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生物の存在理由とは 『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』

隠れて楽しむ。一夫一婦制。人間の性のありかたは実は他の動物とはかなり異質。そのことが文明や社会のありかたを決めてきた!ダイアモンド教授のユニークな著。

草思社(https://www.soshisha.com/book_search/detail/1_1978)


note秋の読書キャンペーン推薦図書となっている一冊。
ジャレド・ダイアモンド著。
原題の直訳である『セックスはなぜ楽しいのか』(1999)を改題し、2013年に文庫化された。

「人間の性の在り方は他の生物と比べてかなり異質である」という問いかけから始まり、さまざまな生物と比較し人間の性がどのように進化・変化していったのかが語られている。


本書で、人間の性の在り方が独特であると述べられている理由として、以下の例などが挙げられている。

⚫︎「発情期」というものが存在しない
  =いつでも性行為を行う
⚫︎ 多くが一夫一妻制をとっている
⚫︎ 多くが子供を共同で育てていく
 ※親権が片方のみに渡ったとしても
     経済面などで援助はする
⚫︎ 女性の排卵が隠蔽されている(本人にも分からない)
⚫︎ 閉経が存在する

本書では、これらの人間独自の性の在り方はおもに少しでも多くの子孫を残す可能性を高めるために起因していると述べている。

他の多くの動物と比べて、一度に多くの人数を産むことができない、また一生にひとりが産む人数も大体限られている人間にとって、産んだら終わりではなく何年も誰かがそばに居て世話をしなければ死んでしまうような人間にとって、より確実に子孫を残せる方法が、現在の人間の性の在り方なのだ。

人間を含め多くの生物の男(オス)は、少しでも多く自分の子孫を残すため、ひとりを妊娠させた後はまた別の女(メス)を探す。
女性は複数の男性と関係を持ったところで自分の子孫の数を簡単には増やせない。
もし人間の排卵の時期が目に見えるように分かれば、男性はその時期だけ行為を行い、また別の排卵期の女性のところへと向かうそうだ。

私達の祖先である猿人は乱婚状態で暮らしていた。
女性たちは排卵期を隠すことで多くの男性と関係をもち、その誰かの子供を身籠った。
男性たちにとってその子供は自分の子供である可能性が100%ではないが、1%でも自分の子供である可能性がある場合、その子供に食べ物を与えるなどして世話をしたという。
女性たちはその中からより「優秀」な男性に、あなたが父親なのだと仄めかし続ける。
父親を繋ぎ止めて、子供が大きくなるまでしっかりと自分たちの手で育てるため、人間の女性の排卵時期は隠され、多く性行為を行う文化が残ったのだと著者は述べている。
今となっては好ましくない表現に思えるが、いわゆる「男は量を、女は質を」というやつなのだろうか。


ここまでこの本で書かれてきた人間ならではの性の在り方についてまとめたが、本書はあくまで性行為の目的を「子孫を残すこと」としている。
愛情表現であったり、(人間の場合)その一時の快感を求めてといった目的としての行為については触れられない。

つまり、何故人間は避妊をしてまでいつでも性行為を行うのか。子供を作らないパートナー関係はどうなのか。同性愛はどうなのか。などといった性の在り方については、本書内では分からないままである。
新たに現在の研究で分かっていることもあるのだろうか。

本書を読むと、「遺伝子を残す」「継承していく」ということは、私達生物の使命であり生きることの目的なのだと思える。
実際、生物の中には性行為を終えた時点、卵や子供を産み落とした時点でその寿命が尽きるものもいる。
では、もし自分がそれを成し遂げなかった場合、私という個体の存在理由は、自身の人生は何なのだろうか。
私の肉体は何かを後世に残すための媒体なのだろうか。
そんなことも、ふと考える一冊である。

ピラミッドの頂点に立っているように見える人間だが、本書でこのように他の動物と比較しながら語られる様を読んで、やはり人間も同じ動物なのだと再確認した。


おまけ

イタリアの楽しい映画
『セックス発電』(1975)

エネルギーが枯渇した近未来でも役立つので、やはりいつでも性行為をするように進化しておいて正解だった模様。
終始笑えるディストピアだが、ラスト10分くらいで急に哲学的になり社会風刺に切り込むところがミソ。
ちなみに2037年が舞台なのでそう遠い話ではない。
これはこれでSDGs。


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