初夢の話

眠っているのか起きているのかよくわからないそんな頭の状態で初夢を見た.
草の生えた丘を這っていた気がする.
そばをうりぼうの群れが走っていった.

丘を越えず、下る方に体が導かれるとそこに古びた東屋があった.


東屋の4本の柱の1本の根元にやせ細った老人が体育座りをしていた.

死んではいないけれど生気も感じられない.
なぜか、その老人のことをお坊さんだと思った.
激しい人生を生き抜いた人に向ける尊敬をその躯のような体に覚えた.
同時にどうしてそんなになるまで…、どうしてこんなところで…というやりきれない気持ちも湧いた.

虹色の大きなトカゲがのそりのそりと現れた.
自分の体よりも大きい異種の生き物に対して抱く、本能的な恐怖の後、
老人のことが心配になった.

トカゲが老人のそばを通りすがったその瞬間、信じられないスピードで老人の体が動きトカゲに抱き着いた.
餌を得るその瞬間だけ見せるカメレオンの舌の俊敏な動きを思わせた.
この人はこのトカゲをとらえるために最後の力を残していたのだ、と何故かわかった.

二つの生き物は東屋のほとりにある池に落ちた.
池をのぞき込むと、虹色だったトカゲは真っ白になり、老人はおらず、ピンク色のもやが残っていた.
トカゲを見て化石のようだ、と感じた.トカゲにもう生気はなかった.

「こうすることで、やっと不自由な肉体から精神が解放されたのだ」、と二つの生き物の抹消におののく私の右隣で誰かがいった.
その人は男の人で徳の高いお坊さんか何かのように感じられた.
私には怖いと思えたがこれは喜ばしいことなのだろう、と理解した.

直後、現実のドアが開く音がした.
母親が、祖父の訃報を伝えに来た音だった.

初夢が祖父と何か関係があるのじゃないか、と思い始めたのは葬儀が終わってからのことだった.
祖父はずっと寝たきりで意識がなく、自由にならない体に魂をを閉じ込められているような状態だったからだ.

うりぼうやトカゲはいったい何だったんだろう.
祖父は羊年で、その夢を見た1月2日は子年だった.
祖父が特にトカゲを愛していた事実もない.

そんな謎を抱えたまま1年と10月が経ち、祖父の遺骨を納骨した.
実家のテレビをつけるとスペインのバルセロナが移っていた.
バルセロナで名高い観光地が、サグラダファミリア、グエル国立公園の順に移っていった.
あの虹色のトカゲがいた.

スペインは祖父が初めて足を運んだ海外の地だ.
バルセロナに足を運んで長年の夢だった生のフラメンコの演奏を聴き、
サグラダファミリアやグエル国立公園で嬉しそうに写真を撮っていた.

ほどなくして、母との会話から祖父の息子である私の父の干支が猪であることを知った.

意味のある初夢だった.
さようならじいちゃん.

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