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学んだのはTPOの大切さ 風と共にゆとりぬ 朝井リョウ

私は朝井リョウと生年月日が2日違いです。もしかしたら、「将来直木賞作家になれるかもしれないルート」に2日ほど早くフライングして今の自分(本名○○○)になっているのかもしれない。もちろん、生年月日が近いまたは同じと言うだけで同じ頭になるのであれば、世の中は大変なことになっている。タレントでも作家でも実業家でもなんでもない平々凡々なサラリーマンの自分ですら「自分みたいな人間が2人もいたらおしまいだ」くらいに思っているのです。ですが、今作を読み朝井リョウ氏との大きな繋がりを得ました。

尿道カテーテル

もちろん、朝井リョウ氏とは違い自分は命の危機があったときではあるものの、あの痛みを味わった者同士というちょっと親近感が湧くエピソードを手に入れてしまった。


さて、今作ではありますが、「得るもの一切無し」というキャッチコピーの通りです。普通エッセイって、自分の経験したことから教訓だとかマインドをコピーさせたりだとかするじゃないですか。かの有名な枕草子のように、自分が見た光景を言葉豊かに表現し1000年は語り継がれる作品もあります。ですが、この本から得られるものは「こんな本を新宿のベローチェで読む34歳独身男性」というこれ以上ない虚無感です。なぜ自分は新宿という世界有数の都市で「同化体験五色キット」などという謎の物体の説明を読み、「何ですか?」という登場人物と1字1句違わぬシンクロ率100%の感想を持ったのだろう。大変悲しくなった。作中の言葉を引用するなら「死にたいー」である。

さて、先日読んだ正欲では、マイノリティだの多様性だのにグイグイと踏み込んでいく、ドロっともスカッともする朝井リョウらしさを見ました。特に、「あーそれ言っちゃうか!」という正論火の玉ストレートな言葉は朝井リョウらしいです。そういった洗練された言葉が生み出されるまでに削られていった言葉が今作に出てくるパワーワードたちではないでしょうか。料理をする時に剥かれた皮みたいな言葉達の集合体だと思います。(実際じゃがいもらしさを表すのは皮だから間違いではないのかもしれない)

「お前らが大好きな“多様性”って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねえんだよ」 (正欲)

「パスタ・ガ・マダ」

「私は今こそ、ももこメンタルを取り戻すべきなのではないか」

「死にたいー」

本当に同じ人間から出てきた言葉だろうか。ある種の人狼ゲームのように、今後「いい考えを持ってて凄い!」という尊敬の念を簡単には抱けない。もちろん、世の中の全ての人が完璧なわけないのです。でも、村上春樹から「パスタ・ガ・マダ」とか「ももこメンタル」とか言いだす未来は見えない。私自身、言葉巧みな彼であってもその引き出しの中にでっかい「尿道カテーテル」は無いと信じている。
ただ、私自身こういう「頭良すぎて頭おかしくなっちゃった」という感じが大好きです。まともなことに出力使いすぎて、本来抑えるべきヤベエ物を抑えるブレーキがぶっ壊れてしまうの。でも朝井リョウ氏は何故か同じ出力でヤベエ物が出てきている。気合いの入れどころが真面目なのもふざけてる(褒め言葉)のも同じレベルなのです。ちなみにとあるエッセイの感想で「他の方々のようにもっと真剣に生きてください」というものを受け取ったそうです。実に素晴らしい。

最近の書き方を朝井リョウに寄せてるのはそういうことです。すみません。



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