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やっさんとチャック・ベリーとBoogie

 最近、ひょんなことがキッカケでやっさんの誕生日(1944-1996)とチャック・ベリーの命日(1926-2017)が同じ日だということを知り、この偶然になんだかロックを感じた。そしてふと、イエローモンキーのある曲を思い出した。吉井さんがこう歌うやつ。

チャック・ベリーって何だ?

 それから数日間このフレーズが頭のなかで繰り返し再生されたがなかなか曲名が思い出せなくて、どのアルバムに入ってるかも思い出せなくて、音源を探せずにもやもやしていた。そしてまたふと脳内再生されたときにその直前の節に行き着き……「あ!」

♪ Honaloochie Boogie yeah ~

と、その正体がわかったのである。そうだ、Triad Years ベスト盤に入っていた。確かわたしがこの曲をはじめて聞いたのは高校生のとき、チャック・ベリーという名もはじめて聞いて、ロックのえらい人なんだな、と学習した。
 そして今回この曲が実はモット・ザ・フープルのカヴァーだったということも知り、原曲を聞いてみた。

デモもあった。

デモはかなりの部分歌詞もちがうという珍しいケースで(Spotifyの歌詞機能には反映されていない様子)、曲づくりのプロセスが垣間見られて興味深い。ちなみにはじめて聴いたときサビの最後が "You should start something" と聞こえてなんか説教くさいなと思ってしまったが、実際には

You sure started something
(君は確かに何かを始めた)

と、むしろやさしい励ましの言葉だった。
 さらに背景も調べて原曲とカヴァーを聴き比べると、また新しいことを学び、感じることができた。
 そもそもイエローモンキーのヴァージョンは1996年の『MOTH POET HOTEL』というモット・ザ・フープルへのトリビュート・アルバムに収録されていて、このアルバムを企画兼プロデュースしたメンバーのモーガン・フィッシャーがシンセサイザーとバッキング・ヴォーカルも担当したそうだ。ヘッダー画像はアルバムジャケットの一部でDiscogsより拝借したのだが、モーガン・フィッシャー本人らしき人物の(?なりすましでなければ)コメントもあった。
 
 カヴァー・ヴァージョンの歌詞は日本語で吉井さんが書いていて、大筋は原曲に倣ってロックを志す若い男を歌っている。直訳に近いフレーズも見つけた。しかしながら

Now my hair gets longer,
as the beat gets stronger

イアン・ハンター

ただだらだらと伸びる髪
さらにビートは強くなる

吉井和哉

と、ここで「ただ」「だらだら」という状態と音が重ねられていることで結構イメージが変わる気がする。英語の方でわたしの頭に浮かぶ長髪の男は、希望に満ちた胸を張って路上でエレキギターの練習をしているのに対して、日本語で浮かぶのは猫背でちょっと汚らしい男で、彼はあてもないのにロックに期待してしゃんしゃんとアコギを鳴らしている。どちらもあくまでも個人的印象なのだが、両者希望は感じられるものの後者はストレートじゃないのがイエローモンキーらしいし、吉井さんの日本語の音感・センスが滲み出ているように思う。

 それに「チャック・ベリーって何だ?」って何だ? 「誰だ?」じゃないところに当時から心地よい引っかかりがあった。きっと男はまだロックを始めたばかりで「チャック・ベリー」について何も知らなくて、でも知りたい、みたいな青い感覚をもっている。わたしも何も知らなかったので、たぶんこれに勝手に共感したのだ。
 原曲ではチャック・ベリーはこのように言及されている。

Wanna tell my news to Chuck Berry

男よ、なかなかビッグマウスじゃないか。やっぱり原曲の方が野心家感が強い。それはそれで気持ちいいのだが、歳をとって改めて吉井さんの歌詞を聴くと五臓六腑に沁みる。

社会のルールよ、すいません
いつかロッケンロールで返します

ボロは着てても心は錦 Honaloochie Boogie yeah
輝いてたいな Honaloochie Boogie yeah
今はダメでもいつか神様 Honaloochie Boogie yeah

青春は長いな

 あと、はじめの方にある

貧乏大臣、大大臣
俺は普通の日本人

という部分には洋楽コンプレックスみたいなものが表れているのだろうか、とかも勘ぐってしまった。大大臣の大の部分が英語の "Oh" っぽい音で歌われているのがまた。高校時代はただ楽しく聞いていたが、イエローモンキーが日本のロックバンドとしてすでに成功していた1996年にこれが歌われていたと思うとぐっと来る。

 編曲も絶妙で、個人的にはとりわけ原曲で「ワワワワワワワワ」とコーラスが乗る箇所が、カヴァーでは歌声の代わりにエマ氏のギターがワウペダルで「ワワワワ…」と鳴っているところが好きだ。他にも吉井さんのヴォーカルが終始ユニゾンでサビではハモりが加わるところや(ここでモーガン・フィッシャーも歌っているのだろうか)、手拍子の挿入などにも原曲の手法が反映されている。ただ、全体的にモット・ザ・フープルの音は英国的な湿っぽさや柔さを帯びているが、イエローモンキーのそれはもっとポップでどっしりしている。どちらも歌詞と音がすこし相反しているようで面白い。
 何にせよカヴァーからは随所で原曲へのリスペクトが感じられ、同時にイエローモンキー独自の色も再確認できた。

 と、結局やっさんの話でもチャック・ベリーの話でもなくなったのだが、今月は子ども時代に見たやすきよ漫才を探してみたり、20年ほど前に観たヴィム・ヴェンダース監督の『都会のアリス』(1974年)に登場したロックシンガーがチャック・ベリーだったことを思い出したりもした。

 振り出しに戻ると「ひょんな」「キッカケ」でいろいろぐるぐる思い出して、またイエローモンキーを聴き返すというループにいる。ロッケンロール大臣、疲れるけどありがとう。


おまけ
 イエローモンキーの英国グラム愛は強く、ミック・ロンソン追悼コンサートでスパイダーズ・フロム・マースと共演もしている。先日は映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が封切られ、懐かしのこの曲も思い出した。

Oh no, the same old song again
From outer space
Moonage Daydream (the same Moonage Daydream)

(懐メロ in 懐メロのマトリョーシカ)

 
 白昼夢のデヴィッド・ボウイに会いに行きたい。


最後まで読んでくださり多謝申し上げます。貴方のひとみは一万ヴォルト。