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交換と「王の支出」を考える

 新しいMMT入門の第七回!

 前回は下の「本質的な7種のオペレーション」を提示しました。

表1:本質的な7種のオペレーション

 ところで科学とは、少ない原理と事実によって多くの事実や事象を説明する営みなのでした。

 そこで今回は、これらのオペレーションに先立つ原理を深く考えていくことにします。


 王は通貨で民衆に支出して、通貨を徴税する。

 そのことは王は通貨が流通することを知っていることを意味します。

通貨が流通するとはどういうことか?

交換と「補償原理」

 通貨が流通するとはどういうことか?

 それは、商品(モノやサービス)を生産するために必要な労働力が交換される際の差額として発生する債権債務を補償(compensation)する媒介に「その数字」が使われることに他ならない。

 どういうことでしょうか。

図1:交換のはじまり

 どうやら魚一匹分よりヤシの実の方が価値が高いという話になっているようです。

 それは魚とヤシの実には「差」が存在するということを意味する。

図2:価値の差を補償する媒体が存在するはず

 補償(compensation)とは何か?

 それは、メガネザルはヤシの実を渡す代わりに魚一匹を与えられただけでは「補償されていない」ということを考えることによって理解できると思います。

 ヤシの実を渡すのあれば、魚一匹だけではなく何らかの補償媒体が加算されることによって「補償されていない状態」が、「補償された状態」に遷移する。
 そのような「量」が存在するはずなのです。

図3:補償とは

 この「量による補償」が存在することを、交換を成り立たせるための補償原理と呼びましょう。

補足:経済学の「補償原理」

 ところで経済学を学んでしまった方は、これとは違う「補償原理」を思い浮かべるかもしれません。
 習ってしまったものは仕方ありませんが、わたしたちは「経済学の補償原理」は間違っているという立場を採ります。
 かれら経済学者は「売り手」と「買い手」の交換後に、なぜかそれとは別に残る「価値」を仮定します。そうあってくれないと経済学者が困るから。

 しかし上のメガネザルと犬との間に交換が成立したときに、メガネザルの「損失」は完全に補償されているのです。そしてそれは「彼らが行っている他のすべての交換」の一部を構成するのです。

 経済学はそこを見落とす(あるいは、わざと無視する)ことによって、媒体で過ぎない「貨幣」の力によって「ありもしない問題」を「解決」しようとする学です。かくして人は経済学を学ぶと「貨幣」の奴隷になるのでありまして、ぼくがここで「貨幣」という言葉をできるだけ使いたくない理由もそこにあります。

 補償の原理が公平な交換を成り立たせているのであって、決して逆ではないのです。

王支出に先立つ交換を意識せよ

 上で基本的な七種のオペレーションを挙げましたが、実はこれらのオペレーションの前に、社会にはそれに先立つ交換操作があるはずです。

 王がいてもいなくても社会には交換があり、補償原理が働いているのですね。

 それを図にしてみましょう。

図4:王とは無関係の交換操作

 状態1では、左の人が車を、右の人がヤシの実5個を所有しています。
 交換操作によって、所有者が反転しています。

 そのような社会に通貨システムを備えた王が登場します。

王の支出オペレーションを考える

 上の図で車を売ったのが「Xさん」だとして、王はXさんの車を買うとします。
 つまりXさんは車を手放してココナッツ五個を得る代わりに、王の通貨1単位相当の預金を1単位得る世界を考えるのです。

表2:王支出オペレーション
図5:王支出オペレーションのピラミッド表現

 これが成立するということは、実にいろいろなことを意味しているので一つ一つ考えていきましょう。

王の登場で交換の「モード」が変わる

 王の登場の前後で、社会の交換「モード」が一変したはずです。

 状態2の世界線(王が支出する前)と状態2’の世界線(王が支出した後い)を並べます。

図6:王が支出する前の世界と後の世界

 状態2の社会では、ちょど上のメガネザルと犬の話のように交換の媒体である「通貨」は、その時その時「いい加減」で曖昧なものだったと考えられます。

 犬は「いつか埋め合わせるから!(I owe you!)」といって魚一匹でヤシの実一つを得るというような。

 (おお「埋め合わせる」という日本語こそはまさしく compensation だ!)

 ところが王が登場し、いったん王の通貨による支出をすると、あらゆる生産物の価値が一斉に「数値化」される。そのことは、状態2’において交換にはかかわらなかったココナッツ5個の価値も、王の通貨一単位分に相当するということを民衆が理解するようになる。

 このモード変化は、のちのち物価水準やインフレーションを考えるときにとても重要になるので、感覚をぜひ心に刻んでおいてください。

王の通貨が最初に受け取られる理由

 次に、そもそも王の通貨はなぜ受け取られるのか?を考えましょう。

 図3においてX氏が車を手放す理由は明白で、それはその代わりに受け取るヤシの実に使用価値があるからです。

 では図4において、なぜ「預金」という数字を受け取るのか?
 言い方を変えれば「手放す車」は何によって補償されますか?という問いなのです。

 それはズバリ、その数字を持つことによって、X氏は納税義務からその数字の分だけ解放されるから。

 ここを説明するために以下のマンガを作ったことがあります。

図7:王の通貨は税によって流通する

 ここでは銀行が省略されているわけですが、その分だけ、今回論じた「王に先立つ交換」、「モードチェンジ」、「税が王の通貨を流通させる」の三つを鮮明に表しているつもりの自信作。

 いかがですか?

 さて最後にもう一つだけ。

銀行預金は王の通貨が「又貸しされたもの」という理解

 MMTに関心を持つようになる方は「信用貨幣論」「万年筆マネー論」のような、MMTの登場以前からあった理屈でMMTが言っていることを解釈しがちに思います。

 最初のきっかけはそれでいいのかもしれません。

 しかしそこに留まっていたら、いつまでも中途半端なビューから脱出できず、論理一貫性を欠くことになるとぼくは思います。

 状態2’をよく見てください。

図8:預金は王の通貨の又貸し

 この「新しいMMT入門」の第二回で、意識の力でビューを切り替えるようになることが大事だという話をしました。

 この図8を見ながらそれをやってほしいのです。

 預金が王の通貨の「又貸しされたもの」に見えたら、それはMMTビューを獲得したと言っていい。

 これですね。

表3:MMTだけビューが異なる(いつもの図)

次回予告

 図6のマンガをモズラーに見てもらったことがあるのですが「実際の徴税がない」と言われてしまいました\(^o^)/

 次回は税について、そして、社会にとって「王の通貨システム」は何であるかを考えていくつもりです。

 ぜひお付き合いください!

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