AIイラスト×500字の物語|cross maiden
ここでない何処か。今でないいつか。
十字架が剣であり神そのものであった日。
剣の泉には精霊の乙女がいました。
「僕に剣を授けてください」「私に刃を」「俺に力をくれ」
老若男女が訪れては剣を抜いていきます。
そのたびに、泉の乙女は彼らに問いかけます。
「何のために剣を持つのですか」
家族、仲間、国、正義、愛。口々に理由を告げ去っていく背中を、乙女は目を伏せてつまらなそうに見届けるのでした。
「剣をください」
ある日、剣を求めたのは痩せた少年でした。あどけなさの残る相貌に不似合いな、賢者のように澄んだ瞳をしています。
「なぜ剣を持つのですか」
「ただ己のためです」
乙女は少し興味が湧き、小さな瞳を覗きこみました。
「何に使うのですか」
「救いたい者を救い、滅ぼしたい者を滅ぼすために。叶えたい物を叶え、閉ざしたい物を閉ざすために」
乙女は瞳を見開くと、少年に跪きその頬に口づけを与えました。
少年は神の剣と精霊の加護を携え、世界を歩き続けました。権力者に捕らえられ磔になろうとも、己のために。
いつしか人々は剣の形を彼への信仰の象徴とし、十字架を掲げるようになりました。
遠いどこかの物語。
✎イラスト:nijijourney v6
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?