひくと

まず、悲しいという言葉をいろいろ調べました。

最初、iPhoneに入ってた大辞林で調べたら、
「悲しむこと。」とかだけ書いてあって……
あやうく2600円もするアプリを削除しかけましたよね。

めげずに日本語の辞書を6冊ほど、英和辞書を4冊ほど(英語ではsad とgrief)調べました。

まず、「かなしい」って、「愛しい」とも書くんですね、古語で。
へー。

でも、だいたいは、
「心が痛み、泣きたくなるような気持ち」
「不幸にあったときなど、取り返しのつかないことを思い続けて泣きなくなる気持ち」
とか、ふーん、みたいなことしか書いてないんです。
新明解国語辞典とかをもってしても。

で、ググりました。
そうしたら、ヒントになりそうなことにたどり着きました。
(でもソースは辞典!)

世界大百科事典 第2版の解説
かなしみ【悲しみ】
人間の感情表現の一つであり,自己の無力感,挫折感を伴う。涙を流して泣く,独特の表情,意欲・行動の低下,自己へのひきこもりが観察され,胸がしめつけられるという身体症状の訴えもみられる。悲しみの生じる状況では,愛情や依存の対象が失われるという危機がみられる。
この対象は人物の時に強く現れるが,仕事とか生き甲斐,自分の身体等も含まれる。対象喪失にさいし,最初は,怒りや事実を否認することで対処しようとするが,それがどうしようもない事実として認めざるをえなくなった時に,無力感とともに悲しみが生じてくる。

もう一つ重要な手がかり、なんとwikipedia
(でもソースは中公新書!)

悲しみ(かなしみ、英: sadness)は負の感情表現のひとつ。
脱力感、失望感や挫折感を伴い、胸が締め付けられるといった身体的感覚と共に、涙がでる、表情が強張る、意欲・行動力・運動力の低下などが観察される。さらに涙を流しながら言葉にならない声を発する「泣く」という行動が表れる。
一般的に愛情、友情、依存、共栄の対象が失われた時に見られる。悲しみは「深い、浅い」と表現され、対象と自身とのつながりが強い程、深い悲しみが訪れる。そういった意味では最大の悲しみは身近な人の死である。しかし「対象が失われる」とは死だけではなく、存在が遠くなる、つまり恋人との別れや夫の単身赴任といったことや大事にしていた物が壊れる、楽しみにしていた行事が無くなるといったことも含まれる。対象が失われる程度についても、悲しみの深さに大きく起因する事項である。
最初は怒りによるその事実の否定からはじまり、自身の脳でその現実を受け止めるとともにこみ上げてくる感情である。事実を否定するほどでもない悲しみの場合は、怒りによる拒絶は発生しない。

しかし、この説明自体が実に悲しい。
声に出して読むだけで、悲しくなってきそう。。

で、これらの文章の中で、具体的かつ重要な定義は、太字にした部分。

〈悲しみの生じる状況では,愛情や依存の対象が失われるという危機がみられる。〉

〈一般的に愛情、友情、依存、共栄の対象が失われた時に見られる。
(中略)「対象が失われる」とは死だけではなく、存在が遠くなる、つまり恋人との別れや夫の単身赴任といったことや大事にしていた物が壊れる、楽しみにしていた行事が無くなるといったことも含まれる。〉

です。

この部分には、悲しみという感情のメカニズムの実態が、具体的に描かれています。

本を読むたび、映画を見るたび、人の話を聞くたび、このメカニズムを頭の片隅で考え続けていた一年でした。
(と書くとめちゃめちゃ辛気くさいですけど…、ヘラヘラと笑って仕事をして、たまに酒を飲んでいただけです)

そして、「悲しみ」の正体らしきものがわかると、「怒り」「さびしさ」そして「楽しさ」や「恥ずかしさ」まで、すこし正体が見えてきました。

先日、信頼している敏腕編集者に、ひとしきり話したところ、非常におもしろがってもらったので、ここらでぜんぶ頭の中身を出してみることにします。


●悲しみについての仮説

悲しみとは「切実な物事が失われたときに感じる感情」だとして、この仮説をもう少し正確な、でも、面倒な書き方をすると、

悲しみとは、「相対化できないモノ·コトへの期待値に対する負のフィードバック」となります。

なんでこんな難しい言い方になるのか。

この悲しみの仮説を理解すると、いろいろなことがわかってきます。
まず、自分がなんで心を痛めているのか、泣いているのか、が自覚できます。
(この定義を応用というか、悪用すれば、何一つ奪わずに深い悲しみに陥れることもできる)

でも、一番のいいしらせは、自分の悲しみの正体を知ることが、自分の希望を知る行為につながるってことです。

他にも、「君の名は。」の主人公がなぜ冒頭泣いているのかとかをクリアに説明できたりします。次回書きます。

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