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AIイラスト×700文字の物語|魂売りの少女

【魂売り】:〔名〕己の欲望のために仁義に背き悪事を働く者。転じて、内なる欲を具現させる異能たちの蔑称として使われている。

「相対性理論でさ。時間と空間は相対的って示されたよね〜」

街を見下ろす廃ビルの屋上。その縁に腰掛け〘魂売り〙の少女はまるで幼馴染を相手にするように嬉々と話し始めた。

猫のような瞳の奥で瞳孔は開き、軽い口ぶりとは裏腹にいつ襲い来るか分からない獰猛な気配を放っている。

「絶対的な1秒は無い、絶対的な1メートルもない。人はいつも基準を探すけれど、そんなの世界のどこにもないんだ」

直ぐに逃げ出したい。でも、背を向けた途端に心臓を抉られそうだ。

体は恐怖に震えている。彼女の真紅のセーターは返り血にしか見えないし、しなやかな太腿は獅子の脚力を秘めているように思える。

「基準、ですか」

それでも何故か聞き返していた。
基準、そう、それがあれば。私はこんなことをしなかったのかもしれない――そんな事を思ったのだろうか。友を死なせずにすんだとでも。

「基準の1秒があって、この系はこんな運動をしてるから私の1秒はそれより少し長いとか、短いとか。絶対的って言うのかな? そんなのを求めるよね、人は。比べたがりなんだね」

〘魂売り〙は宙に魂を灯してみせた。
彼女の顔のそばで空間が歪み光を放つ。七色の光の粒が飛び出しては風花のように溶けて消える。

「それってさ。楽しいとか悲しいとか、正しいとか悪いとか。ひっくるめて魂もさ。同じだよね〜」

全ては相対的で―世界も感情も善悪もすべて―。
絶対的でない―基準なんて、どこにも―。

「基準なんてない。絶対的なものさしなんてない。それを理解した人は、魂を売ることができる」

私の中で何かが弾けた。
廻って、歪んで、消えた。

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