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木村政彦はなぜ三木道山を殺さなかったのか

「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という著書がある。

これは、「木村の前に木村なし、木村の後に木村なし」と呼ばれた天才柔道家の木村政彦が、プロレスのリングで力道山から顔面へのパンチをもらった際、なぜ真剣勝負を買って出て力道山を返り討ちにあわせなかったのか、木村政彦の幼少期から晩年に至るまでの人生を徹底的に取材し、各関係者の証言を交えて著者が執念をもって書き上げた傑作ノンフィクションだ。

木村対力道山の一戦の検証のみならず、木村の柔道観や死生観をあらゆる角度からとりあげており、また著者自身の木村への愛情が揺さぶられる様も見て取れ、大変な読み応えがある。

この名著を読んで私が唯一腑に落ちなかったことがある。それは
「木村政彦はなぜ三木道山を殺さなかったのか」
ということだ。

三木道山は、日本で音楽活動をしていたが、ジャマイカを訪れた際にレゲエに触れ、帰国後レゲエミュージシャンとして活動する。
これは、木村政彦がハワイを訪れた際にプロレス興行に参加し、帰国後に本格的にプロレスラーとして活動することと重なる。

三木道山の数ある代表曲の一つ、Lifetime Respectは女性ボーカルユニットであるRSPからアンサーソングというかたちでカバーされたことがある。
RSPはヒップホップやR&Bを背景にしたグループであり、レゲエナンバーであるLifetime Respectが異種格闘技戦を挑まれた形だ。
ちなみに、木村政彦も異種格闘技戦を挑まれたことがある。
ブラジルでエリオグレイシーと勝負し、代表技であるキムラロックでエリオの腕を折り、一本をとった。
エリオはこの一戦を誇りに思っており、この時の道着はグレイシー博物館に飾られている。
RSPの代表曲となったLifteme Respect-女編-は有線大賞で新人賞を取ったが、そのトロフィーが所属事務所に飾られているかどうかはわからない。

これだけ共通点の多い木村政彦と三木道山だが、三木道山のLifetime Respectの一節で、どうしても私が聞き逃せない箇所がある。

ええ加減そうな俺でも
しょーもない裏切りとかは嫌いねん
尊敬しあえる相手と共に成長したいねん
出典:Lifetime Respect / 三木道山

これはどう考えても、木村政彦が師匠の牛島辰熊を裏切って無断で国際プロ柔道協会を脱退したことに対するディスリスペクトである。
尊敬している牛島と手を組み、なぜ日本の柔道の発展のために尽くさなかったのかという三木道山の愛憎溢れる思いが込められたリリックだ。
これだけの酷評を受け、力道山への復讐のために短刀を懐へ入れて付け狙っていたほどの木村政彦がなぜ三木道山を野放しにしたのか。これが私には不思議で仕方ない。

これはあくまで一つの説なのだが、Lifetime Respectが発売されたころ、木村政彦はとっくに死んでいたからだろうか。

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