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【400字小説】Hey,太陽

彼女がいなくなるなんて考えもつかなかった。
言われてみれば現われたのも突然だったな。
だからこそ、消えるのも必然的に唐突であるはず。
世界のルールは《揺り戻し》と決まっている。
大きな幸せを掴めば大きな何かを失う。
ヒロトが『情熱の薔薇』で歌ってたことは、
今になって意味がわかった。

Spotifyではブルーハーツが聴けない、
今のこの世界線では。
だから何か大きなものを喪失しているんだ。
裏を返せば、きっととんでもなくいいことが
起き得る世界だったということ。

にもかかわらず彼女はいなくなった。
いるだけで幸せだったって今さら思えない。
いた時に気づかせてよ。
それくらいに絶対、彼女が必要だった。
カラオケで『情熱の薔薇』を歌っても、
密室の部屋から太陽は見えないから届かないな。
彼女を取り返しに行きたいけれど、
太陽の真裏には到達できないのと同じように困難。
元々誰のものでもなかった。
せめていなくなる日くらい告げておいてほしかったな。

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