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「講談社作品なのに太っ腹!!」~漫画賞受賞広告について考える~

 まず、『ハコヅメ』の小学館漫画賞受賞・TVドラマ化おめでとうございます。そこは、ちゃんと言っておきます。

 で、この『ハコヅメ』の受賞広告を秋葉原駅で見かけて、ものっそ衝撃を受けたわけです。単に小学館漫画賞受賞をアピールするのはもちろん無問題なのですが、「講談社作品なのに太っ腹!!」とアオリが入っているのは……、「え? これいいの?」と(だから、この文章を書いています)。

ハコヅメ看板アップ

 こういうある意味ヤラカシ系の広告は、やっぱりアキバだけなのかな? と思ったりもしまして、念のためリアルタイム検索で調べてみたら、少なくとも大阪でもやっていることはわかりました。ということは、これは普通にオモシロ系広告と講談社の宣伝さんは思っているということかと。

 大手出版社の漫画賞では、自社と系列出版社(一ツ橋グループで言えば、集英社と白泉社)の作品ばかりが賞をもらい、自グループ発行のマンガへの「ご褒美」的に機能しているのは、大昔からの暗黙のルールです。これは小学館漫画賞でも講談社漫画賞でも同じですし、そのせいもあってか、逆に自グループ外の漫画賞だと、候補作に上がることすら辞退することも少なくないようです。芥川賞や直木賞、本屋大賞と違って「候補」がまあまあ売りになるわけでもないですし(そもそも「賞など興味ない」というタイプのマンガ家さんも結構いらっしゃるとも聞きますが……、それは余談)。

 実際にこの20年の小学館漫画賞、講談社漫画賞の受賞作の出版社を表にまとめてみました。小学館漫画賞で、グループ外の出版社が受賞した場合、講談社漫画賞で、講談社以外の出版社が受賞した場合は、それぞれ塗り分けしています。

【小学館漫画賞】

小学館漫画賞

【講談社漫画賞】

講談社漫画賞

※特別賞的なものは除きます
※講談社漫画賞の児童部門は2003年~2014年に存在。

 こうして改めて表にしてみると、小学館漫画賞よりも講談社漫画賞の方が自グループ外の出版発行のマンガに賞を多く与えてはいますが、どちらも自社のマンガが受賞作となるケースが大半であることに変わりはないのがわかります。実際今回の『ハコヅメ』は、『宇宙兄弟』以来10年ぶりの講談社作品の小学館漫画賞受賞作で、これを「記念して」という形で、泰三子×小山宙哉対談なんて企画すら行われています。

 とはいえですね、暗黙のルールがあったとしても、どちらの漫画賞もベテランマンガ家や学者・評論家といった人たちを選考委員として受賞作を決めているものです。ところが、これを「講談社作品なのに太っ腹!!」と、講談社が自らの宣伝で茶化してしまうのはどうなのか? このコピーを言い換えれば「講談社作品は通常小学館漫画賞は受賞できませんが、どういうわけか今回は賞をもらえました。寛い心に感謝いたします」と言っているわけで、選考委員が選考して受賞作を選んでいるという、今まで何十年も続いてきたタテマエをあっさりと壊してしまっているのでは……。

 漫画賞のオトナの事情を軽々と踏み越えて、不自然な状態をネタにしてヤラカしてでも、場を盛り上げようというのは、宣伝としてはキャッチーで、担当者として心意気があるしチャレンジングなのかもしれません。いや、「竹書房!? 破壊したはずでは…」の自社広告くらいの軽いノリなのかも。でも、竹書房だからこそできるゲリラネタと言っても、『ポプテピピック』のアレはアニメのおかげで、広く一般の方にそのメタ論法が理解されていることが前提にあるわけで。漫画賞については業界の人とマニアにしかわからない「暗黙のルール」を一般向けのオモシロ系看板に仕上げているのが、さりげに失礼なボール投げてそのまんま軌道外した感じが、正直なんとも。

 これって出版業界の雄としての看板背負っている会社としての行いなのかしら? 普通に考えて小学館のメンツがつぶれていると思うのですが、その辺はどう思っているのか……、小学館漫画賞の選考委員の方々にタテマエでご立腹されたらどうするのか……、逆に小学館に「小学館作品なのに太っ腹!!」と講談社漫画賞で言われたらどうなのか……、等々思うわけで、冒頭申し上げたように大変驚いたわけです(それにしても小学館はこの広告をどう思ってるんだろう……。よもや、大人のキャッチボールとして切り返しのネタが仕込んであるんだろうか? それだったら土下座して謝りますが)。

 まあ、こういうご時世なので、ともすればキャッチーで刺激的な宣伝に流れがちなのはわかります。耳目を集め、コミックスを一冊でも多く売るのは大事でしょう。ですが、自社や業界が長年作り育ててきた枠組みの取扱には、日本を代表する大出版社であればこそなおさら、もう少し慎重であるべきなのでは? と余計なお世話ながら思った次第です。


追伸
 日本を代表する出版社さんにもう一個苦言を呈するならば、先日のこのミスって、編集部も校了時に見落としていた? 責了後の最終確認をしなかった? いずれにしろ「製版所の方の勘違い」とだけ書く話ではないかと。製版所のミスとして責任あるとすれば、「責了後の先祖返りで、刷版しちゃった」場合だけですよね……。


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