エモの研究

まとめ：悲しみの正体とは「切実な物事が失われたときに感じる感情」というのが、僕の仮説です。正確に書くと、「相対化できないモノ·コトへの期待値に対する負のフィードバック」になる。

今回は、悲しみについて、さらなる本題に入る前に、
「怒り」について整理しておきたいと思います。

怒りは、これまでの悲しみの仮説を踏まえると、すこしわかりやすいと思っています。

悲しみや落胆が「物事が失われたときに感じる感情」だとすると、
怒りは、「物事が不条理に失われることに抗う感情」といのが僕の仮説です。

ちゃんと書くと、「モノ·コトの期待値の負のフィードバックの文脈に対する抵抗運動」になります。

ええと、

モノ·コトの期待値
　の負のフィードバック
　　の文脈
　　　に対する抵抗運動

です。

正確に書くとマジわかりずらいですね……。ややこしすぎるので、ひとまず流して大丈夫です。（自分レベルの厳密性でこれだから、こうやって学術書はアレになっていくわけだ）

さて、困ったときのアイスクリームを考えます。

●アイスクリームが落ちて怒るときは

手の中にアイスクリームがあります。
いままさに食べようとした瞬間、
誰かにドンっと押されてポトリと落ちたとします。

おぅ！　おどれ俺のアイスクリームどないしてくれてんねん！　
ってなりませんか。

買ったばかりの冷たくおいしいアイスクリームは、
まだ俺のものだ！って抗議したい気持ちになりますよね。

怒りは、たいがい物事を失いそう、もしくは失ったときに、
その経緯が納得できなった際、その喪失に抗おうとしておこる感情です。

たとえば、落ちたアイスクリーム、弁償しやがれ！と思って振り返ると、
小さい子どもだったり、体調の悪そうなご老人だったりするとどうでしょう。

まあ、しょうがないかってなりますよね。
そして、アイスクリーム食べたかったなあ……って、落胆したり、悲しんだりする。

整理すると、怒りと悲しみと落胆の対象はこんな感じになるかと。

（Google AutoDraw で書いてみました）

怒りは、切実なことでも、切実じゃないことでも、期待していたことが不当に失われそうになると、生じます。

だから、競馬場で怒っている人はたくさんいますよね、たぶん。
チクショー！　金返せ―！って。

●怒りと悲しみの違い

さて、なにかあったときに、すぐに怒りに変わるときと、
怒りではなく、悲しみや落胆に変わるときの違いは何か。

これは期待してるモノ・コトの対象によりません。
そのモノ・コトの変化の理由や経緯などの文脈に依存してきます。

アイスクリームがなくなっても、バンドが解散しても、上司に叱られても、
ありえないでしょ！　おかしいでしょ！　意味わかんない！　なめてんのか！　……という理由や経緯だったら、腹がたつわけです。

つまり不条理な喪失への抵抗運動なんだと思います。

不条理の定義を一応。

【不条理】
１ 筋道が通らないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。
２ 実存主義の用語。人生に何の意義も見いだせない人間存在の絶望的状況。カミュの不条理の哲学によって知られる。
――らしい

んでここでのポイントは、
この物事の筋道・道理は、自分の頭のなかに存在しているということです。

●ゴーイング・マイ・ウェイ

道理や論理、筋論は一見、共有可能な理に見えますが、
立場や認識によって変わってきます。

事実はひとつでも真実が人の数だけあるように、
頭の中の筋道は、まっすぐな場合もあれば、
曲がりくねって、歪んでいる場合があるわけです。

怒りの道理は「定理」とはちがう。
だから、怒りは自己暗示でつくりやすいです。
つまり思い込みで怒ることができます。

今年のあたり映画『ベイビードライバー』でのワンシーンをひきます。
（ネタバレってほどではないです）

ジェイミー・フォックス演じるイカれた悪党（ポスター左下）が、
銀行強盗の前に、車の中でメンバーに言います。

「いいか、あそこにあるのはオレたちの金だ。オレたちのだ。
　やつらが持ち出したんだ。やつらは、ママの宝石を盗んだ。
　さあ、オレたちの金をあそこからとりかえすぜ。
　オラオラ～」
Remember, what's in there is ours.Belongs to us.
They got our money.They got our mama's jewels.
So let's go back in there and take back what's ours.
Vroom, vroom, vroom.

という調子でメンバーに発破をかけます。

自己暗示をかけて、怒りを呼び起こし、それをモチベーションにしている。

おそらく俳優さんも悲しみの演技より、怒りの演技のほうがしやすいのではないでしょうか。

ちなみに補足すると、
お金をもらっても、褒められても、不当にコトが失われたら、怒ります。
お腹すいているときに、アイスクリームをもらったとしても、
なんであんたに施しをうけなきゃいけないんだ、とか思って、
自尊心などのコトに対して負のフィードバックの文脈が不当であれば、
貶められたと感じて怒ります。

正直、怒りは、悲しみほどに仮説の検証をしてないのですが、
もうちょっと書けることがあるので、次も怒りについて書きます。